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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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36.隣国の視察

 狩りから帰ってきてドミニクと別れたリーゼロッテは、食材をしまってリンゴ酢を作る、いつもの作業を終えた。

 その後すぐに神殿に向かってガートナーを探す。


 神殿前にも、祭壇前にもガートナーの姿が見えない。


「あっれー?

 ――ねぇ、ガートナーさんはどこ?」


 話しかけた神官が応える。


「あー、ガートナーなら、今は畑に出て魔法を使ってるよ。

 すぐに帰ってくるはずだ」




 しばらく待っていると、へとへとに疲れたガートナーが祭壇前に戻ってきた。


「ガートナーさん、お疲れ?」


 リーゼロッテの姿を認めたガートナーが、気怠そうに頷いた。


「そりゃあ、俺たち魔法を使える魔導士や神官は休みなしだ。

 いい加減倒れちまうぜ――

 だというのに、ヴィクターのやろう『まだ国王の教育が終わってない』とか言って現場に来ねーし!」


「そっか、そんなに忙しいんじゃ、ガートナーさんを連れて隣国の視察なんて難しいかな……」


 リーゼロッテの一言に、ガートナーが反応を示した。

 鋭い目つきでリーゼロッテの目を見据える。


「視察?

 どういう事だ、言ってみろ」


「私は今朝、最後の集落を解放してこの国の集落全てから魔族を掃討し終わったのよ」


 ガートナーが快哉を叫んだ。


「すげーじゃねーか!

 やっとこの国が魔族から解放されたってことだろう?!」


 リーゼロッテが苦笑する。


「それは私が統治者として居座ってるから、胸を張って言える事じゃないけどね――

 ともかく、時間が空いたから何をしようかと思ったのよ。

 国内と国外、どちらから先に手を付けようかと思って」


 ガートナーが頷きながら応える。


「なるほど、国力の回復もしたいが、隣国の窮状も確認して、厳しいようならそちらの魔族を掃討に走るつもりなのか」


「そういう事。

 数日なら、毎朝の狩りの時間を省いて視察に向けられる。

 昼間の間に視察をして、夕方に戻ってくる感じかな?

 どこから見て行くかとか、今がどんな状況なのかを一緒に判断してくれる同行者が欲しいのよ」


「本来ならヴィクターが適任だが、あいつは今『教育』で手が離せないらしいしな……そこで俺か。

 まぁ悪くない人選だ。

 それで、いつから行くつもりだ?」


「ガートナーさんの都合が良ければすぐにでも」


 ガートナーが腕組みをして考え出した。


「大陸南西部は神魔大戦で小国が飲み込まれ、大きな三つの王国で構成されている。

 小さな国家はまだ残ってるが、領地同然の属国ばかりだから考えなくてもいいだろう。

 そこら辺の知識はあるか?」


 リーゼロッテは頷いた。

 ヴィクターから、大陸南西部に関する知識は少しずつ教わっていた。



 大陸南西部を構成する三つの王国。


 東部を占めるラスタベルト王国。

 大陸随一の大穀倉地帯と広大な森林地帯を抱える国。

 海に面している上に、わずかな鉱山もある、とても資源に恵まれた国だ。

 大陸南西部における陸の玄関で、神魔大戦までは交易でも栄えていたらしい。


 南西端を占めるヴェローナ王国。

 漁業や海運業で栄えた海の国。

 大陸各地を結ぶ、大陸南西部の海の玄関。

 大型船舶を造船する技術は、大陸南西部ではこの国にしかない。


 北西端を占めるカリアン王国。

 エッセングル山脈に隣接した、鉱山の国。

 希少な高原植物なども名産品としてあるらしい。

 森林地帯もそれなりに抱えているが、逆に平野部が少なく農地が乏しい。


 この三つだ。

 産業もこの三国で構成されているので、この三国が蘇生すれば大陸南西部は回復したとみなしてよい。



 小国はいくつかあるが、元々人口も少なかったらしいので、蘇生はもう絶望的だろう。

 属国化してるなら、そのまま宗主国の一領地になる未来しかない。

 残っている集落があれば、宗主国に管理を任せるのが良さそうに思えた。


 どの国をどんな魔族が支配しているのかは、ヴィクターなら知っているかもしれないが、リーゼロッテはそこまで把握していない。

 だが力が強くても侯爵級か公爵級程度。

 リーゼロッテにとって脅威とは呼べない。



「公爵級を『大したことがない』と言えるのは、お前ぐらいだろうよ」


 呆れたようにガートナーが呟いた。


「だって相手が力を出す前に弱点を撃ち抜いてしまえば、それで終わるし……」


 人間には魔族の弱点の位置を知る能力がないので苦労するのだが、魔族であるリーゼロッテには丸見えだ。

 そこに『回避不可能、防御不能の魔力の矢』を浴びせるだけで事が済む。

 実に簡単な作業だ。


「『回避不可能』ってのは実際に見たから速さは分かる。

 だが『防御不能』ってのはどういう意味なんだ?

 並の公爵級が防御不能ってことだろう?」


「防御結界ごと撃ち抜く強さで魔力の矢を放つだけよ?

 並の公爵級を滅ぼす時だと……一撃で王都一つを丸ごと飲み込んでもまだ溢れる威力の術式と同等の魔力、と言えば分かるかしら?」



 魔族が街を吹き飛ばす時は、広域攻撃術式がよく使われる。

 魔力を効率的に破壊力に変換する術式だ。


 一方でリーゼロッテの魔力の矢は、ただの初級魔導術式。

 魔力を矢の形でぶつけるだけで、純粋な破壊力に変換すると範囲も狭いし、大したことはない。

 衝撃波を生み出す訳でもない。

 せいぜい遠くまで穴が空く程度だ。

 リーゼロッテは弱点に着弾したときに魔力が破裂するようアレンジもしているが、それでも有効範囲が極めて狭く、部位を吹き飛ばすのが限界だった。


 ただし一本の矢の形にリーゼロッテの強大な魔力を圧縮した上で射出している。

 結果として貫通力が異常に高い狙撃になる。

 これを高速展開する初級魔導術式で行うのがリーゼロッテの得意技だ。


 リーゼロッテは単に魔力を叩きつけているだけ、とも言える。

 魔王級の魔力出力を背景にした、力技の極致だ。


 魔族には有効だが、破壊を目的とするなら向いていない。

 魔族粛清に飛び抜けて特化した技だった。



「……あの夜、四十体近い魔族を滅ぼした時、王都四十個を丸ごと飲み込める魔力を連射してたってことか?」


「個体ごとに強さを調整していたからちょっと違うけど、大雑把に言えばそういう事になるわね。

 放つのは純粋な魔力の矢だし、減衰して威力が消失する強さにしてあったから、見た目には大人しいものだったでしょう?」




 ――何故かガートナーさんはしばらく絶句していた。何故だろう?

 魔王の娘、もしかしてまだ侮られてる?

 魔王の、娘だよ?

 魔力の強さ、魔王級なんだけど?

 なんでみんな、そんなに私の事を侮るのかなぁ。

 やっぱり見た目か。威厳、威厳が欲しい……。




 ようやく気を取り直したガートナーが咳払いをして話を続けた。


「そんなに簡単なら、下見ついでに滅ぼしてしまう方が早いかも知れないなぁ」


「さすがに消滅して回るならそれなりに消耗するし、三百人の子供たちから感情を食べてるとしても、それじゃあ十が限界よ?

 下見だけならもっとずっと多く見て回れると思うけど」


「だが、その十が限界ってのは殲滅するのが前提だろう?

 その場の支配者級に限った場合ならどうだ?」


「それなら……三十くらいまでは増やせるかもね。

 姿を見せて警告もしておけば、残党の動きも少しは牽制できるかな?」


「ふむ……なんて警告をするつもりだ?」


「私の神気混じりの瘴気を見せつつ、『新しい執政官よ』とだけ名乗っておけば迂闊に動けなくなるわ。

 粛清部隊である私の神気と、正の感情を食べる特性は魔族の間で有名だもの。

 隠遁魔法を使って突然現れて、その場で最も強い個体が理由なく一瞬で滅ぼされたら、彼らは私の怒りを買わないよう派手な動きができなくなるんじゃない?」


 ガートナーさんが顎に手を当てて考えている。


「……エグイな。

 確かにそれは動きを封じられる。

 お前の特性を知って居れば知っているほどな。

 牽制としては十分すぎるだろう。それでいこう」


 リーゼロッテは『エグイ』と言われて首を傾げていた。


 こうした光景は魔族の世界ではよくあるものだった。

 リーゼロッテの感覚もブラッディ&バイオレンスの日々でそんな世界に嫌でも浸り続けているうちに、魔族寄りに狂ってしまっているのだろう。

 その事にも無自覚なので、本人はひたすら首を傾げるばかりだ。


 ガートナーが更に言葉を続けた。


「それで、どっちから先に見て行くんだ?

 海のヴェローナか?

 山のカリアンか?」


「先に手を付けるとしたら、海運を蘇生させる事の方が優先度は高いと思うしヴェローナじゃないかしら。

 カリアンは鉱山の国。

 それはそれで重要だけど、生活基盤がある程度安定してこないと鉱石を掘っても活かせないわ」


「確かに、海に漁に出られれば食料が増えるからな。

 魔族は海で生息できるのか?」


「地上の生き物なのよ?

 水中や水上で生活するには術式の力が必要で、常に魔力を消費していたら普通は衰弱死するわ」


 離島に住む人間の傍にはいるかもしれないが、少人数では生き残っている目も少ない。

 生き残っていても、そこまで支援の手を差し伸べるのは現状では難しいだろう。

 今は離島の事は一旦忘れ、海上の魔族は居ないものとして考えてよいように思えた。

 海に居る脅威は、魔物化した海洋生物だけ、と言う事になる。


「海の浄化なら、それも月の神の領分だ。

 森と同じ程度に相性が良い。

 範囲次第だが、一旦浄化してしまうのもありかもしれないな。

 そこは月の神と相談してから決めると良いだろう」


 月の神は『森の神』で『海の神』でもあるらしい。

 そう考えると、豊穣の神に並ぶくらい人々の生活に密接な神なのだろう。


「月の神って実際、どのくらい格が強い神なの?」


「神々でも屈指、上位五名には確実に入る。

 最高神である創世の神は通常番外として考えるから、そこには入らないけどもな」


 リーゼロッテは小首を傾げた。


「何故入らないの?

 最高神だから一番なのが当たり前って事?」


「創世の神は『裁きの神』だ。

 人間の死後に関わる神でもある。

 そしてそれ以外には関わってこないから、実際どのくらいの力を持つのかわからないんだ。

 神殿もないから、奇跡を祈りたくても加護は得られない。

 つまり、その魔力や魔法を見る事もない。

 推測すら不能、だから番外なんだ」


 かなり変わった神だろう。

 最高神と呼ばれ、月の神でも頼み事を断れないほどの存在。

 だが人間に関わるのは死後のみ。

 それでは確かに、推測もできない。


「じゃあ、屈指の神っていうのは他に何が居るの?」


「豊穣の神、月の神、草原の神、知識の神あたりが定番だな。

 順位は人それぞれだし、五柱目に上がる名前もまちまちだが、その四柱はだいたい五柱内に名が上がる。

 上位四柱と考えて良い」


「草原の神ってのは初めて聞く名前ね。どんな神?」


「信徒の話じゃ、『風の神』であり、『噂の神』であり、『言葉の神』だ。

 意思伝達を司る神って事だな。

 人間にとって密接な神であることは間違いない」


 ――名前だけじゃわからないことが多いんだなぁ。


「月の神が居るなら、太陽の神が居るんじゃないの?」


「明確にその名を持つ神は居ないが、豊穣の神が『太陽の神』の側面を持つ。

 むしろ、天体の名を持つ月の神が異端なんだ。

 屈指の神々の中でも、無慈悲な神は月の神ぐらいだし、あの神も神々の異端の一柱だな。

 魔族の異端であるお前に寵愛を与える神としては、相応しいと言えるのかもしれん」




 ――相性が良いってのは、そういう私の在り方とも繋がってくるんだろうか。

 創世の神の意志で作られた私の在り方は、結果的に月の神ととても相性が良い在り方を持つようになった。

 それを運命と呼ぶのならば、きっとそうなのだろう。

 卵が先か鶏が先か、という話でしかないのかもしれないけれど。




「じゃあヴェローナから順次見て行って、カリアンまで、主要な都市に絞って回っていきましょうか。

 どれくらいかかると思う?」


「ミネルヴァを使うなら、各国二週間前後で一か月足らずってところじゃないか?

 どうせ主要な都市といいつつ、全体も上空から見て回るんだろう?

 一日最大三十で二週間もかければ、国全体の様子はおおよそわかるはずだ」


 リーゼロッテは自分の行動を読まれ『さすがガートナーさんだなぁ』と驚いていた。

 驚くのは本人くらいではあるのだが。

 『リーゼロッテならそれくらいするだろう』と、彼女を知る者なら誰でも予想が付く。


「海の浄化をして、野盗みたいな存在が蔓延はびこったりしない?」


「海賊が暴れる事にはなるだろう。

 それを恐れるなら、海の浄化は後回しが良いな。

 魔物は無法者の存在も許さない。

 魔物で生活できないのも、盗賊で生活できないのも、結果は変わらん。

 自衛できそうになく、すぐに救いの手を出せないのであれば、浄化は力の無駄遣いになる公算が高い。

 それなら我慢した方が良いだろう」


 伯爵級の眷属を置いていっても、高位貴族級魔族なら簡単に処理できてしまう存在だ。

 魔族の掃討を開始しないのであれば、眷属が倒されてしまうのは避けられないだろう。

 護衛を残すだけ、魔力の無駄遣いとリーゼロッテは判断した。


「じゃあ下見したときに有力な魔族だけをその場で滅ぼして、警告を残して姿を消す。

 これを繰り返す事になるのかなぁ?」


「そうやって魔力を温存して、下見する数を増やした方が良いだろうな。

 お前の魔力も無尽蔵じゃない。

 そこは考えて我慢しながら進めよう」


 ――我慢、我慢かー。苦手な言葉だ。


 だが結果を得たいなら耐え忍ぶ局面だ。

 ここで焦っても、リーゼロッテの時間が増える訳ではない。

 今、手元に居る人間たちを優先しなければ、建て直しが軌道に乗り始めたラスタベルト王国すら再建がとん挫しかねない。


「ガートナーさんの仕事は問題ないの?」


「優先度というものがある。

 足元を固めるのも大事だが、こちらは代理で動ける人間も居る。

 何より、他の国を救えればその方が後々この国の為にもなる。

 今打っておくべき手なら、打つべきだろう――

 一か月という期限があるから出来る事ではあるがな。

 その後はしばらく、埋め合わせで俺も忙殺される」


「魔導士や神官の育成も急務よね……

 子供たちの半数は、成長後こちらに回した方が良いのかしら」


「適性が必要な職業だ。

 全員に加護を与えてみて、適性のある個体は優先的にこちらに来てもらう。

 逆に力仕事であれば、適性はほとんど関係がない。

 残りはそちらに回ってもらう形だろう。

 魔法が使えるという事がどれだけ有利なのかは、お前も実感しているはずだ」


「となると、結果的に戦士になれる個体は減ってしまうのかしら?」


「当面はそうかもしれんが、魔王が視察に来る時期が近付いた段階で戦士の訓練に回す人数を増やす事になるだろう。

 どちらにしても、魔法は使えるに越したことはない。

 魔法が使える個体の中で魔導士と戦士、どちらに適性があるかを見て行って振り分ける事になるが……

 いつ頃魔王は視察に来ると思う?」


 魔王が視察に来る時期――


 検体を欲し、味見をしたがっていた。

 早ければ第二世代の成人直後、六年後辺りの可能性がある。


 二世代、六年で迎撃態勢を整えるのは、かなり苦しいように思えた。



 ガートナーも難しい顔になった。


「最短で第二世代、六年後か……確かに厳しい現実だな。

 伸ばせればもう一、二世代は伸ばしたいが、魔王も首を長くして待ちわびてるはずだ。

 簡単には頷かないだろう。

 最短六年で計画を立てておくしかないな」


「そうね――それじゃあ、早速ミネルヴァで出かけましょうか!」


「ちょっと待て!

 先に指示を出してくる」


 リーゼロッテはガートナーが指示を出し終わるのを待ち、それからミネルヴァに乗って海の国、ヴェローナ王国へ向かって飛び立った。


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