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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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26.早朝の襲撃者

 翌朝、子供たちとの朝食を終えて自宅に戻ったリーゼロッテが狩りの支度をする――と言っても、新たに蜂蜜の瓶を一つ用意するだけだ。

 ドミニクが手配してくれたのか、自宅には手ごろな大瓶が届けられていた。

 どうやら伝手を使って空き瓶を収集したらしい。

 リーゼロッテは、それらを毎日一つずつ埋めていくつもりだ。


 さて出掛けようかとリーゼロッテが扉を開けると、家の前の道で辺りを見回している貴族風の少女の姿があった。


 ――少し場違いだな。


 侍女を一人連れたその少女は、リーゼロッテを見るとパッと顔を綻ばせた。


「フードを目深に被った女の子――

 あなたがリズ殿下ね?」


 金髪碧眼、どことなく国王やヴィルケ王子にも似た空気を持つ少女。

 だがリーゼロッテの記憶にはない。

 リーゼロッテはおずおずと尋ねる。


「えっと……

 あなたは誰かしら?

 記憶にないから、会った事はないはずだけど?」


 彼女は淑女の礼を見せる――見かけ通り、高貴な血筋の人間らしい。


「失礼いたしました。

 ラスタベルト王国第一王女、イェルクと申します。

 今日は蜂蜜のお礼を述べたくてやって参りましたの」


 リーゼロッテはポンと手を打った。


「ああ、あなたがヴィルケ王子の妹さん?

 病弱と聞いた割に、血色が結構いいわね。

 そこまで不健康には見えないわ」


「蜂蜜を食べたおかげじゃないかしら?

 あれを食べるだけで、身体の奥から力が漲ってくる感覚があるくらいですもの!」


 いくら滋養が高いとはいえ、昨日の今日。

 そこまで効果てきめんとは思い難かった。


 イェルク王女は続けて言葉を告げてくる。


「折角ですから、少しお話をする時間を頂けませんか?

 一時間程で構わないんです」


 ――え?! 今から?!


「えっと……

 私はこれから森に食材を調達に行かないといけないんだけど……

 その後は近隣の街を見回るし、家に戻ってくるのは夕方になるわよ?」


「ではそれにご一緒させてください!」


 ニコニコと微笑みながら、我を通そうとする王女。

 リーゼロッテは、手に負えない手強さを感じていた。

 決して自分を曲げない、ヴィルケ王子と同じ空気だ。


 ――多分、断るだけ無駄だろうなぁ。


 リーゼロッテは深い溜息をついた。


「わかったわ。

 でも約束して。

 私の言葉には必ず従う事。

 それと私の傍から離れない事。

 この二つよ」


「わかりました!

 でも侍女の同行は許して頂けませんか?」


「……ええ、分かったわ」


 言っても無駄だろう。

 リーゼロッテはミネルヴァに飛竜に戻ってもらい、その背に飛び乗った。

 ミネルヴァの上から浮遊術式で、王女と侍女をミネルヴァの背に乗せる。


「ちゃんと座ってて。

 そうすれば落ちる事はないわ」


 返事も待たずミネルヴァが空に飛び立ち、白銀の流星が反魔族同盟の拠点の前に降り立った。


「そこで待っていて!」


 王女たちをミネルヴァの背に残し、リーゼロッテは反魔族同盟の拠点の扉を叩く。


 いつも通りドミニクたち狩人が顔を出した後、ミネルヴァに乗ろうとして驚いていた。


「なんで王女がここに居るんだ?!」


「私に聞かれても困るわ。

 朝、出掛けようとしたら家の前に居て、付いて行きたいとごねたから連れて来ただけよ――行くわよ」


 ドミニクたちはまだ何か言いたそうだったが、それに構わずミネルヴァは飛び立ち、白銀の流星がアンミッシュの森へ向かった。





****


 ミネルヴァから降りる時も浮遊術式でイェルク王女と侍女を降ろし、ミネルヴァは再びフクロウとなってリーゼロッテの肩にとまる。

 そんなミネルヴァの姿を、イェルク王女は興味津々で眺めていた。


「不思議なフクロウですのね……」


「この子は飛竜、フクロウは仮の姿よ――

 二人は私に付いてきて頂戴。

 防御結界が張ってあるから、身の安全は保証してあげる」


 リーゼロッテはドミニクたちといつも通り別れ、彼らから少し離れた群れに向かう。


「狩りをするのに道具は使わないのですか」


「魔力で済ますから他は要らないのよ――

 こんな感じにね」


 手近な鹿の群れに向かって矢を斉射し、たちまち数頭を屠っていく。

 そのまま倒れた獲物に近づいて手際よく捌き、食肉の姿へ変えていった。

 その様子も、イェルク王女は興味津々で眺めていた。


「こうしてお肉になるんですね……

 初めて見ました」


「まぁそうでしょうね。

 食卓に並ぶ姿しか、普通は目にしないもの……

 でも、『可哀想』とか『残酷』とかは言わないのね」


 イェルク王女はきょとんとした顔で尋ね返してくる。


「動物の命を食べているのは、当たり前じゃないですか。

 私たちが生きていく上で必要だから殺して食べる。

 その命を無駄にしている訳でもないのに、何が可哀想で残酷なのか、私にはさっぱりわかりません」


 それはリーゼロッテにもわからない事だった。

 『そういう感性をした人間の個体が居る』とか『若い女性や子供に比較的多い傾向がある』ぐらいの事を魔族の知識で知っているだけだ。

 そういった魔族の知識や、これまで見てきた人間と比較しても、イェルク王女はかなり個性的な感受性を持っているように思えた。


 リーゼロッテは苦笑を浮かべる。


「じゃあ、イェルク王女は魔族に対してどう思うの?――」


 魔族だって自分たちが生きるために人間の感情を食べて生きる。

 人間を虐げた時に生まれる感情が、普遍的な魔族の食べ物だ。


「――食べられる側として、あなたは魔族に何を想うのかしら?」



 イェルク王女は小首を傾げて考えているようだった。


「……それが魔族が生きていくのに必要なのであれば、それは仕方がない事なのではありませんか?

 食べられる側として必死に抵抗いたしますが、それが残酷な行為かと言われると疑問に思います。

 命を無駄にしていない限り、その行為は非難されるべきではないように思うのです」


 リーゼロッテは呆気に取られてイェルク王女を見つめた。

 この王女は自分が被捕食者だと自覚した上で、その行為は残酷ではないと認めた。


「あなた、とても不思議な人間の個体ね。

 そんな認識を持つ人間はとても珍しいはずよ」


 イェルク王女は微笑んで応えた。


「ええ、よく言われます。

 私は変わり者なのだそうです。

 だからなのか、この時代のせいなのか、十六になっても私には許嫁すらおりません」


 通常の王族なら、とっくに許嫁が居る年齢だそうだ。


「お兄さん、ヴィルケ王子には居るの?」


「いいえ?

 お兄様も二十一ですが、未だに許嫁ができた試しもありませんね。

 私たち二人は王家の後継者問題の種として、よく槍玉に挙げられるそうですよ?」


 ほわほわと柔らかく微笑むイェルク王女を、リーゼロッテは唖然と見つめていた。


 ――この国、大丈夫なんだろうか。


 国王が後継者について神経過敏に見えたのも、この子供たちのせいかもしれない。



 リーゼロッテはそのまま、いつも通り五十頭ほどの獲物をしとめた後、蜂蜜の採取に向かう。

 今度はイェルク王女が悲鳴を上げた。


「虫?! 虫は駄目です!

 無理です!」


「防御結界で守ってるから大丈夫よ。

 怖ければ目を瞑って居なさい」


 リーゼロッテが振り向くと、侍女も蒼い顔で蜂の大群に集られている。

 王女は目を瞑り耳を塞いでいるが、みるみる顔色が悪くなっていく。

 侍女も王女を守りたいのだろうが、余りの数の蜂を相手に足がすくんで動けないようだ。


 ――このままだと、王女が倒れかねないな。


 リーゼロッテはその場で興奮する蜂たちを全て眠らせ、踏まないように魔力の箒で隅に寄せた。


「これでいいかしら?

 踏み潰さないように気を付けてね」


 恐る恐る近づいてくる王女が、巣から蜂蜜を瓶に落としているリーゼロッテの様子を再び興味津々で眺めている。


「あの甘い蜜は、こうやって採取するのですか」


「そうよ。

 あのミツバチたちが花から集めた甘い蜜を、熟成させたものが蜂蜜だそうよ。

 怖がるどころか、感謝する生き物よ」


 瓶の中の蜂蜜に落ちた欠片も魔力で綺麗に拾い上げた後、蓋をした。


「今は私ぐらいしか採取しに来れる人が居ないけど、近いうちに人間もこの森にやってこれるよう整備するわ。

 そうしたら他の王都市民も蜂蜜を食べられるようになるんじゃないかしらね」


「独り占めし続けようとは思わないんですか?

 今の状態を維持すれば、リズ殿下はこうして簡単に採取できる物で、お兄様や兵士たちから多大な感謝を巻き上げる事ができるのでしょう?」


 リーゼロッテは驚いて振り向き、イェルク王女の目を見た。

 そこに悪意はなく、純粋な疑問だけが浮かんでいた。

 悪臭も一切ない。


 ――案外、頭が回る子なのかしら。


「そんな事に私は価値を見出した事がないわね。

 王都市民が特に苦労なく食肉や蜂蜜を口に出来るようになるのが私の求めるところよ。

 それでこそ幸福で豊かな生活と言えるんじゃない?

 今の生活は、とても幸福な生活とは言えないわ。

 まだまだ街には負の感情が渦巻いている。

 一か月前よりはずっとましだけれどね」


「リズ殿下が求めるものの姿がよく分かりません。

 リズ殿下は魔族なのですよね?

 正の感情を食べる魔族だとは聞きましたが」


「私は正の感情、特に愛と歓喜を好む個体よ。

 それも私に向けられたものは特に美味しく感じるわ。

 今ではほとんどそれしか口にできないと言ってもいい。

 贅沢な話だけれどね」


 イェルク王女がポンと手を打った。


「ああ、それでリズ殿下に生贄を捧げると言う話に繋がるのですね!

 あなたに愛と歓喜を捧げるよう、平民に義務付けた。

 お父様ったら、人を人とも思わない事を言い出すのね」


 リーゼロッテは苦笑で返す。


「そうよ?

 私は魔族。

 その中でも最も卑しく、悍ましく、忌まわしい個体。

 人間を強制的に私に愛を捧げる個体に変えてしまう魔物よ。

 一度囚われたら、もうそこから逃げる事は神の奇跡でも不可能よ。

 それを義務付けるなんて、確かに国王は人でなしの類ね」


「その魔性を使わずに愛を捧げさせればよいのではないのかしら?

 そうすれば相手には選択権が残るわ」


「私の食糧は最低でも一日十人の感情を必要とするわ。

 それだけの人間に愛を捧げさせ続けるなんて普通は出来ないし、できなければ私は飢え死にしてしまう。

 私が生きる上で、私の魔性に堕とすのは必要な事だと私は認識しているわ」


 そうしなければ死んでしまうのだから、リーゼロッテにも選択肢はない。


 リーゼロッテが言葉を続ける。


「選択肢を与えたいけれど、そんな事を知って居れば拒絶されるのが当たり前。

 私にできるのは、魔性に囚われた人間がその事をなるだけ後悔しないようにしてやる事ぐらいね。

 でないと感情の味が落ちてしまうもの」


 イェルク王女がきょとんとした顔で尋ね返してくる。


「リズ殿下?

 前半と終盤で主張に乖離が見られるわ。

 どちらがあなたの本心なのかしら?」


 ――乖離? そんな矛盾を言った覚えはないんだけど。


「王女の言いたい事がわからないわ。

 何が言いたいの?」


「前半は囚われてしまう人を思いやり、その人に罪滅ぼしをするかのような事を言ってらしたのに、最後は取ってつけたように『味が落ちるから』なんて理由を口にしたわ。

 リズ殿下の本心は、いったいどちらにあるのかしら?」


「……そんな事、言うまでもないでしょう?

 私は魔族。

 自分の為にしか行動しない個体よ。

 相手を思いやって見えるとしたら、それは幻想。

 全ては私が生きる為に必要だからしている事に過ぎないわ」


 イェルク王女がニヤニヤと笑みを浮かべた。


「なるほど……

 おおよそ把握しました。

 直にお話ができて良かったです。まだ狩りを続けられるのですか?」


 リーゼロッテはため息をついて応える。


「あなた、意味がわからない子ね――

 もう狩りはおしまい。

 ドミニクさんと合流するわ」



 ドミニクたちと合流すると、今度はイェルク王女はドミニクと会話をしだした。


「リズ殿下は、前からああなんですか?」


「……ああ、最初からずっとあんな感じだ。

 王都にやってきた時からな。

 人間に対して嘘はつかないし、誠意ある言動を常に尊ぶ人だ。

 おそらく魔族相手にも同じだったと思うぞ」


 ドミニクは、リーゼロッテが王都に来た初日、喫茶店に居た一人だ。

 ラフィーネやガートナー共々、この街では最も付き合いが長い人間の一人と言える。


「ああ、それでお父様を軽蔑してらっしゃるのね。

 お父様は誠意からはだいぶ縁が遠い人ですもの。

 リズ殿下が嫌う人種なのね」


 リーゼロッテが好意を持てない人間なのは確かだろう。


 王女と対等に話すドミニクを侍女が窘める。


「狩人如きが王女殿下と対等に言葉を交わすなど、身の程を知りなさい。

 平民は平民らしく、相応しい言葉を使いなさい」


「おや、そいつぁ悪かったな。

 育ちが悪いんで、そんな言葉遣いなんざ俺は知らん。

 不満なら王女に俺と話さないように言い含めておけ」


 その様子を見たリーゼロッテはクスリと笑っていた。


 ――敬語を使ってるドミニクさんなんて、想像できないしね。


 そんな微笑んでいるリーゼロッテの姿も、イェルク王女は観察しているようだった。


 森から出たリーゼロッテたちはミネルヴァの背に乗り、白銀の流星が王都に向かって飛び立った。





****


 ドミニクと分かれ、リーゼロッテたちは自宅の庭に降り立った。


「今日はとっても有意義な一日でした!」


 だが発言したイェルク王女の顔色が悪い。

 それに気付いたリーゼロッテが、慌てて体調を解析していく。


「イェルク王女あなた……

 栄養不足じゃない!

 王宮に居て栄養不足だなんて、どういうことなの?」


 ――イェルク王女が『病弱』と言われる理由、ほとんどは恐らく栄養不足だ。


 少なくとも、今現在出ている症状は栄養を補充すれば治るものばかりだった。

 特に貧血が酷いが、今の配給で効果的な食材に思い当る物がなかった。


 これはおそらくイェルク王女の体質だろう。

 栄養不足になりやすく、それが体調に現れやすい体質をしているのだ。


 ――そりゃあ蜂蜜舐めるだけで元気になるわ……。


 イェルク王女はきょとんとした顔で小首を傾げていた。


「私はきちんと食べておりますよ?

 ですが王宮と言えど、今現在は贅沢を言えぬ時期ですから」


 四千人を受け入れてしばらくは、供給が増えるまで配給が減らされる。

 今のイェルク王女がそんな目に合えば、余計に体調が悪化するのは目に見えていた。


 リーゼロッテはイェルク王女の鼻っ面を指差し命令した。


「あなた!

 当分は我が家に逗留しなさい!

 これは執政官としての命令、逆らう事を人間には許しません――

 ラフィーネ!

 ちょっと来て頂戴!」


 リーゼロッテは急いでラフィーネを呼びつけた。


「どうしたの?

 リズ。あなたが私を呼びつけるなんて珍しいわね」


「しばらくイェルク王女を我が家に逗留させるわ!」


 イェルク王女の夕食と逗留の準備を、次々とラフィーネに指示していく。

 部屋はリーゼロッテの部屋を割り当てた。

 魔族であるリーゼロッテに、ベッドなど不要なのだ。


 玄関口で唖然としているイェルク王女と侍女に、リーゼロッテは改めて指示を伝える。


「侍女のあなた!

 今すぐ王宮に戻って逗留の準備をして来なさい! ――」


 期間は最低でも一か月。

 こちらも次々と指示を飛ばしていった。

 リーゼロッテは『きっとあなたが同伴するのでしょう?』と一名だけ同伴を許した。


「――私はこれから王女の体質に効果のある食材を聞いて、それの調達をしてくるわ。

 あなたは何か心当たりがあるかしら」



 侍女が戸惑いながら記憶を漁っているようだった。

 だが『私にはわかりかねます』と頭を下げていた。


「別に構わないわ。

 狩人なら何か知っているかもしれないし気にしないで――

 じゃあラフィーネ、後を任せたわよ!」


 リーゼロッテは急いで食材をしまった後、再びミネルヴァの背に乗って反魔族同盟の拠点に向かった。


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