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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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23.月夜の魔王対策会議2

「ともかく、私に成功報酬があるということは、一応納得してあげる。

 魔族を滅ぼさない為にお父様を滅ぼさなければならない――これも納得して決断してあげる。

 問題はそれが可能なのか、という事よ」


 リーゼロッテはガートナーを見据えて問うた。

 ガートナーは腕を組みながら考える。


「このままリズがこの国を立て直していけば、人間側にその準備はできるはずだ。

 少なくとも、月の神の加護を扱えるようになったリズなら、魔王を上回る事は充分可能だ。

 リズを主軸に動くことで、魔王を打倒する力に到達することはできる」


「用心深いお父様に、どうやって近づくの?

 その真の姿すら、私は見せて貰えた事がないのよ?」


「その事だがリズ、お前の最古の記憶に関して聞いておきたいんだ。

 お前の最古の記憶、その場にいたのは魔王とヴィクター、そして宰相だったな?

 間違いないか?」


 リーゼロッテはゆっくりと頷いた。

 リーゼロッテにとっても印象深いその光景――今でも鮮明に思い出せる。


「ええ、間違いないわ。

 荒れ果てた魔王城謁見の間に、私は一糸纏わぬ姿で生まれ落ちた。

 気が付いた時には目の前にヴィクターが跪いていて、その背後には深い闇のようにわだかまる瘴気を纏ったお父様と、魔族の宰相がいつもの優しくて酷薄な微笑みを浮かべていたわね」


「……恐らく、ヴィクターと魔王が熾烈な死闘を繰り広げた直後だろう。

 その認識で間違いなさそうか?」


「そう言われると、自信がないけど……激しい戦いの直後の空気が残っていた。

 ヴィクターの憎悪や敵意の残り香さえ感じられたほどだから、多分間違いないわ」


 ガートナーが頷いた。


「ならば、そんな場に魔族の宰相が居た事についてどう思う?」


 ――どう思うか?


 リーゼロッテが今まで考えたことがなかった事だ。


 だが、場違いに感じていた。

 魔力が弱くて頭が回るアーグンスト公爵が、あれほど謁見の間が荒れ果てるほどの戦闘の場に居た。

 その事に説得力を感じなかった。


 ヴィクターは魔王に手傷を負わせた戦士。

 公爵級最下位ともいえるアーグンスト公爵では、ヴィクターに力が及ばない。

 魔王の戦闘を補佐をしようといても、あんな弱い個体では逆に邪魔になるだけだ。


「とても場違いね。

 何故あの場に居たのかしら……その理由が思いつかないわ」


「やはりか……その宰相はどんな奴だ?」


「公爵級でも弱い魔族よ。

 その代わり頭がとても回る個体ね。

 二十年前から現在まで、宰相の地位を守り続けているくらいですもの。

 魔族が嫌う書類仕事を一手に引き受ける変わり者でもあるわ。

 いくつもの文官役職を兼務して、実質的に魔王軍を取り仕切ってると言える魔族の個体よ。

 人間の増産と出荷の計画も、おそらく発案は宰相のはず。

 お父様はいつも、彼の案を承認するだけだったわ」


 ガートナーの片眉が跳ねあがった。


「なんだ?

 その増産と出荷とかいう、聞き捨てならない計画は。

 詳しく話せ」


「一言で言えば、この大陸南西部に人間という家畜の生産工場を作る計画よ。

 私が人間国家をこの地方で建て直せば、自然と人間が魔王軍に攻め入らざるを得なくなる。

 その出征を出荷と呼んだのよ。

 私が増産の手を緩めても、お父様が直接この地方に襲い掛かってきて人間を攫う。

 私がお父様に勝てないうちにね。

 そうすれば私は人間社会を維持する為、再び力を消耗しつつ増産せざるを得なくなるわ。

 私は人間社会を維持したければ、その手を休める事を許されないのよ」


「……なるほどな。

 その邪悪な案を授けた宰相、それがお前の父親、魔王である可能性が高い」


 リーゼロッテは驚いて目を丸くしていた。


「アーg――待った! 今の無し!

 ……宰相が?!」


 リーゼロッテは思わずアーグンスト公爵の本名を言いかけて慌てて言い直した。

 ガートナーがジト目でリーゼロッテを見据えている。


「お前、高位魔族の名前をうっかり漏らすような恐ろしい真似はするなよ?

 それに耐えられる人間はこの場には居ないからな――ちょっと待て、油断がならねぇから防御結界を全員に張っておく」


 ガートナーが祈ると共に、無色の魔力が彼らを包み込んだ。

 ダグムロイト公爵粛清の夜に見た、あの防御結界と同じだ。


「改めてみても不思議ね。

 無色の魔力だなんて」


「知識の神はどんな神の魔法とも同調ができる。

 その特性を表していると言われているな――試しに宰相の本名を告げてみろ」


「いいわよ?

 アーグンスト公爵が宰相の本名よ」


 その瞬間、ガートナーの顔が驚愕に染まった。


「……リズ、お前の本名と魔王の本名、言えるか?」


 ――それに何の意味があるんだろう?


「いいけど……リーゼロッテとリーンハルトよ」


 何かを確信したかのようにガートナーが一人で何度も頷いている。

 リーゼロッテは訳がわからず、ガートナーに尋ねる。


「意味がわからないわよ?

 何なの?

 何に納得したの?」


 ガートナーがヴィルケ王子とラフィーネに尋ねる。


「お前たちが聞こえたのは、宰相の本名だけで間違いないか?」


 ヴィルケ王子とラフィーネが同時に頷いた。


 ――え?

 高位魔族であるアーグンスト公爵の本名を聞き取れた?!


「ちょっと?!

 いくら力が弱くてもアーグンスト公爵は公爵級魔族よ?!

 二人が耐えられるわけが無いわ!」


 ガートナーがニヤリと笑う。


「おそらく、そのアーグンスト公爵という名前を持つ魔族が実在しないんだ。

 だから人間の魂を汚染する力を、その名前は持たない――アーグンスト公爵は魔王の仮の姿だ」




 あの優しく冷たい微笑みを私に向けるアーグンスト公爵がお父様?

 ……言われてみれば、お父様からの詳しい指示は常にアーグンスト公爵から伝えられてきた。

 それは様々な計略を発案する公爵だから当然だとは思っていた。

 けれど、彼がお父様だとすれば、あの玉座に居るのはお父様の影。

 影経由で長く発言していると、私が何かに気付く可能性もある。

 影を使った会話を最小に抑え、アーグンスト公爵として詳細を伝えてきたと考えれば、辻褄は合う……。




 考え込むリーゼロッテに、ガートナーが尋ねる。


「魔王とアーグンスト公爵の魔力が似ていると思ったことはないか?」


「似ているも何も、魔族の魔力はほとんど個体差がないわ。

 私のように、魔力に個性を持つ個体の方が稀なのよ。

 尤も私は神気を纏う個体。

 どうしても魔力にも神気が付きまとう。

 そのせいではあるわね――普通の魔族が使う低級眷属の色は、どれも闇のように黒いのばかりでしょう?

 それが証左よ。

 魔力だけで個体を識別することは、まず不可能。

 瘴気ならその濃度でどのくらいの強さの魔族が居たかがわかるぐらいよ」


「なるほど、正体を隠しやすい条件が揃っている訳だ。

 瘴気の濃度を制御することは可能か?」


「それは可能よ。

 ちょっと集中力を使うから疲れるけどね」


 ガートナーが頷いた。


「これで九分九厘、アーグンスト公爵が魔王だ。

 普段は力の弱い魔族の振りをして実質的に魔王軍を統制していたんだろう。

 同族の闇討ちに対応したんだろうな。

 ヴィクターを問い質せば、その答え合わせもできるはずだが……奴が正直に口を割るとも思えんな」


「例えヴィクターが真実を告げたくても、できないように呪いが施されていると思うわよ?

 用心深いお父様がその辺りを抜かるはずがないわ」


「その解呪は可能だと思うか?」


「解呪をするとしても、契約自体を生かしたまま効力だけ無効化しなければ、ヴィクターが再びアーグンスト公爵と会う必要が出たときにばれるわ。

 彼の魂を縛り付けている呪いの術式を丁寧に解析して月の神の力を借りれば、不可能ではないと思うけど……ちょっと彼女と相談してみるわね」


 リーゼロッテは月の神の気配を手繰り寄せ、彼女に話しかける。




(月の神、話は聞いていたでしょう?

 ヴィクターの呪いをすべて無効化する事は可能だと思う?)


『あなたなら可能だと思うわよ?

 でもさっきみたいに四千人の活力を回復するなんて無茶、今後は成るだけ避けて欲しいわね。

 あれはかなり疲れるのよ』


 リーゼロッテは月の神の声を遠く感じていた。

 洞窟の奥と外で会話してるかのようだ。


 ――それにしても、神でも無茶と感じる願いがあるのか……万能という訳でもないのね。


(わかったわ。

 これからは自重するわね。

 つまりあとは私が呪いを解析するだけね)


『そういう事よ。

 せいぜい頑張んなさいな』




「月の神も可能だと判断したわ。

 私ならできるそうよ」


 ガートナーが目を見開いて驚いていた。


「……寵愛を受けた者は、祭壇以外でも神と会話できるという伝承はあるが、実際にやって見せたのか」


「実際に出来てしまったわね。

 少し声が遠いのは、祭壇の傍じゃないから仕方ないのかしらね」


「だがこれで、ヴィクターから魔王の正体を聞き出す目途めどもついた。

 あいつの呪いを全て無効化できれば、奴を魔王の忠実な犬から解放してやる事も可能だろう――他に課題はあるか?」


「アーグンスト公爵がお父様だと確定した後、残るのは人間側の戦力増強と、それを連れて魔王城まで攻めていく方法がない事。

 この二つね」


 ガートナーが不思議そうな顔をした。


「人間側の戦力増強が、課題と言える程か?

 人間社会がある程度機能するまで回復すれば、自然と戦力は整う。

 そいつらに豊穣の神の加護を与えるだけで充分な戦力になるはずだが」


「魔王城に攻め込むのよ?

 二千や五千じゃ話にならないわ。

 そんな人たちを庇っていたら、私の力も削られてしまう。

 一万、欲を言えば十万ぐらい欲しい所ね。

 ひ弱な人間なんですもの。数を揃えないと」


「そこもヴィクターに意識を誘導されていないか?

 豊穣の神の加護を得た戦士はかなりの力を持つ。

 訓練を積んだ兵士たちなら、千人で一万の魔王軍とも戦える。

 魔王軍は百万も残っているのか?」


「……残っていないわね。

 おそらく、三十万も居ないはずだし、それが各地方に散っている。

 魔王城に居るのは、五万も居ないと思うわ」


「それなら人間は五千人も居れば充分だろう。

 そして、魔王城に攻め込む必要だって必ずしも必要じゃない。

 宰相が計画発案者なら、この地方を下見に来る予定があるんじゃないか?

 計画が順調に推移しているか、直接確認したくなるはずだ。

 他の地方の人間が著しく減っているなら、尚更な」


「……確かに、そういう話はあるわ。

 私の子供が数世代を経た頃に視察に来るだろうって。

 一世代三年だから、早くて十年後くらいかしら?」


「その頃に人間が五千人の兵力を集められると思うか?」


「……思った以上に荒廃が酷いわ。

 今の王国軍兵士が王城に千人居る程度。

 十年で二世代が兵士の訓練を受けていても、私の子供たちは千人から二千人がいいところじゃない?

 合わせても最大三千人よ」


「ふむ……その視察の時に、宰相がどの程度の手勢を連れてくると思う?」


「……アーグンスト公爵が用心深いお父様だったと仮定すれば、単身でやってくる事はないわね。

 おそらく、千から一万程度の手勢は連れてくるわ。

 逆に単身でやってきたなら、襲われても問題がない手を打って居るはずよ――いえ、やはりお父様自身が魔王城から離れること自体が考えにくいわ。

 直接見るのを諦め、遠隔術式で確認するに留めるわね。

 つまり、単身で幻影を寄越す可能性が高い」


 ガートナーが腕を組み、顎に手を当てて考え始めた。


「その遠隔術式が通用しない状況を作り上げたらどうなると思う?」


「……さすがに、お父様自らがやってくる可能性が高くなる。

 その際には魔王城の手勢をそれなりに連れてくるから、やはり一万程度は覚悟しておいた方が良いわね」


 ガートナーさんがニヤリと笑う。


「つまり、人間の手勢千人も居れば充分になる訳だな。

 ヴィクターを完全に味方に引き入れた後なら、奴の力も期待できる――ほれ、魔王城に攻め込まずとも、魔王を倒す機会が立派にあるじゃないか」


 リーゼロッテは目をしばたいて、言われた事を頭の中で復唱して確認してみた。

 どれも説得力があり、実現性が高い。

 魔王を倒せると確信するには、十分な材料だ。


「……本当ね。

 魔王城に攻め込む必要はないわ。

 でも、この国が戦場になるわよ?

 魔王であるお父様との戦いなんだもの。

 折角復興してきているこの国がまた荒廃してしまうわ」


「そこは俺たち魔導士や神官の出番だな。

 総力を挙げて防御結界を作り上げよう。

 魔王を中心に、魔族たちをなるだけ中に閉じ込めるんだ。

 魔王すら封じ込める結界だ、さすがにかなりの頭数が居るがな。

 その際、穀倉地帯がいくらか犠牲になるが、それは飲むしかあるまい。

 街が吹き飛ぶよりはマシだろう」


 ガートナーのプラン、それは穀倉地帯の視察時を狙うというものだ。

 高位魔族の瘴気は植物を枯らしてしまう。

 穀倉地帯を視察している間、魔王は瘴気をしまうはずだ。

 隠遁の魔法は神気や瘴気で見破る方法があるらしいが、瘴気をしまった魔王は隠遁の魔法で潜んでいる人間の手勢に気付くことはできなくなる。


「残る課題は、アーグンスト公爵の視察までにどこまで戦力を育成できるかね。本当に千人の戦士と、結界に対応できる魔導士や神官を揃えられると思う?」


 ガートナーが頷いた。


「最短十年で、お前の子供たち二世代以上だろう?

 残っている王国軍の人間も加えれば、充分足りるはずだ。

 想定外の手勢を魔王が率いてこなければ、だがな」


「いくらお父様が用心深いと言っても、魔王城の手勢全てを連れてくるわけが無いし、各地方の魔王軍を招集する事も考えにくいわ。

 通常の公爵級魔族なら単身で来るような状況で、数千の手勢を連れてくること自体が異常なのよ?

 それだけで他の魔族から腰抜けと侮蔑されるわ。

 最大一万を超える事はないと思うの」


 リーゼロッテは、『ある程度の復興が進んでも、人間側の戦力はろくに揃わない状況を見計らってくるはずだ』と読んでいる。

 おそらくヴィクターが定期的に報告を上げている。

 まともに戦っても人間が公爵級魔族に逆らう事ができない程度の時期だろう、という読みだ。

 魔王軍一万を相手取れる人間の勢力程度では、魔王を相手にするのは無理だ。


「その魔王軍一万の内訳は予想が付くか?」


「大部分は低級眷属よ。

 お父様の眷属で固めるでしょうけれど、伯爵級程度ね。

 誰も信用しないお父様が他に連れてくるとしても、侯爵級数人がせいぜいじゃないかしら」


「その侯爵級だけ、あの日の粛清のように瞬殺することは可能だと思うか?」


「……そうね。

 お父様が彼らに防御結界を施している可能性は低い。

 私の狙撃を防げるほどの結界はそれなりに消耗が大きいわ。

 魔力の無駄遣いだもの。

 滅んでも構わないような連中を連れてきて盾にする、そんな感じだと思うわ。

 それなら狙撃で一度に沈める事も可能よ」


「つまり、残りは低級眷属だな。

 人間側に大分有利だ。

 低級眷属なら結界で囲い込む必要もない。

 結界の外で人間が滅ぼしていけるだろう」


「小さな結界の中の低級眷属なら、私一人でもなんとかなるわね。

 ヴィクターも居れば心強いかしら?

 人間の兵士たちは外で低級眷属の相手をしてもらって、私とお父様が結界の中で決着を付ける――これが理想形になるのかしらね」


 ガートナーが頷いた。


 つまり、ここからはこの国をどれだけ早く確実に再建していけるかにかかってる。

 旨く事が運べば、他の地方の人間や文化が途絶える前に救出する可能性も見えてきた。

 その後のリーゼロッテの運命はまだ分からないが、愛で潤った人生を味わう可能性も示唆された。

 人間を救う報酬としてなら、リーゼロッテにはそれで充分だと思えた。


 リーゼロッテが拳を掲げて気勢を上げた。


「それじゃあ尚の事、この人たちを無事に王都に連れ帰らないとね!

 一人も欠ける事なく、四千人全員連れ帰って労働人口に組み込むわよ!」


 苦笑を浮かべるヴィルケ王子とガートナー、そして微笑むラフィーネが同じように拳を掲げて応じた。


 ――なぜ苦笑?


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