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愛の魔物~魔王の娘ですが突然大陸の一部を統治しろと言われました。他の魔族を殲滅してもいいって、本当に?~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:愛の魔物

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20.慌ただしい対応

 ミネルヴァが王都の神殿前に降り立つ。

 リーゼロッテはラフィーネと共に、急いで神殿の中へ駈け込んでいく。


 中では祭壇前で、ヴィクターとガートナーが何やら口喧嘩をしているようだった。


「ヴィクター!

 ガートナーさん!

 丁度よかった!」


 駆け寄ったリーゼロッテたちを、驚いた二人が見つめた。


 ヴィクターがリーゼロッテに応える。


「殿下、なにか問題が発生したのですか?」


「北の街の民衆、四千人が移住に応じたの。

 予想外の大人数だし、どうやらこれから雨が降るみたい。

 体力が落ちた民衆の移動を支援する魔導士や神官の手を借りに来たのよ――

 ヴィクター、あなたは最優先で四千人の受け入れ準備を直ちに始めなさい。

 飢えに苦しんでいるから、水と食料、そしてなにより、きちんと風雨を防げる住居の用意よ。

 早くても四日後、手間取ればもっとかかるわ。

 一人でも死なせたら承知しないわよ?」


 珍しくヴィクターが目を丸くした。


「四千人ですか……

 想定外ですね。

 今すぐ対応に走っても全員分を間に合わせられるか分かりません。

 ですが、すぐに対応いたしましょう――

 ガートナー、文句があるのは分かるが、人命がかかっている。

 お前もすぐに人手を集めて動け」


 ガートナーも神妙な顔で頷いた。


「それだけの人命がかかってるんじゃ、こっちの労働環境の問題なんざ後回しだ。

 すぐに人を集めるから一時間ほど時間をくれ――

 おい! 今すぐ人を集めろ!

 魔法を使える奴を全員連れてこい!

 他は空いた穴を塞ぐのに全力を注がせろ!」



 神殿内で慌ただしく人が走り回り、何人もの人間が外に駆け出していった。


 リーゼロッテはそれを見やりながら、二人に質問する。


「人が集まるまで、私たちに出来ることは何かないかしら。

 水や食料をなんとかしたいけど、人数が多すぎて運搬するのはいくらミネルヴァでも無理よ」


 ガートナーが厳しい顔で応える。


「その四千人には耐えてもらうしかない。

 いくらなんでもそれだけの余剰はまだ王都にはない。

 四日間分の余剰を蓄えて、なんとか受け入れ時に与えた後、一時的に王都市民への配給量を抑えて彼らに配給を回す事になる。

 人手が増える事ですぐに回復するが、しばらくは不満が出るだろうな」


 ヴィクターがそれに頷いて応える。


「そちらも我慢してもらうしかない。

 労働人口が跳ねあがる分、その後の生活が豊かになる。

 それを触れ回って不満を抑えさせよう」


 リーゼロッテはため息で二人に応える。


「なんだか、兵士さんたちの負担ばかりが上がりそうな話ね。

 彼らの疲労が心配よ。

 ヴィルケ王子に同行してきている兵士さんたちも、かなり疲労がたまってる。

 このままでは彼らが倒れてしまうのも時間の問題だわ」


 ヴィクターが難しい顔で応える。


「ですが、兵士を雇用するにも相応の訓練期間が必要です。

 訓練を施していない状態で軍に組み込むわけには参りません――

 こうなると、市民たちの間で、自警団を作らせるしかないでしょうね。

 四千人も増えれば、治安維持に必要な人数も跳ね上がります。

 治安維持に割く兵士を減らし、自警団を使って市民たちが自力である程度治安を維持する形に持ち込むしかありません」


「……わかったわ、そちらの準備や計画もヴィクターに任せるから、移動中の民衆が到着するまでになるだけ進めておいて」


「畏まりました。

 お任せください」





 一時間後、神殿前にはガートナーが集めた魔導士や神官たちが三十人ほど銘々に意見を交わし合っていた。やはり彼らにも頭が痛い問題みたいだ。


「この人数を一度に運ぶことはできないから、小分けで運ぶわよ。

 九人ずつに分かれて待機して頂戴」


 ガートナーの指示で四つのグループに分かれ、次々とミネルヴァで移送中の民衆の元へ連れて行く。

 最後の一グループを運ぶ前に、改めてリーゼロッテを見守っていたヴィクターに指示を出す。


「くれぐれもお願いよ!

 移住してきた彼らに、その決断を後悔させないだけの施しをまずは与えなさい!」


 そう言い残し、リーゼロッテたちは最後の一グループと共に北に向かって飛び立っていった。





****


 現地では既に、魔導士や神官たちが待ち構えていた。

 降り立ったリーゼロッテがガートナーと共に相談を開始する。


 ガートナーも歩きながら、驚嘆した顔で民衆を眺めている。


「とんでもない人数だな。

 それだけ困窮していたという事だろうが、森が近いフィリニスですらそれほどの困窮か。

 他の街が心配だな」


「実際には瘴気で深く汚染された森では、あまり多くの食材を得られなかった、ということかしらね」


「魔物化した動植物が脅威だし、食材になる動植物自体も数が減るからな。

 命懸けでわずかな食材を得るのが精々ってところだ――

 それにしても、これは一雨来るな。

 どうだ、リズ。

 お前はこの人数を守る防雨結界は張れるのか?

 相当な広域結界になるが」


「張る事は可能よ。

 魔力の消費が大きいから、少し疲れてしまうけれどね。

 民衆を雨に濡らすくらいなら、その程度の疲労は問題ないわ。

 私の疲労より、民衆の疲労と飢餓がかなり深刻なの。

 魔法で支援できないかしら」


 ガートナーが大きく胸を張って拳で叩いた。


「任せておけ、そのための頭数だ。

 この人数で大規模な活力支援の魔法を使う。

 魔導術式じゃ無理だが、豊穣の神や知識の神は慈愛に溢れる神だ。

 民衆の助命を願う祈りを、きっと聞き届けて下さる」


 早速、ガートナーの指示の元、歩きながら三十人の男性たちが奇跡を祈り始めた。

 移動中のフィリニス市民たちの身体が金色に光り出し、彼らの顔に精気が宿り始めた。

 民衆たちも最初は戸惑いつつも、活力が溢れる事に喜び、彼らの移動速度が目に見えて上がった。


 ガートナーが汗を拭ってリーゼロッテに告げる。


「ふぅ。これでひとまずはいいだろう。

 毎日これをやれば、一日歩き続ける分には問題がないはずだ。

 この魔法支援があれば、飲まず食わずで王都まで移動しきる事も可能だ」


「これは体力の前借という訳ではないの?

 後遺症とかは大丈夫?」


「神から直接、生命力を分けてもらったからな。

 前借をして命を削る魔導術式とは別物だ――

 さてはリズ、その術式を使うかどうか迷った末に俺たちを頼ってきたな?」


「あはは……

 そういう事よ。

 それに、受け入れる側も突然四千人もやってきたら、対応するのが不可能なのはわかっていたし、あの場にヴィクターが居たのは好都合だったわね。

 それで、何を揉めていたの?」


「ああ、あれは『俺たち魔導士や神官ばかり酷使しすぎだ』とみんなを代表して不満を表明していたんだ。

 ヴィクターも『それは分かるが今はお前たちに頼らざるを得ないから』となんとか俺たちを宥めて来ていたんだが、そこにお前が現れたって訳だ」


 ガートナーは、下ごしらえをしてからこちらにやって来るという話だった。

 そうやって揉め事を起こして、無理やり休暇をむしり取って立てこもるつもりだったのだろう。

 今回の不意のトラブルは渡りに船だ。


 リーゼロッテは改めて、元気になった民衆の顔を見渡す。

 活き活きと元気に足を前に出している彼らは、王都で待っている配給に心が躍っているようだった。


「ねぇガートナーさん。

 彼らを包んだあの金色の魔力はなんなの?

 魔導士や神官たちの魔力ではないわよね?」


「あれは豊穣の神の魔力だ。

 豊穣の神は金色の神、その魔力も金色だ。

 今回は豊穣の神から生命力を分けてもらう魔法を祈り、知識の神にはその魔法に同調してもらった」


「豊穣の神は生命力を分け与えられるの?」


「豊穣は生命力に根差す力だ。

 溢れた生命力の結果が豊穣の恵みだからな。

 生命力は豊穣の神の権能の一つなんだ。

 リズに寵愛を与えている月の神もまた、生命力の権能を持っている。

 お前も魔法が使えるようになれば、同じ魔法を使えるはずだぞ」


「神って、一人でもいくつもの力を持って居るのね……」


「格の高い神ほど、より多くの権能を持つ。

 例えば月の神であれば『愛と美の神』であり『狩猟の神』であり『知恵の神』であり『生命の神』でもあるんだ。

 『海の神』の側面すら持つ、神々でも屈指に格の高い神なんだが……

 お前の話を聞いた後だと、力が強い分、なおさら質が悪い神に思えるな――

 お前、三日間笑い倒されたと告げられたのは本当か?」


 リーゼロッテはあの夜を思い出い、陰鬱な気分で応える。


「それはもう、とても楽しそうな顔で告げられたわ。

 私の事を『その滑稽な姿をこの世で一番気に入ってる』とまで言われたわよ」


 ガートナーが苦笑を浮かべた。


「それが月の神なりの寵愛の仕方なんだろうな……

 厄介な神だ」


「『自分の心に慈愛という機能はない』とまで言ってたわよ?

 そんな存在が『愛と美の神』なのって、何か不条理じゃない?」


「神々は極端だ。

 殆どは慈愛に溢れた存在なんだが、一部に月の神が言うように慈愛と無縁の存在が居る。

 だがその事と神が持つ権能は無関係の様だ。

 月の神も、そういった存在なんだろう」


 リーゼロッテは神の理解で頭を悩ませた。

 魔族の世界に神々に関する知識はなく、概念自体が馴染みがなかった。


「私に魔法を使う事ができるのかしら……

 月の神は『私の願いならできるだけ聞いてあげる』とは言っていたけど」


「月の神本来の気配さえ知ることが出来れば、この大陸のどこに居てもその気配を探して手繰り寄せることが出来るはずだ。

 その気配に向かって祈れば、神が応じる限りそれが魔法として姿を現す――

 月の神の神殿機能を回復させる事を、ヴィクターが許せばな」


「ヴィクターは『お父様がそれを許す事はないだろう』と言っていたわ。

 私が神の力を借りる事ができれば、私がお父様の力を上回ってしまう。

 用心深いお父様は、それを決して許しはしないし、そんな事を知ったら何か手を打って私の力を奪いに来るはずよ。

 なにより、霊脈の支配権をお父様が握っている今、お父様の許可なく神殿機能を回復させることはできないらしいし」


 ガートナーが少し考えるように俯いた。


「……いや、機能回復だけなら、霊脈の力は不要だ。

 霊脈はあくまでも、信徒の祈りの力を神に伝える為のものだからな。

 そこに祈りを捧げる信徒が居なければ、霊脈に祈りの力が流れ込むこともない。

 魔王に気付かれる事もないだろう。

 つまり魔王の許可など不要だ。

 この国にも、人が去った場所に残った月の神の礼拝堂はいくらでもあるはずだ。

 そういった場所でひっそりと機能回復させ、月の神の気配を知ればいい」


 つまり、魔王に気付かれる事なく、リーゼロッテが月の神の力を借りる手段があるということだ。


 リーゼロッテはきょとんと尋ね返す。


「……ヴィクターはそれを知らなかったのかしら」


「知らんわけが無いし、気づかん訳が無い。

 神の信徒に取って常識の範囲だ」


 ――なるほど、ヴィクターは敢えて黙っていたのか。


 リーゼロッテは小声でガートナーに話しかける。


「ヴィクターがお父様の側の人間、というのはこういう意味なのね」


「ああ、奴が言う言葉の全ては嘘ではないだろうが、虚実入り乱せお前の意識を誘導していたのは間違いないだろう。

 『魔王の忠実な犬』か。

 奴には相応しくない異名だがな」


 リーゼロッテは苦笑を浮かべて応える。


「仕方ないわ。

 ヴィクターはお父様から呪いを施されている。

 お父様が滅びれば、彼は一瞬にしてすべての若さを失ってしまう。

 私はそんなヴィクターの愛を受け取る事はできなくなるもの。

 それを恐れているのよ。

 全ては私に心囚われているせい。

 私のせいよ」


「その呪いは解呪できないのか?」


「解呪は簡単だけど、それと同時に若さを全て失うわ。

 後戻りができない、そういう邪悪な呪いなの」


 ガートナーは腕を組んで考え始めた。


「だがそれは、魔導術式での話だろう?

 神の奇跡なら、副作用ごと呪いを消し去ることはできるはずだ。

 失敗が許されない以上俺には試せないが、呪いの術式を理解しているリズなら、術理全てを打ち消す魔法を祈ることが出来る可能性が高い」


「術理を知っていることがそんなに大切なの?」


「神は何でも願いを聞き届ける訳じゃない。

 説得力が低い願いは神でも聞き届けることが難しいんだ。

 神は忖度するように力を貸す事はまずできない。

 願われた事を願われた通りに力を貸す存在だ。

 副作用があるなら、それも理解して願う必要がある。

 術式を理解している者の願いは、理解していないものの願いより聞き届けられやすい。

 解呪の魔法がいくつもあるのは、そのせいだ」


 つまり、同じ呪いを使えるリーゼロッテならば、その術式の理論を完全に打ち消す事を正しく願えるという事だ。


 ――やっぱり私は、なるだけ早期に月の神の気配を知る必要がありそうだなぁ。


「ねぇミネルヴァ、そういう無人になって人が来ないような月の神の礼拝所の場所、分かる?」


 リーゼロッテの肩にとまっているミネルヴァが「ホー。」と返事をした。


「……わかるらしいわ。

 まだ天候が変わるまで時間がありそう。

 ガートナーさん、あなた礼拝所の活性化はできる?」


「ああ、任せておけ。

 俺一人で事足りる」


 リーゼロッテはガートナーに頷いた後、ヴィルケ王子に振り向く。


「ヴィルケ王子、少しの間また留守にするけど、その間はお願いね!」


「ええ、任せておいてください」


 リーゼロッテは群衆から離れた場所でミネルヴァに飛竜に戻ってもらい、ガートナーとラフィーネの手を引っ張って背に飛び乗った。

 ラフィーネが慌てたように声を上げる。


「え?! 私もなの?!」


「あなただけ残しているとなんだか不安なのよ!

 運命共同体なのでしょう?

 いいから来なさい!」


 リーゼロッテたち三人を乗せたミネルヴァが、東の方向に白銀の流星となって飛び立っていった。


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