第九話 心眼
恐らく、洸平は人数差で圧倒することでゴリ押すつもりでいたのだろう。洸平の眷属は我先にと雪崩のように襲いかかる。
「僕達が相手をしてやる!ラミア行くよ!」
「うん!」
だが後方にいたアレスとラミアが前に飛び出してくると、あっという間に敵を倒していく。1人、また1人と戦闘不能になっていき、等々アレスとラミアだけで処理しきってしまった。洸平のヒステリックな声が轟く。
「なっなんだと!?楓斗貴様何をやりやがった!苦労して全員レベル3まで押し上げたんだぞ!」
ご丁寧に晒してくれるとは有難いことである。ちょっと情報収集すれば、彼らがレベルアップに時間を割いていることぐらい分かっていたが。
「…もう少し鍛え上げてくると思っていたけど、案外洸平も大したことないんだな」
「は!?」
本来レベルを明かすのはあまりいい事では無いが…今回は相手に絶望感を与える意味でも言ってしまおう。
「俺の眷属は3人ともレベル二桁に到達してる」
洸平が分かりやすく固まった。隣にいる筆頭らしき眷属も周りの眷属もキョトンとした表情である。アレスとラミアがふふんと誇らしげにいるのが可愛らしいが、今はそれどころでは無いので目の前に集中しておく。
「ふ、巫山戯るな!俺の眷属達はどう頑張ってもそれが限界だったぞ!」
「お前、経験値のシステム忘れてるだろ。経験値は人数が多ければ分配されて各個人に与えられる経験値は減少する。経験値を稼ぐなら最小限の人数でやるべきだ」
「それを持ってしても二桁のレベルなんぞ…!」
「…まあ、それは俺が運が良かったとでも思っとけ」
「なんだよそれ!」
…実はアレスもラミアもカトレアも、才能パラメータ的にだいぶ上がりやすい部類だったのである。それが分かったのはカトレアの持つスキルのお陰だった。
(スキル・心眼…対象の才能パラメータを見抜き何が伸びやすいかを的確に見抜く能力…まさかカトレアがそんな能力を持っているとは思わなかったな)
今のところそんなスキルが発見されたとの情報は一般に出回っていないことからも、相当なレアスキルであることは確実である。或いは眷属のスキルは所属する神によって変わると言うから、知識の神の元に発現するスキルなど見向きもされて来なかったかもしれない。
ともかく、それで何が伸びやすいか判明した後は長所を伸ばし短所を補うように特訓メニューを調整していき、レベルアップを最大限効率化していった。その結果がこれである。
「もういい!ジャスター、行け!」
「へぇ」
洸平の合図に従って、筆頭らしき眷属がこちらへ突っ込んできた。酒場であった時もいた、どうにも小馬鹿にした態度をとる少年である。
「カトレアちゃんは僕が目一杯あやしてあげるんだぁ」
ジャスターはそう言ってアレスとラミアに向かって突撃してくる。アレスとラミアは身構えたが、次の瞬間後ろからカトレアが飛び出す。
「アレス、ラミア、ここは私が相手する」
「はーい、カトレア姉ちゃん頑張って!」
「お姉ちゃん、負けないでね!」
アレスとラミアに鼓舞され、カトレアは僅かに表情が綻ぶ。俺がいる時はあんな表情見せないんだがな…と思いながら経過を見守ることにした。調べた限りジャスターのレベルは8。既にレベル12まで到達しているカトレアなら、多少苦戦こそしても負けることはまずあり得ない。
「…メインデッシュが自分から喰われにきやがったぁ」
ジャスターはそう言い黒く染まったレイピアを鞘から抜いた。カトレアもサーベルを抜き、お互い合間見えんとする。
カキン。
剣と剣がぶつかり合い、闘いの始まりを声高に歌い叫ぶ。
「カトレアちゃん、僕が君のパートナーになってあげるからねぇ」
「生憎ですが当店ではそう言った商品は販売しておりません」
短く言葉を交わしながら、互いの剣技がぶつかり合う。最初は互角の争いだった。レベル差を埋めてしまうジャスターに少しながら感心してしまった。人として好きにはなれないが。
だが、やがて戦況に変化が訪れる。カトレアの動きが明らかに鈍くなり、ジャスターの動きが洗練されてゆく。
「そうらここだぁ!」
「…!!」
ついにカトレアは一撃を喰らい、ラミアの方向に吹き飛ばされた。アレスがラミアを押し出すと、アレスはカトレアにぶつかり共に壁に激突した。ラミアが不安そうに2人を見つめる。
「カトレア!?大丈夫か?」
俺はカトレアの元にかけより、無事を確認する。全身が泥だらけで擦り傷もしている。致命傷では無さそうなのが唯一の救いかもしれない。
「大丈夫…ですが、この先はどうか分かりませんね」
「…いや、心配無い。今までの闘いで相手の手は読めた。カトレア、お前は勝てるぞ」
俺はそう言ってカトレアに耳打ちした。カトレアはこくりと頷く。
「分かりました、やってみます」
カトレアは立ち上がり、ジャスターと対峙する。
「早く降参してくれよぉ、愛する人を痛めつける趣味はねぇんだからさぁ」
ジャスターの煽りに対し、カトレアは瞳をまっすぐ見据え言い放った。
「…私の愛する人達を傷つけさせる訳には行きませんので」
もう一度闘いが始まる。