第八話 才能
翌日。俺はカトレア、アレス、ラミアと共に西の洞窟に来ていた。ひとまずの目標は3層まで到達することである。カトレアと話し合って決めた。
「初めてのモンスター戦だからな。緊張して動けないでは話にならないからな」
「正直怖い…です…けど、頑張って見せます!」
「おー!」
アレスとラミアはご機嫌である。遂にこの時が来たと言わんばかりの様子で、おもちゃを前にしたかのように目を輝かせている。殺伐とした戦闘をいなすことが出来るか少し不安だったが、
「こなせるように徹底して叩き込んだので」
とカトレアが言うので取り敢えずそれを信じて戦闘に赴く。
かれこれ30分ほど1層を探索したが、アレスとラミアの活躍っぷりには目覚ましいものがあった。分かりやすく言うなら、カトレアが口を挟むまでもないほど安定していた。
アレスのレイピアは確実に敵の急所を突いており、単独の敵ならそれだけで対処出来た。複数の敵なら左手のマンゴーシュも駆使して駆け引きを展開し、的確に隙をついて相手に致命傷を与えていた。
ラミアはその小さな体に似つかないハルバードを振り回し、敵に対して手数と俊敏さで圧倒した。ニコニコ笑いながら敵を次々葬り去る様は最早狂気の沙汰にすら見えた。
「私は後ろから見守るだけですね」
「それで良いのかお前は…」
カトレアはアレスとラミアに経験値を譲る為極力手を出さない。レベルの概念が存在するこの世界では敵を倒せば経験値が手に入るが、複数人で対応した場合分散してしまう為、手っ取り早くレベルを上げるなら彼ら自身が戦うのが最善策だ。
カトレアは後ろから見守っている。だがアレスとラミアが気づかず対応出来なかった敵が現れた瞬間即座に動き出し、素早く鞘からサーベルを抜き敵を文字通り沈める。そしてすぐまた元の位置に戻り見守り始めるのである。
「あまりに呆気なさすぎて怖くなって来たぞ俺は…」
「神様、言った筈ですよ。他の冒険者にも負けないようにと」
「ここまで化け物に育てることは想定してないわ…」
ため息すら出てくるが、アレスとラミアは順調に敵を殲滅していくので快適なのも事実である。お陰で考えていた奥の手は現時点で明かす必要が無さそうではある。
「神様、階段がありました!」
「ねぇ早く降りようよー!」
そうこうしてる内に2層へと続く階段を発見し、俺たち4人は階段を降りていった。
2層は1層よりもずっと強い敵ばかりだったが、それでもアレスとラミアの快進撃は止まらない。ただ少しずつカトレアの介入も増えてはいた。
そして俺達は広間のような空間に出る。休憩基地か何かだろうか?
「アレス、ラミア、少し休むか?」
「大丈夫です神様。まだまだ行けます!」
そう言ってラミアが更に歩み出したその時だった。
「止まりなさい!」
カトレアが瞬時に険しい顔になるとそう叫ぶ。ラミアが止まると、ラミアの目の前で地面が崩壊した。落とし穴だ。しかも穴の底には木材で作られた無数の針が上に向かって聳え立っている。
「へぇ、それで死んでくれたら楽だったんだけどな」
すると俺達の後方からよく聞いたことのある男が現れた。後ろに何十人もの眷属を従えて。
「久しぶりだな、楓斗。お約束通りカトレアちゃんをもらいに来たぞ」
「何度言ったら分かる。お前に譲る気なんて欠片もない」
「そういうと思ったからその穴を用意したんだよ」
すると洸平はとんでもないことを言い出した。
「楓斗、お前が死ねばカトレアちゃんは所属するギルドが無いことになるから俺の物に出来るんだ。だから死ね。その穴に落ちて」
「は!?」
この世界では神様は死んだ場合、幽霊のような状態となりクリアまで現世を彷徨うらしい。そんな惨めな生活をするのも、カトレアをこんな奴に引き渡すのも断じて容認出来ない。
「ざけんな、お前なんかにカトレアを譲る訳無いだろ」
「そう言うと思ってこうやって眷属を増やしたんだよ」
洸平の眷属達は緊張感全開といった様子で、冷静に見つめるこちらの眷属とは明らかに空気感が違う。しかしそれでも数で圧倒しているからか自身を鼓舞するかのようにあちらの眷属は戦闘体制を整え始める。
それに合わせてアレスとラミアが戦闘体制を整える。カトレアは凪いだ様子を崩さないが、これも戦う準備であることは知っている。
「何人連れてこようと、お前の言いなりになることは無い。死にたくないなら黙って回れ右しろ。もう俺達に関わるな」
「交渉決裂だな、ならカトレア以外皆殺しにしてやるよ」
洸平はニヤリと笑い、眷属に向かって号令する。
「お前ら!あそこにいる神を潰せ!カトレアちゃんは死なない範囲なら傷つけても構わねぇ!残り2人は好きにしろ!」
…号令と共に、40人はいるであろう洸平の眷属が一斉に襲いかかる。ここを乗り越えなければ俺達に明日は無い。
「大丈夫です神様、私達を信じてください」
カトレアに囁かれ、こくりと頷いた。戦いの火蓋が切られる。