第四話 路地
翌日からギルドへの勧誘が始まった。こちらから声をかけたり、あちらから聞かれたり。洸平のことを見返そうという一心で熱心に回ったのだが、楓斗はその困難に直面することとなった。
「まさかここまでとはなぁ…」
「だから言った筈です。ハズレ枠だと」
勧誘を数時間続けたが、誰1人として眷属を増やせなかった。丁重に断られるならまだ良い方。中には暴力を振るおうとする輩までいて、カトレアに守ってもらう羽目になった。
「カトレア…無理に付き合ってくれなくて良いんだぞ」
「私が好きでやっているだけです」
このままではカトレアにも申し訳ない。城塞都市を南北東西に巡って必死に勧誘を続けた。
気がつけば、俺たちは都市のスラム街まで来ていた。
「神様、ここはあまり長居しないことを推奨します」
「え、そうなのか?」
「ここら一帯はギャングの巣窟ですから。評議会すら手をつけられない代物です」
評議会、とはギルドを束ねる機関のことだ。この都市そのものを管理している。
「そうか、ならさっさとおさらばしよう」
そう言って引き返そうとしたその時だった。
建物と建物の隙間から、子供の泣き声が聞こえた。
直ぐにそちらへ向かって走る。するとすぐその場面に遭遇した。
建物に囲まれた小さな広間のような空間。そこで幼い兄妹が男にナイフを向けられていた。
「何をしている」
「あ?なんだと思ったらザコ神じゃねーか。ザコはザコらしくすっこんでろ」
あまりにストレートな侮辱。腹を立てた俺は声を荒げた。
「やめろ」
「うるせぇ、お前なんかの指図はうけねーよ!」
男はそう言うとこちらへ向かってナイフを突き立て走ってくる。しかし、
「残念ですが、神様に傷をつけることは私が許しません」
その間にカトレアが割り込むと、剣を抜き男の攻撃をいなした後、即座に反撃しナイフが宙を舞った。男は口をパクパクさせながら物凄い勢いで路地へと消えていった。
「…神様、次からはせめて私に何か言ってから動いて下さい」
剣を鞘に収めながらカトレアに小言を突きつけられる。俺は「さあな」と適当に返しながら兄妹の方を向いた。どちらも10歳前後に見える。
「く、くるならこい!ラミアには傷一つつけさせないからな!」
兄の方がダガーを出しながらこちらを睨む。妹は兄に抱きつきながら無言でこちらを見つめていた。
「…大丈夫だ、俺たちは敵じゃない。眷属が出来なくて困ってる、しがない一般人だ」
「神様は一般人ではありません」
「言葉の綾ってやつだよ」
「適当に意味ありげなこと言ってるだけですよね?」
「バレたか」
カトレアと他愛もない会話をすると、ラミアと言われていた少女がくすりと笑った。それと同時に兄妹二人共グ〜とお腹の音が鳴った。
「ほら、なんか食わせてやるからついてこい」
少年は不服そうだったが、少女の顔が明るくなったからか無言で頷いた。
カトレアや兄妹と共に拠点…ギルドにはそれぞれ住居や道場などが複合した施設が与えられている…に戻ると、カトレアが料理を振る舞った。戦闘能力だけでなく家事までこなすカトレアには頭が上がらない。
最初は目の前の料理に警戒していた二人だったが、少女がスプーンで一口頬張ると、パクパク食べ始めた。それを見て少年も一口頬張り、すぐ同じ様に食べ始めた。相当お腹が空いていたらしい。
「あ、ありがとうございます…」
食べ終わると、少年が礼を言い頭を下げた。少女も続いて頭を下げる。
「気にするな。お節介な神様だったと思ってくれ」
すると、少年は少し考えた後、口を開いた。
「…あの」
ん?と思い少年をまじまじと見つめると、少年は少女に耳打ちし、少女もこくりと頷いた。
「僕達を眷属にしてくれませんか?」
「…へっ?」
「僕達、このままだと行く当ても無いですし、何か恩返しが出来ないかと思って…」
寧ろ大歓迎である。俺は承諾の意味を込めてこくりと頷く。
「あ、ありがとうございます…!」
こうして、俺のギルドは一人どころか二人も人数を増やすことが出来た。カトレアに
「神様はロリコンなんですか?」
と、言われたが黙ってカトレアの頭をわしゃわしゃして誤魔化した。