第二十一話 艱難
「エリアボスのお出ましだと!?」
「…っ、退屈しませんね本当に!」
デスハウンド。10層に生息するボスモンスター。一応数多いるボスモンスターの中では最弱とされ初心者を抜け出す一つの指標とも言われる。が、他のボスモンスターが強すぎる故に相対的に弱く見えるだけで、10層に辿り着けたギルドでも全滅の危険が伴う恐ろしいモンスターである。
そんなモンスターが、3層も初めての俺たちの前にいる。危機的状況なのは言うまでもない。
「ぐおおおおおお!」
デスハウンドは大きく叫ぶと、アレスに向かって突進した。カトレアが庇おうと動くが、間に合いそうも無い。アレスは目一杯マンゴーシュを突き立て守ろうとした。
その時。
「やれやれ、不要で済めば良かったんじゃがな」
後方で詠唱していたガロンがそう言い術式を展開する。するとアレスの前に魔法の防御壁が現れ、デスハウンドの攻撃からガードした。デスハウンドはそれすら突き破らんと防御壁に噛み付くが、横からカトレアがサーベルで突こうとすると後方へジャンプして後退した。
「ガロンお爺ちゃんありがとう!」
「む、そう言われるとあまり嬉しくはないのぅ…」
アレスのお爺ちゃん呼ばわりに不満顔のガロンだが、本気で嫌がってる訳でも無さそうである。
「ともかく、わしが防御壁を張っておくから皆攻撃に集中せい。最も、いつ防御壁を壊されるか分からんから常に警戒は怠るで無いぞ」
「了解です、反撃の狼煙ですね」
「よーし、いっちょやってやるかぁ」
カトレアが淡々とスイッチを入れ、ユーリは不敵に笑いながら短剣を構える。
「よしみんな、やるぞ!」
俺の掛け声で、一斉に攻撃を開始した。
⭐︎
「ふーん、楓斗と涼也のギルドがそんなことになってたんダネ」
涼也の懸命な説明に対し、早苗の態度は冷ややかだった。
「で、頼む早苗。力を貸してくれ」
涼也は頭を下げるが、早苗は殺気だった目を崩さない。
「涼也クンは忘れたのカナ。こっちになんのメリットがあるんだいそれをしてサ」
「友達として、戦友として頼んでる。それじゃダメか」
「60点ダネ。友情にしがみつくことを悪いとは言わないけど、それだけで動くほど甘い人間じゃないヨ」
涼也と早苗の間に静寂が流れた。お互い中々譲らない睨み合いが続く。結局、先に折れたのは涼也だった。
「なら俺の調合屋の料金を永続で10%オフにしてやる。それでどうだ」
涼也の提案に、早苗はニンマリと笑った。
「フフ、交渉成立ダネ。分かったヨ、すぐに出発の準備をしてやるサ」
早苗がベルを鳴らすと、黒装束の忍者のような男がスッと姿を現した。まるで元からそこにいたかのように。涼也の困惑する顔を他所に、早苗は言う。
「ハルマ、出かける準備をしておいてネ。あとモミジとネストにもすぐ出れるように言っといてネ」
「かしこまりました、すぐ出立の準備をします」
そしてハルマはまた消えた。涼也はあいた口が塞がらない。早苗が立ち上がり外へ行こうとする時、涼也の右肩に手を置き涼也に耳打ちをした。
「キミにお願いされなくたって、他ならぬ楓斗クンの為なら散財しようと助けに行くサ。交渉をするなら事前に相手の情報ぐらい調べとくことダネ。商売人仲間としての警告ダヨ」
早苗は高笑いし始めた。そしてそのまま部屋を後にする。一人取り残された涼也は
「…二度とお前なんかと商売はしねぇからな」
とぶつぶつぼやくことしか出来なかった。交渉に負けた己が悪いのだから何も言えないが。




