第二話 底辺
「すいません、取り乱しました」
俺は少女と共にリビングのような場所で、テーブルを挟み向かい合わせに座っている。そこで開口一番少女に謝罪されるが、正直なところ悪かったのは自分なので何も言えない。
「えーっと…ごめん」
「神様が謝らないで下さい。神様はヘンタイであったということなので」
「いやだからごめんね!?勝手に変態にしないで!?」
これでは話が前に進まないので、半ば強引に話題を切り替える。
「えーっと、俺のギルドに配属された冒険者……で合ってる?」
「そうです。ヘンタイ神様につけられてセクハラされる未来しか見えなくて絶望しています」
「なんかどんどん妄想が発展してない……?」
返答しながら、テーブルの上にある紙を手に取り目を通す。
カトレア・ファーレン、16歳。人間族でLv1、ジョブは剣士。一番下の一言枠には、采配した奴からの評価らしき言葉が書かれている。
『正直振り分けたメンバーの中でも一、二を争う当たり枠だよ!』
その文まで見てため息を着いてから紙をめくり2枚目を開く。そこにはこの世界について詳細が記されていた。
まず俺がいるここは城塞都市フランクアルト。人口は100万人を超えるとも言われる世界の中心地。アンヘン平地のど真ん中にあり、都市全体を数百メートルに及ぶ城壁が築かれている。出入り出来るのは東西南北の城門のみ。そこの管理は評議会…都市の運営が担当しているようだ。評議会もギルドと見做されているらしいから、誰かクラスメイトがトップを務めているんだろう。
再び紙をめくり、3枚目に目を通す。ギルド関連の説明だった。
クラスメイト40人がそれぞれギルドの長に就任し、それぞれに1人ずつ初期配置の眷属が当てられる。俺の場合はカトレアが当てられた。
俺達の目的はギルドを率いてダンジョンを攻略し、ラスボスを倒して現世に戻ること。他のギルドとは協力しても良し、殺し合っても良しだそうだ。最も、俺が他者を襲う場面など無いと信じたいが。
そしてここフランクアルトには冒険者を目指して世界中から人々が集まってきており、説明書にも積極的な勧誘によるギルドの拡大を推奨していた。人数が増えれば襲われる可能性も低くなるし、ダンジョン攻略も楽になる、とのこと。
更に紙をめくった。4枚目は今いる場所……拠点の説明だった。
各ギルドにそれぞれ拠点が与えられる。マンションと道場、それに広いグラウンドまで用意されておりパッと見た印象はまるで学校のようだ。実際、眷属達はここで特訓するので学校という側面もあるかもしれない。
マンションは3階建の30部屋であり、それ以上の拡張は資金を貯めてかららしい。ようはデッカいギルドになったらその資金力で更に巨大化しろということだろう。道場やグラウンドも強化出来るらしいが……ここら辺はよく分からない。
5枚目以降はひたすらそれぞれのギルド、神、眷属の説明欄だったが……ここまででお腹いっぱいの俺には消化しきれず、見る気も起きなかった。
紙をおいて顔を上げるとカトレアと見つめ合った。カトレアが口を開く。
「当たりだと思って嬉々として喜んでいますか?」
「うーんと、別に?可愛い子が来たなとしか思ってない」
「か、可愛い…!?」
ツンツンとした態度、整った顔、ストレートに伸びた黒髪、無駄のない体つき、どれをとっても彼女は美しい、と思う。だからこその返答だったのだが、カトレアは恥ずかしがって顔を手で覆ってしまった。何か地雷でも踏んだのだろうか?
「えーっとそれで、何の神様になったのかはカトレアが知ってるんだっけ」
「…そうです。神様は抽選の結果、知識の神様に選ばれました、残念なことに」
残念…?何がどう残念なのだろうか。頭にクエスチョンマークを浮かべていると、カトレアが説明する。
「戦闘系スキルが至上とされるこの世界では、戦闘に利用出来ず、戦闘の補助にもならない知識は邪魔者とされています」
「それってつまり」
「ハズレ枠ですね、神様は」
俺は思わず頭を抱える。何でこうも運が無いのだろうか。よりによって貧乏くじを引かされるなど…
「…じゃあカトレアもすぐ俺のギルドを抜けるのか?」
「冒険者はギルドに入ると3ヶ月経つまでは移籍が許可されません。なので私も3ヶ月は神様にお付き合いしますよ」
「3ヶ月経ったらすぐ抜けるんだな?」
「…そうなるかは神様次第です。私を引き止めたいと神様が思うなら、目一杯努力して下さいね」
…その時カトレアが見せた小悪魔っぽい表情を、俺は当面忘れることが出来そうに無かった。