第十九話 残状
薄暗い洞窟に血の池が撒き散らされている。どう考えても普通の状況じゃない。
「一旦引くか、流石にこのまま前には進めない」
俺の提案にカトレアが無言で頷くが、ガロンは首を横に振る。
「馬鹿者、お主は今見られておることに気づかんのか」
ガロンはそういうと正面に向かって火の玉を放った。火の玉が洞窟を照らすと同時に、無数のオオカミのようなモンスターが映し出された。全ての個体が口から血を流しており、その目は狂気に満ちていた。そしてこちらを見つめているが、照らされた途端に闇の中へ消え去っていった。
「…なんだあれは!?」
「グレートハウンドか。本来は5層辺りに生息してるつえぇバケモンの筈だ。なんで3層の入り口にいやがる」
「いや、それもそうなんだが…グレートハウンドは本来縄張りに入らなければまず襲いかかってこない奴だぞ」
即座にモンスターの名前や生息域が出てくるユーリの知識に感激しながらも、事の異様さを痛感させられる。
「…少なくともあの目は明らかに正気ではありませんでしたね。縄張りの外で虐殺をするなど狂気の沙汰です」
「そうじゃ。本来あり得ぬことがここで起こっておる。これを無視して地上に戻ってどうする?2層の入り口辺りには初心者の冒険者も多数おるんじゃぞ。こやつらがそこまで進出してきたら…お主らは責任を取れるのか?」
ガロンに言われ、俺はようやく戻れない状態にあることを悟った。騒動後とはいえ無数にいるであろう2層の慣れない冒険者達を全員見つけて戻るのも非現実的であり、今この場で解決してしまうのが確実なのは間違いなかった。
「…ならせめて2層にいる冒険者を集めませんか。僕たちだけで対応出来るものでも無いでしょう」
「初心者の多い洞窟ですから集めても戦力になるかは分かりません。寧ろ足を引っ張られる可能性が高いのでは?」
サマルの提案も、カトレアに否定されてしまった。
「ボクたちで何とかしよう、ね!神様!カトレア姉さん!」
「…そうするしか選択肢は無いか」
俺は決断した。
「この異様事態を何とか解決するぞ」
その瞬間、暗闇から大量のグレートハウンドが俺達一行に牙を向けて襲いかかってきた。
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「じゃあやっぱり、楓斗は完全に被害者なのね?」
「当たり前だろ、俺の親友を馬鹿にするんじゃねぇ」
同じ頃、涼也は評議会の会議室で胡桃と会合をしていた。表向きは評議会とギルドの交渉だが、真の目的は楓斗の周りを確認する作業だった。
「まあそれなら良いけど、何かあったら報告はしてよね?」
「…前向きに検討する」
「報告しないなら然るべき対応はするわよ」
涼也と胡桃は無言で睨み合う。だが、会議室に人が入ってきたことで探り合いは中断になった。
「胡桃様、至急のご報告が」
「どうしたのアマルス。こっちも忙しいのよ」
アマルスと呼ばれた中学生ぐらいの身長の少女は胡桃にそっと耳打ちをした。その瞬間、胡桃は血相を変えた。
「何ですって…!?」
胡桃は涼也の方を見つめると、切羽詰まった声で言った。
「涼也!今貴方の動かせる戦力はどれだけいる!?」
「なんだよ急に。主戦力の2人は今頃楓斗と一緒に西の洞窟に潜ってるだろうよ」
「何ですって!?」
胡桃は両手を震わせながらワナワナとしている。あまりの反応に涼也は胡桃に聞き返した。
「なんだよ、俺にも何が起きたか言ってみろよ」
胡桃は深呼吸をすると、少し涼也を見つめてから話した。
「西の洞窟でイレギュラーが発生したらしいのよ」
その瞬間、涼也はガタッと椅子から立ち上がった。




