第十六話 距離
「く、胡桃か。こんな夜更けに何の様だ」
俺は頑張って誤魔化したいが、やはり動揺を完全に隠すのは難しい。胡桃が穏やかな表情で俺に迫ってくる。
「楓斗君が全然こっちに説明に来ないからに決まってるでしょ〜。洸平君の一件も、ホントはちゃんと報告して欲しかったのにさ〜」
「報告はしただろ」
「書面だけじゃなくて、対面で言って欲しかったなぁって」
それが何の為になる、と言いかけてやめた。このまま胡桃のペースに乗せられるのも癪だと思ったからだ。
「で、結局何の用事で来たんだ」
「君さー、イレギュラーすぎるんだよね」
ど直球に言われた。否定はしないし出来ないが…
「そもそも眷属の数が50人近くいた洸平君が眷属3人の君に壊滅させられ、洸平君は死んで眷属も殆ど行方不明に。そうかと思えばレベル10にあげるのも一苦労と言われる中でぶっちぎりのレベル14。おまけにシュトレーベ一族本家最後の人間を眷属に向い入れる。もうめちゃくちゃだよ〜?」
「ガロンは他のところでは門前払いだったんだぞ」
「君も門前払いすると思ったんだよね。シュトレーベ一族本家の人間を囲えば分家が何起こすか分かんないんだよ?余計な胃痛要素増やさないでくれない?」
「じゃあ野垂れ死にさせろって?それは俺の正義に反するな」
「人道的に正解の選択が現実的に正解とは限らないんだよ?」
「だとしても俺は人道的選択を取る」
そもそも仮に実力が無かったとしても、ガロンを追い出すつもりなどさらさら無かった。あまりに実力を主張するから確かめただけで、元から突き放す気など一切無かった。よほどカトレア達に実害が出るなら話は別だが。
「楓斗君さ、シュトレーベ一族の力を舐めないでね?何人もの魔術師を輩出してきた名門だよ?怒らせたら君達は愚かこの都市すら危ないからね?」
「都市の危険を防いで安寧を確保するのがお前ら評議会の役目だろ」
「だから余計な不安要素増やさないでって言ってんの!」
胡桃は頬を膨らませ更に迫ってくる。吐息が僅かに感じられるほどにまで。俺は思わず赤くなってしまう。
が、次の瞬間俺と胡桃の顔の間をサーベルが通過した。横を見るとカトレアが物凄い剣幕で立っている。
「ウチの神様にあまり近づかないで下さい」
「カトレアちょっと落ち着け…」
「へぇ〜、この子がカトレアちゃんかぁ。可愛いなぁ」
何気なく胡桃の放った一言にカトレアは頬を赤く染め茹でダコのような状態になってしまう。
「か、可愛いっ!?」
「うん、カトレアちゃんは凄く可愛いと思うよ。欲情的な男ならとっくに手を出してそうなぐらい。颯斗、一線超えた?」
「ブッ、んな訳あるか!これでも俺は健全な人間だわ!」
「へぇ、意外。楓斗って独占欲強そうだから洸平に手を出されるぐらいならその前に初めてを奪うぐらいしそうだから」
「お前の中で俺のイメージはどうなってんだよ!」
腹が立った俺は胡桃の肩を掴むと回れ右をさせ、文字通り追い出した。胡桃が
「またねー」
と手を振ってきたが振り返す義務も無いだろう。
胡桃が帰ってもカトレアは固まっていた。流石にあんなにはしたない発言を聞いては平静ではいられないだろう。
「カトレア、さっさと忘れとけ」
そう言ってリビングの方へ戻ろうとする。が、カトレアに裾を掴まれた。俺はもう一度カトレアの方を向く。
「神様は、私のことが好きですか…?」
…胡桃はとんでもない爆弾を置き土産にしたらしい。




