第十五話 血統
「…!!」
俺は咄嗟に命の危険を感じ、両手を突き出し魔法で防御壁を展開する。俺の中にある魔力を集中させ、考えうる最大レベルでの防御体制を取った。
火の玉が防御壁と激突し、巨大な魔力と魔力のあり得ないほどのせめぎ合いに発展する。俺は全精神を防御壁に込めて何としても止めんとする。やがて火の玉と防御壁は相殺されるように爆発して消滅した。強風が道場を吹き上げる。
「ワシの攻撃を打ち消すとは、お主中々やるのぉ」
感心したように頷く老人。その表情には明らかに余裕が見え、息遣いが荒いこちらとはまるで対照的である。
「…じゃが、もう1発放てば貴様は間違いなく死ぬの」
「…でしょうね、とんでもない威力でしたから…」
その実力は分かったが、では何故うちに来たのか探らねばなるまい。最悪の場合、他のギルドから来たスパイも疑わなければならないだろう。
「…貴方の実力は分かりました。しかし何故うちを?」
「なに、ギルドの実力のランキングが発表されておったじゃろ。そこを上から当たって行っただけじゃ。まあお主よりも上の順位のギルドは門前払いだったがの」
…どこまで信用して良いのか分からない。だが、少なくとも老人の表情、仕草、言葉遣いに嘘の兆候は出ておらず、どうやら本当らしいと判断する他ない。
「…いいでしょう、うちで採用します」
「ワシの実力が分かったようじゃの。じゃ、よろしく頼むぞ」
「ではまず名前をお願いします」
「ガロン、ガロン・シュトレーベじゃ」
その名前を聞いて我が耳を疑った。今、目の前の老人はシュトレーベと名乗った…のか?
「シュ、シュトレーベって、あの…?」
「如何にも。古代に勇者と共に冒険し運命を共にしたとされるガーナ・シュトレーベの一族じゃよ。まあワシは追い出された身なのじゃがな」
カトレアもそうなのだが、うちはやけに高スペックな逸材を囲う傾向に無いか…?いや別に有難いは有難いが…。
「そんな高貴な一族の方が、何故ここに?」
「一言で言うなら疲れたんじゃよ。シュトレーベの本家は規則やルールの嵐じゃ。若い頃はそれでも我慢しとったが、もう我慢ができなくなって飛び出したんじゃ」
ご高齢になってから飛び出してくるとは、やはり中々ハイな人物だな、という感想が芽生える。
「シュトレーベ一族は本家が断絶の危機と聞きましたが」
「ワシがその本家の最期の一人じゃよ。息子と孫がいたがある時孫が戦死して息子が後を追ってしまったからな。妻も亡くなり、残るはワシだけじゃ」
「…では何故こちらへ?」
「シュトレーベ一族にはワシの後を継ごうとする馬鹿どもが何人もおるが、どれも継承するに相応しい器ではない。だからワシは後継を決めぬまま飛び出して来たんじゃが、ワシも自殺願望などないから天寿を全うしたい。じゃが生きていく為には食い物が必要じゃ。だからギルドに所属してありつこうと言う訳じゃな」
「随分ハッキリ言うんですね…」
「誤魔化してもしゃーないじゃろ?」
取り敢えず、目的は分かった。ギルドに入れても問題無いだろうと感じる。
そして、うちのギルドは1人眷属が増えた。
その日の夜、カトレア、アレス、ラミアにも経緯の説明をした。カトレアには
「神様は廃品回収業者ですか?それとも幸運の女神ですか?」
と言われた。首を傾げるしか無かったが。
アレスとラミアは速攻でガロンの元へ駆け寄り抱きついたりしていた。ガロンからすれば孫のような年齢差であり、少し懐かしむような表情をしている。
「ガロンじいちゃん、よろしくー!」
「よろしく!ガロンおじいちゃん!」
「きょ、今日あった人間にお、おじいちゃんじゃと!?まあ孫にもそう呼ばれておったが…」
ガロンが僅かに涙しているのを、俺は見逃せなかった。アレスとラミアとは別ベクトルに辛い世界で生きてきた人間なのだろう、と思えた。
その時、インターホンが鳴った。俺が代表して玄関に行き、扉を開けると、目の前に人がいた。
「こんばんは、楓斗君」
評議会の正装を着て丁寧にお辞儀する胡桃だった。




