第十三話 疑惑
洸平とのいざこざから1ヶ月。外の気温も段々と上がってきた。どうやらこの世界にも四季はあるらしく、転移した5月と比べて明らかに熱くなっている。こんな異世界でもクーラーは偉大である。
「ラミア、誕生日おめでとう!」
「おめでとう、ラミア」
そして今日はラミアの誕生日である。スラム街の頃から誕生日はきちんと祝福していたというアレスとラミアだが、今年は一段と豪華な誕生日になりそうだ。
俺とカトレアに祝福され、ラミアは上機嫌である。しかし一方でアレスは少し不満そうな様子である。
「ほら、アレスも祝ってよ、アタシの誕生日!」
「ラミアは良いよなぁ、もう僕は誕生日過ぎてるから…」
アレスの誕生日は3月なので、誕生日パーティーは来年までお預けである。ラミアと違って待たないといけないというのがアレスには納得いかないらしい。
「大丈夫だよアレス、アレスの時もまた目一杯お祝いしてあげるから!ね!神様!カトレアお姉ちゃん!」
「当たり前だ」「当たり前でしょう」
「…神様と姉ちゃんが言うならその時まで我慢します」
不満を言いながらではあったが、アレスもケーキを頬張ると途端に表情を変えて楽しんでいる様子だった。4人でケーキを食べて、幸せなひと時を過ごした。
ピンポーン。
それは誕生日パーティーが終わり、後片付けをしているところだった。
「ん?来客か」
「私が応対しましょうか?」
「いや、カトレアはアレスとラミアと一緒にいてやってくれ。俺が行く」
「わかりました、お願いします」
後のことをカトレアに任せて、玄関へと向かう。そして玄関の扉を開けた。
「やっホー、元気にしてくれてたカナー」
俺は猛烈に嫌な予感がして咄嗟にドアを閉めようとするが、早苗は隙間を抜けて入ってきてしまった。
「ひどいナー、楓斗君ハ。暴力罪で訴えて良いのカナー?」
「住居侵入罪で訴え返してやるよ。で、要件はなんだ」
「ああ、そうだそうダ。大事なことを忘れるとこだったヨ」
すると早苗は首から下げたポーチに手を伸ばす。そしてそこから取り出した眼鏡を掛けて、メモ帳とペンも取り出す。
「どうして洸平君を殺めたのか教えて貰おうカナー?」
俺と早苗の間に沈黙が流れる。じっと睨み合ったままの状態が数秒続いた。
「何の話だ」
「おっと、誤魔化せば通用すると思わないことダネ。洸平君が君に手を出して返り討ちにあった話はもう都市中に流れてるノサ。そして洸平君が亡くなっタ…まあログアウトしただけなんだっけ…とにかく、その情報も公開されたから噂になってるのサ。君が洸平君を殺したんじゃないかっテネ」
…思ったより悪い方向に傾いてるらしい。
「じゃあお前は何をしにきた。俺が叩ける格好の材料だと思って揚げ足を取りに来たのか?」
「そんなつもりはないサー。君の反応次第ではあるケド。まあ少なくともサ、君に取材する価値はあると踏んでこうして来たんだヨネ」
「ならハッキリ言ってやる。洸平は事故死だ。俺の眷属のカトレアとアレスがその場で見ているし、大体洸平の眷属に聞けばすぐ分かるだろ」
「ところがネ、洸平君の眷属達はみーんな行方不明になっちゃって、誰1人所在が掴まないんだヨネ。だからこうして君のところにきているという訳サ」
さらっととんでもないことを知る。俺は思わず早苗に詰め寄る。早苗が初めて怯えた表情を見せる。
「洸平の眷属が行方不明だと!?全員か!?」
「い、一部の眷属は遺体で発見されてるんダネ。だから巷じゃ君達が洸平君のギルドを皆殺しにしたってもっぱらの噂ダヨ」
思わず頭を抱える。知らない内にとんでもないことが起きていたらしい。しかも冤罪である。
「だ、だから早苗は君達を救うつもりで来たんだよネ。早苗や涼也君、それに評議会はまさか君がそんなことするとは思ってないからサ」
「…わざわざ心配しに来たのかよ。そりゃすまんな」
「心配というか、君達が実際してるかどうかに関係なく噂と対比した記事なら伸びるという確信でここに来たんだけどネ」
「やっぱ前言撤回。さっさと帰れよ」
…取り敢えず俺達を擁護してくれるというなら活用すべきだろう。だが、そのまま利用されるのも忌々しい。
「取り敢えず君達の言質は取れたからネ。ここは退散するヨ。報道社としてはともかく、早苗個人では君達の無実を信じているからネ!」
そう言って早苗は帰って行った。拠点の中に戻るとカトレアに
「やけに長い会話でしたね」
と言われたが無言で去って自室に入って誤魔化した。
「…取り敢えず涼也に話してみよう。あいつに頼るのが一番信頼出来る」
何やらまた、波乱の予感がする。




