第十二話 進捗
幸いなことに、帰り道は特に何も無く都市まで戻ってくることが出来た。洞窟の中で気づかなかったが、すっかり夕暮れの日が差し込んでくる。
「帰って晩御飯にしようか。カトレア、なんか用意してあるか?」
「…記念の日なので焼肉の準備をしてあります」
「やったー!姉ちゃんありがとう!」
「わーい!」
アレスとラミアが揃ってカトレアに抱きついた。カトレアも
「ひ、人前なんですよ…」
と言いながらも満更でも無さそうなのは表情からも明らかだ。こういう幼い行動を取るアレスとラミアはやはり見ていて微笑ましい。どうにも表情が綻ぶ。
カトレアに見つめられたので誤魔化すようにあらぬ方向を向いた。するとその先にはジャスターを始めとする洸平の眷属達が談合を開いていた。色々と複雑な気持ちではあるが、ジャスターが上手く纏めてくれることを願うしか無かった。
「神様」
カトレアから声をかけられた。何だろうと思い再び向き直る。
するとカトレアに抱きつかれた。思いっきり。
「…!?」
俺はびっくりしたまま口をパクパクすることしかできなかった。以前不慮の事故で触れてしまった果実の感覚がダイレクトに伝わり、嫌でも鼓動が早くなってしまう。
少しするとカトレアは照れた様子でこう言った。
「神様が欲しがっていた気がしたので」
そのまっすぐな眼差しを俺は直視出来ず、目を逸らしながら返答するしかなかった。
「ひ、人前であまりすることじゃないから…な?」
「人前じゃ無ければ良いんですね」
「いや、よくは無いけども」
「じゃあ駄目なんですね。残念です」
「い、いや、嬉しかったは嬉しかったから!」
カトレア、完全に俺で遊んでるな…。反撃も込めて頭を撫でてやると、慌てて離れて赤くなって固まってしまった。取り敢えず落ち着いたのでよしとしよう。
アレスとラミアがそわそわした表情で見つめてくる。おっと、2人が楽しみにしている焼肉をさっさと始めてやらないと。そう思い、3人に言った。
「ほら、そろそろ帰るぞ」
俺が歩き出すとアレスとラミアがついてきて、カトレアは後から慌てて追いついた。だがどれだけ歩くことに集中しても、カトレアから香った甘い匂いが頭から離れない。
焼肉パーティーは4人で飲み食いして大騒ぎだった。
「はいラミア、あーん」
「わーい、アレスありがとっ♪」
相変わらず微笑ましい2人だな、と眺めている。彼らは視界に入れるだけで目の栄養になる。
すると俺の前にも肉が出てきた。
「神様も食べますか?」
カトレアだった。いつもより少しだけ穏やかな、優しい眼差しで見つめられ恥ずかしくなる。
「そ、そうだな、貰うか」
意を決して口に運ぶ。
肉なのに妙に甘い気がした。
「美味しいですか?」
「…美味しくない訳がないだろ」
やっぱりカトレアは美少女で、策士なのだと思った。美しくて、冷静で、狡賢くて、可憐で…俺には勿体無い眷属だと再認識した。
賑やかに続く宴の裏で、新たなストーリーが進行していた。
夜。それは影達の楽園。悪夢が地を這い暗闇の住民となる。
「いやああああああああああ!!!!」
真夜中、裏路地の暗い広場に、女性の悲鳴が響いた。女性はまもなく肉片と化してしまった。
「メ、メノア!おい!死ぬな!」
男性が駆け寄るが、すぐにその首元にレイピアが輝く。
「ザグタス、お前はどうするんだぁ。俺に従うか、哀れに反抗してこの女のように今ここで死ぬか」
「…!!お、俺は、し、し、した、従います!」
「なら良し」
するとザグタスは頭上を攻撃され、気絶する。黒い影がザグタスに鉄の首輪をつけた。
「さぁて、これで5体目だなぁ」
黒い影…ジャスターは空を見上げる。今宵は満月だ。
「ここからは俺の好きにさせてもらうぞ、バカ神様よぉ」
黒い影が揺らめき、世の安寧に物申す。その先に何が待ち受けるのか、まだ誰も知らない。




