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多方面外交戦(上)

ハーメルン様での多方面外交戦のうち前半部に該当します

-一。-


日本はアメリカへアカを送り付けた一方で、事変終結に伴い協調外交への道をも模索していた。


「支那における局地的紛争に於いて日米両者の認識に齟齬がある為大日本帝国政府はアメリカ合衆国政府に"平和的解決のための"会談を提案する…首相殿、これはなかなかに…」


「なぁに、いいじゃないか。まさか電文の口調が多少挑発的だろうとそれを理由に戦争を吹っかけてくる未開国家じゃないだろう」


気丈に笑う平沼首相に流石の有田外相も頬を震わせる。


「しかし……分かりました、言ってみましょう」



しかしながら、日本政府の懸念とは裏腹に、米国政府は予想以上に早く了承の回答を寄越した。




「我々としてはですね、ええ。分かっておりますとも!あなた方は決して先祖の血を流して築き上げてきた東亜秩序を無に帰そうとは思わないでしょう…しかし、我々としては矢張り傀儡国家等認められません」


ハル国務大臣は日本に対して会談の頭からこう言った。


どうやらアメリカの思惑は日本のアジアにおける影響力軽減を、日本からの提案を受ける事を出汁として求めることにあるらしかった。


「…そうですか。その話については検討させて頂きましょう。それより我が国としては早々に大陸内部に引っ込んでしまった共産党軍の対処について話したいと思っていたのですが…」


主導権を握ろうとしないでくれと苦虫を噛み潰したような顔を極力消して有田外相はそう返す。


ハルは少々考える素振りを見せ──そして回答を待つ前に有田が続けた。


「聞けば貴国でも共産主義者の活動が活発化してきているそうじゃないですか。極東が共産主義に陥ちれば貴国はヨーロッパアジア両面からの共産主義攻勢に晒されることになる、それは貴国も困るのでは無いですか?」


ハルはそれらの言葉を中身の無い脅迫と即座に判断してそれを聞き流すと、考えたことをそのまま伝えた。


「貴国は"戦争"をしたために随分と疲労しているようですな。ええ、構いませんとも!昨日の敵は今日の味方だ、対共産戦線に我々も加わることと致しましょうか!ただしです!ええ、満州国の真の独立だけはしっかりやっていただければの話です」


有田はやはり、満州国の独立は既定路線であったために──しかしカモフラージュのために考える素振りをして。


「…良いでしょう、それで呑みましょう。我々は"紛争"のために時間的猶予を失いましたから直ぐに条約にして調印しましょう」


先程飲み込んだ分の苦虫を吐き出すように苦悩を顔に貼り付けて有田は言った。




「ええ、やりました。なんとかドイツとの関係が絶望的になる前に終わらせることが出来ました。はい、次はやはりドイツですか…行って参ります」


有田外相は数日の間日本の土を堪能すると、またも海外へ、今度はソビエトと──一時的にせよ──組み今にも英米仏との関係が完全に壊れそうなドイツ、そしてイタリアと良好な関係を継続するための交渉へ出掛けた。


-二。-


ドイツのリッべントロップ外相に招かれた部屋は、ナチス・ドイツ期に入ってから作られた、または改装された建物の例に漏れず、ある種の重圧を感じさせる絢爛な内装が施されていた。


喉がなりそうになるのを堪え、有田はリッベントロップに挨拶を済ませると、鞄から資料を取り出した。


「遥々ヨーロッパまでとは、一体貴国は我々に何を求めておられるのでしょうか?」


その仕草を一瞥してリッべントロップはそう尋ねる。

停戦仲介?いや、日本は中国利権を巡って欧州と争ってきた、否。

資源提供?なら道中の中東で交渉してくれば良い、否。

或いは、仲介ではなく自らの意志で停戦を求めに?理由は分からないけれど恐らくこの可能性が高い。

最後に、同盟締結という可能性を思いついて、すぐに頭から消した。彼らは別に終戦したのだから此処で結んでも敵を増やすだけだろう。


「我が国としては、貴国にこれ以上の敵を増やしては欲しくないのです」


有田は早速、資料を見せつつそういった。


「ほう?」


「日独防共協定以来、我が国と貴国は良好な関係を続けてきました。中国における紛争も終了し、今や両者の対立事項など存在しない…と私は言いたいのですがしかし、貴国はソビエト連邦と協同しポーランドを攻め落とし、さらには対ソビエトではなく同じ資本主義国家である西欧諸国へ牙を向けている…」


リッベントロップはどうしたものかと押し黙る。


「あぁいえ、別に非難しようというわけではないのです。我が国だって今後大東亜に関する問題で西欧諸国と対立する可能性は高いのですから…しかし、今ではない。後方に巨大なアカ共の巣食う国がある以上、今は協同してそれに対処するべきではないでしょうか?」


「………。私が親日家であるということは、有田殿も知っているとは思うが。総統閣下がどう思うかは別だ。この資料は頂いても?」


「ええ、どうぞ」


「では私は、総統閣下に報告し」


「その必要はないぞ」


突然の第三者の声に二人は揃って驚く。


聞いたことのない声ではない、いや何度もラジオや記録映画で聞いた声だった。


「そ、総統閣下!」


リッベントロップが美しいナチス式敬礼で総統に挨拶する。

有田もそれに倣い立ち上がって挨拶した。


「有田君、君はどうやら我が国の方針が間違っていると、そう言いたい訳だ」


「い、いえ、ただこの資料をご覧いただければわかりますように、資本主義の防衛、そして貴国の発展のためにもソビエト攻撃への専念が良いかと…」


「ほう?」


「ソビエト連邦は五カ年計画の成功に見られるように資源強国です。気候こそ寒冷ではありますが、木材なども充実していますし、それに南部には大規模な穀倉地帯も存在します。しかし地中海はその特徴のために大規模に耕作することも難しく、土地も痩せている上に石炭などを除けばソビエトへ進撃する場合より得られる資源は少ないでしょう。それに…これはどちらかといえば私個人の予想なのですが、恐らく貴国は西欧に対して戦争を始めても、結局ソビエトと戦火を交えることになるのでは?」


「…続け給え」


「恐らく個別に敵と戦おうとしても、彼の国らは連合を組んでくるのでは?そして、その中にきっとソビエト連邦の名も入ってくるでしょう。彼の国らはきっと、貴国をずっと敗戦国のままにしておきたいのです」


「敗戦国…全く嫌な響きだ」


従軍経験の豊富な総統は「敗戦国」という言葉へ殊更に嫌悪感を抱く。そして続けて、


「そうか…貴国の意志はよく分かった。良いだろう、日独華伊防共協定を発足しようではないか!」


総統は笑みを唇の端へ浮かせ、日華、そして独のみならずイタリアの参加をも示唆した。


「それは…?」


「親愛なるドゥーチェも言っていた。その時私は気にし過ぎだとあしらったのだが、遠く離れた貴国ですら気にするような事態だ、特に不利益もないようだし、まぁやってみようじゃないか」


どうやら半分くらいは日本の功績ではなかったようだが──とにかく今回の"総統の気まぐれ"は日本にとって都合のいい方向に向かっていた。


-物理。-


斯くして大日本帝国は中華民国との国交を回復し、米独伊とも協力してアカ狩りを行うこととなったのだが、それにあたっては当然、関係が悪化する国があった。


ソビエト社会主義共和国連邦(СССР)である。





「…であるからに、共産主義は現状の人類社会には適さないものであり、過激な活動をする者は勿論のこと、それを広めようとする共産主義国家は到底受け入れ難く、もってここに自由な資本主義の防壁を建設することを宣言する」


思想の聖地、フランスのパリにて各国首脳が集まり開催された「自由連絡会議」はアメリカ代表によるこの言葉で締めくくられた。


結ばれた防共条約の参加国は日華独伊をはじめとして米英瑞、そして最終的には合意に達しなかったものの蘭仏も会議には参加していた。


蘭仏が条約に参加しなかった主因として、真っ先に日独の名が上がる。


元々大戦の結果余り良好とは言えない関係であった独が参加しているのに加え、日本代表の有田外相が「真に競争的で自由な経済活動の為には植民地経済の打破が必要では無いのか」と暗に仄めかしたのが事の始まりである。


先の大戦で多くの海外領土を失ったドイツと植民地化の対象とされてきた中華民国はこれに乗じて旧来の体制を批判すること30分。


少し手を洗いにと扉の外へ出ていったイギリス代表が帰ってきた頃、会議室は居酒屋が如き様相を呈していた。


その様子を見ていた各国秘書はこう語る。

曰く、「フランス代表は目にも止まらぬ速さで手を振った」と。

曰く、「ドイツ代表が椅子から落ちるのと、支那人がレジュメを丸め出したのは殆ど同じ頃合だった」と。

曰く、「踊る会議の方がよっぽどマシだった」と。

曰く、「ヤツの脳天にしっかりと紙玉をぶつけてやった」と。


イギリス代表は大きく咳をして大袈裟に扉を閉めると、何事も無かったように席へ座る。

それを合図にアメリカ代表がフランスとオランダを止め。日本代表が中華民国を止め。イタリア代表がドイツを止められずに机の方へ倒れ。


大きく深呼吸をして日本代表が

「えぇ…。はい、日本としては本国のみならず植民地各国も今後構築する大経済圏に入れては、と言う意図だったのですが…」

「まぁ、そういった問題を解決する為にも継続的な会議の場の必要性は皆理解しているでしょう」

とアメリカ代表は遮り、ついで持論を話そうとした矢先に英国代表が

「コモンウェルスは貴国らの加盟をお待ちしておりますよ」

と冗談めかして言ったのに米華両方が明らかに嫌そうな顔をする。

この進行に憤慨して蘭仏両代表は

「どうやら我々は参加する会議を間違えたようだ」

と怒りを顕にして立ち去った。


流石に各国が懲りたその後の会議は恙無く進行し、条約の調印と相成ったのだった。



余談ではあるが、その後各国代表が滞在したホテルの食事はアメリカ代表も首を傾げる微妙な味だったそうな。

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