03話魔力暴走(?)~ユーリン視点~
私はユーリン・シュベルバ。このラヴィス王国の魔法学院に努めて、早6年になる。
日々、生徒を立派な魔法士にするため、毎回授業では皆が集中できるように、勉強の仕方を工夫している。
私たち教員は、対面式が終わったら職員室、又は生徒指導室、情報管理室など、自分の担当の場所に戻っていた。
戻るや否や、疲れたのか50代の教員が口を開く。
「ふぅ。今日は日が強く、とても暑かったですね。私みたいに歳をとった人間は、この暑さにはかないませんな。ハハハっ」
「ですね。そういえば、ユーリン先生、今日は生徒と同じように前ならえをしてませんでしたか?」
若い男性教員が、急に話題を私に振ってきた。
「あぁ。私たちは本当はしなくてもいいんだが、私はこう考えているんだ。前ならえをするのは少ししんどくて、これを長時間しているのはきつい。それなのに、見ているだけの教員が『もっと腕を上げろ』とか、『まだ下げたらいけない』などと言ってごらん。多分生徒は『とてもしんどいのになんでこんなこと言ってくるんだ』って思うに違いないだろう?それを理由に去年辞めていった生徒が何人かいるじゃないか。私はこれはいけないと思って、今年は一緒にやってみたというわけさ」
「あぁ。なるほど。確かにあの態勢は結構しんどいですもんね。特に筋肉があまりついてない人は。僕も経験したことがあります」
「あぁ。多分明日は筋肉痛だよ。ハハッ」
まぁ、私が生徒に向かって時間を設定して前ならえをさせたのだから、自分のせいでもあるのだが。
少し一息つこうと紅茶をティーカップの中にそそぐ。
すると、職員室にいた一人の女教師が口を開く。
「あっ!それ、新しく発売された紅茶ですよね!私もそれ買ったんです。飲んでみたら、とても香りがよくて、リラックスできましたよ!ストレスが溜まってたり疲れた時には、もぅ欠かせません!」
「ほぉ。そうなのか。これはいいことを聞いた。私は今日初めて飲むのだが。ふむ。いいにおいがするな。疲れているときに飲んだらいいのか。よし、今日は寝る前にでも飲もうとするか」
「それがいいと思います!」
女教師はそういうと、
「あぁ!もうこんな時間!次の授業の準備して教室に行かないとッ!それではユーリン先生、失礼します!」
と言って、職員室を出て行った。うん。元気で何よりだ。
私は一口飲む。これは贅沢な気分になる。これはストックしておく必要があるな。
そう考えているときだった。
急に不穏な魔力を感じる。人を殺そうと思っている人間が発している魔力と同じ感じの魔力だ。
私は椅子から立って、職員室から出ようとした。すると、今年から入ってきた新任の男性教員が、
「ユーリン、ユーリン先生はいますか?!」
と大声を出して入ってきた。少し息が切れている。走ってきたのだろう。
「どうした!何があった!....それと、さっきの魔力、何が起こっているんだ!?」
「わかりません!しかし、2学年の紫クラスで魔力暴走が起こってるみたいです!このままだと生徒たちが危険です!直ちに来てください!」
「魔力暴走だと?!誰が魔法を使おうとしているんだ!分かった。今から行こう。君もついてきてくれ!」
「はい!分かりました!」
魔力暴走。魔法を放つときに起きる、魔力変換のミスだ。普通の魔法だと、軽く爆発する程度なのだが、今回は違う。しかも、さっき感じた不穏な魔力の根源も2学年の紫クラスの可能性が高い。
私たちは急いで紫クラスへと向かった。
ガラガラガラドン!!
勢いよく私は扉を開ける。
「君たちっ!何をしている....って、うわっ?!」
扉を開けて、魔力の中心の生徒達に近づこうとした瞬間、高密度の魔力の風が私の体を床にたたきつける。
バタッ!
「え?うわっ!ユーリン先生、大丈夫ですか?!」
一緒に来た男性教師が私を心配して近づいてきた。
「お、おいっ君たち!周りに渦巻いている魔力を今すぐに開放しなさい!」
私は起き上がり、生徒たちに声をかける。
「うぅ....っ!....先生?」
ここで、魔力の中心にいた生徒の一人の自我が戻る。だが、少し遅かったようだ。
「ま、魔力が...っ!先生っ...もう制御できねぇ...っ!クッソォォ...」
どうやらもう制御できないほどの量が集まってしまったらしい。
「なんだと?!もう制御ができないくらいの魔力が集まったのか?!」
いけない。このままだといけない。そう思っていても、この状況を抜け出すことのできる方法は、今では誰も使うことができない忘れ去られた古代の魔法以外にはなかった。
「いかん。わしにもこれはどうにもならん...!!」
「なんですって?!なら、あの子たちは破滅することになるんですか?!」
男性教師が近くで声を上げる。
それが生徒に聞こえたのか、
「そんな...俺たち死んじまうのか?!誰か助けてくれよ....っ!うっ..!」
不安をあおってしまった。そのため、もっと魔力が集まっていっているのが分かる。
私は、この他の周りの生徒を避難させて、安全に距離を保って、魔力の中心にいる生徒を見捨てるか、生徒を助けるか、迷っていた。
すると、とある生徒が言った。
「先生、皆。ちょっと下がって。」
正直この言葉を聞いた時には、何を言っているんだ?この生徒は。と思った。しかし、次の瞬間には腰が抜けるような驚くべき現象が起きた。
1人の生徒が言う。
「奇跡の禁魔終刻」
すると突然、彼を中心に、魔力がなくなっていくのが分かる。まるで何もない空間にいるように。
1秒もたたないうちに、何事もなかったように、魔力が普通に戻っていく。元々そこにあったかのように。
信じられない。声を発することもできない。あの状況を抜け出せるのは、古代の魔法以外にはないはず。そして、それを使える人はもうこの世界には一人もいないはずなのだ。
頭がボーっとした。目の前でありえないことが起きたのだから。生徒たちが教室から出ていくのが見える。だが、私は少しその場から離れることはできなかった。
このことは、生涯私の思い出の一つになるだろう。そして、あの魔法を使った彼は、絶対に、近々大物になるのは間違いない。そう思った。