第69話 ユカにコスプレの元ネタを視聴させた
俺が初の女装体験を得た翌日、ミカとユカは再び俺の部屋にやって来ていた。
「衣装レンタルの店に連絡したらオッケーもらえたよー。キャラの画像を見せたら、似てる衣装置いてあるってー。あと店長さんがユカのこと知ってたみたいで、高校生料金ってことで格安でレンタルさせてくれるみたいー♪」
「あとはスタジオ……だよね……。スタジオは高くつきそうだし……家で撮る……?」
「家だと雰囲気でないと思うぞ。せっかく衣装を借りても背景が普通の家だと一気に陳腐になるだろうし」
昨日SNSでコスプレ写真を調べてみたけど、衣装だけじゃなくて背景にもこだわらないとコスプレ感……悪い言い方をするとお遊び感が増してしまうと気付いた。
もちろんコスプレなんて本人が満足すればそれでいいのだが、せっかく読モ経験者のユカがいるのに安っぽい写真に仕上げたくない。
それに三人の作る夏の思い出、どうせなら本格的なものに仕上げたい……なんていうのは贅沢しすぎだろうか。
「あ、そういえばカメラとかは……? うちの家って……カメラないよね……スマホばっかり……」
「それは大丈夫かなー。リョウ君のスマホ、それ最新機種だよねートリプルカメラ搭載されてるってCMで言ってたの、ユカ覚えてるー!」
「あ、ああ……まぁゲーム目的で性能が高いから買っただけでカメラなんてほとんど使ってないんだけど……」
「宝の持ち腐れ……?」
「ぐ……そう言われると返す言葉もない」
確かにミカの言う通り、たかがソシャゲのために最新機種の最上位モデルを買うってのも勿体ない話だよな。
父さんが単身赴任するから迷惑かけてすまんってことで、お詫びにこれを買ってもらったけど……。
でも最近のソシャゲって3Dでぬるぬる動くし、2Dにしてもアニメーションとかもりもりだからなぁ。メモリとか処理能力高くないとアプリが落ちちゃうんだよな。
少しでも型落ちのスマホだとゲームをすることすら叶わない。そのせいで中学の頃、学校中で流行ってたソシャゲの話題に俺だけついていけなかったこともあったりした。
まぁ仮にやってたとしても話す相手がいないんだけどな、HAHAHA。
俺が一人寂しい過去を思い出していると、ユカが俺のスマホカメラを興味深そうに眺めてきた。
「なんかねー、この広角カメラと超広角カメラと望遠カメラの3つが合わさって専用の高いカメラと同等かそれ以上の写真を撮れるって聞いたよー」
「これそんなに凄いやつだったのか……」
広角カメラとかの意味は知らんがその説明だけ聞くとすごい気がしてきた。
本当に宝の持ち腐れだったんだなこれ……。
「じゃあ……カメラは問題ないんだね……」
「あとはやっぱり撮影場所だよねー」
結局そこに行き着くのか。
俺たちがコスプレをする作品『私を彼女にしないなら他のヒロインを〆ます』……最近公式が“〆カノ”って略称を使いたがってるから〆カノと呼ぶか。
“〆カノ”は学校が舞台だから出来れば学校で撮影したいよなぁ。でも夏休みの校舎にコスプレして侵入するってヤバすぎるからナシか。
誰が好き好んで女装して母校に忍び込まなきゃならんのだ。絶対にやるかそんなこと。
ということはスタジオを借りることになるわけだが、高校生の俺たちにそんな大金は用意できない。金額について詳しくはないが、何事も専用のスペースを借りるっていうのは金がかかるだろう。
三人で割り勘すればなんとかなるかも知れないけど、今月は新刊の同人誌も買いたいし出来れば節約したいんだよなぁ。あ、言っておくけど全年齢向けの同人誌だからな。俺は18歳未満だからな、そこんとこのルールはちゃんと守るのだ。
「『コスプレ 撮影 安い』でスマホで検索……うぅ……この辺だとやっぱりスタジオなんて無いね……。昨日ユカちゃんが言ってたみたいに……ホテル借りる……? ほら、これとか撮影オーケーで……安い……よ」
「んーどれどれ。お、たしかに安い! これなら三人で千円ちょっと出し合えば借りられそうだな! ……ん?」
「ど、どうしたの……りょう君?」
ミカのスマホに表示されているサイトをよーく眺めてみる。
何故だろう、どこか違和感を覚える。このやけにでかいベッドとか、ガラスが透明で丸見えのシャワー室とか、部屋のライトとか……。
画像一覧から漂ってくる艶めかしさがハンパじゃない。これ本当に普通のホテルか?
サイトをスクロールしていくと、確かに『コスプレ・撮影可』と書いてあった。
駅前から徒歩5分でつくし、結構近くにあるようだ。
だがやはりどうしても違和感が拭いきれない俺は、このサイトのトップページに戻って詳細を読んでみた。
「ぶーっ!」
「ど、どうしたのリョウくんー!? 急にお茶吹き出したりして!?」
「お茶……お茶こぼれてる……! 吹かなきゃ……えっと布巾は……」
「ミカ、お前このホテル……! ラ、ラブ……」
「あぅ……? なにか……まずかった……?」
まずいに決まってるだろうが! 何か変だなって思ったらこれラブホじゃねえか!
高校生の男女がこんなとこ入れるわけねぇだろ! ふざけてんのか!
……いや、リア充は案外普通に行ったりしてるのか? 行ったことあるやついそうだな。うちのクラスとかそういう話する男子普通にいるし。
けど俺は絶対認めないぞ! 付き合ってもない男女がラブホに行くとか、たとえ撮影目的でも駄目だ!
それこそミユさんや康介さんに顔向けできない。娘をそんなところに連れて行ったなんて知られたら、二人がどう思うことか。
ミユさんは……なんか喜びそうで嫌だな。康介さんは……また昔を思い出して黄昏そうだな。
「と、とにかくここは駄目だ! 絶対にノウ!」
もし知り合いに見られでもしたら大変だし、最悪停学処分の可能性だって大いにある。
こんなところで撮影するくらいなら、母さんの部屋で撮影した方が万倍マシだわ。
ユカは俺の態度を見てぶーたれる。でも仕方ないじゃない、ラブホは駄目だって。
「もーそんなに文句言うならリョウ君が場所決めてよねー」
「わ、分かったよ。撮影場所は俺がなんとかしとく。……あんまりあの人の手は借りたくなかったけど」
あの人の部屋なら撮影環境とかも整ってるだろう。グリーンバックとかあるから、最悪背景なんかは合成でいけるはずだ。
フリー素材の学校の画像とかと合わせればそれっぽい写真に仕上がるんじゃなかろうか。
あの人に借りを作るのは本当に嫌だけど……少しでも節約するためだ。致し方ない。
「う……? りょう君……あの人って……?」
ミカが小首を傾げながら可愛らしく尋ねてくる。しかし俺はその問いには答えず、あえてはぐらかすのだった。
だってあの人とミカ・ユカが関わる機会をこれ以上増やしたくないし。
「いや何でも無い、気にするな。それよりもユカ! お前もコスプレをやる以上絶対にやっておかなきゃいけないことが一つある!」
「え? なになにー。ユカが絶対にやらないと駄目なことってー?」
「それは、最低限その作品に目を通すことだ!」
「それは……そう……。ミカも必要だと……思う」
そう、コスプレをする以上元ネタの作品のことを最低限知っておいてもらいたいというのがオタク心なのだ。
話題だからコスプレするとか、デザインが気に入ったからコスプレする。それは別に悪くない。
だが身内がやるのならせめてアニメくらいは見ておいてほしいと思うのは俺のわがままだろうか。
本当なら原作小説も全巻読ませたいところだが、そこまで行くとただの厄介オタクになっちゃうから自重しておこう。
「というわけで今からユカに〆カノのアニメを全話視聴してもらいます!」
「えーユカアニメとかわかんないよー」
「大丈夫……まだ6話くらいしか放送されてないから……三時間もかからない……よ」
「三時間もアニメ見るのー!? めっちゃ大変じゃんそれー!」
「「え? どこが?」」
「えー!? リョウ君とミカちゃん息ピッタリで怖っー!」
アニメを三時間見る程度普通だろ? 何を言ってるんだユカのやつ。たかが6話程度だぞ。
話題のアニメの一ヶ月ちょっとのストックに三時間で追いつけるならむしろありがたいだろうに。
俺もたまにノーマークだったアニメが途中から盛り上がって話題になってたりすると、配信サイトで一気に追いつこうとするしさ。
「え、ちょっ本当にアニメずっと見るの!? ユカそういうの詳しくないから、まずはちょっとずつとか……!」
「ユカちゃん……前クールの時に……ミカがレスマスを勧めても……全然見てくれなかった……。OPだけは覚えてくれたけど……」
「ミカちゃん、ちょっと顔が怖いよー? どうしたの、ほらスマイルスマイルー?」
「諦めろユカ。もう〆カノの録画を再生する準備は整った。お前はもう逃げられん」
こうして俺たちはユカに〆カノのアニメを一気視聴(とは言っても6話だけしかないけど)させたのだった。
アニメを見ている間、ユカは『この子何考えてるの?』とか『えーユカがコスプレするのこんな怖い子なの!?』とか非常に面白いリアクションを残してくれた。
ちなみに俺もミカも数回目の視聴なのでお互い声優の話題を話したり、作画や演出を褒めたりしていた。
そんな俺たちを見ながらユカはなぜか不満そうにふくれっ面をしていたのだった。
とりあえずユカにコスプレの元ネタを理解させることは出来た。あとは撮影場所についてだが、とりあえず父さんを通してあの人にお願いしてみるとするか。




