第68話 ユカがコスプレにやる気満々です……あと女装いいかも
「やったー! 読モの知り合いに連絡したら、アニメ系のコスプレ衣装とか貸してくれるお店知ってるってー! 撮影とかはスタジオ借りるか、ビジネスホテル借りたりしなきゃいけないけど、とりあえず三人分の衣装はどうにかなりそうだねー♪」
「え、ちょっと待って。俺もやるのそれ? ユカだけじゃなくて?」
「ミカもやらないと……ダメな流れ……? ユカちゃんならコスプレも……似合うかもしれないけど……ミカは自信ない……」
ユカのいきなりの提案にいまいち乗り気になれない俺とミカ。
当たり前だろう。京都に旅行で行ってノリで舞妓さんの格好をするのとはわけが違うんだから。
オタクにとってコスプレっていうのは、その作品やキャラに対する最大限の愛の表現だ。気軽にやれるようなことじゃない。
そもそも読モやってるユカと一緒にコスプレやるって、ハードルが高すぎやしないか?
「大丈夫だってー。ミカちゃんはもちろん、リョウ君もスタイルはいいしきっとイケるってー」
「その自信はどこからくるの。俺自身に自信がないのに」
「ミカちゃんだって、ユカとほとんどスリーサイズ変わらないんだから問題なし! ねぇ、せっかくの夏休みなんだし普段やらないことにチャレンジしてみようよー」
いやミカとユカのスリーサイズが同じっていうのは少し議論の余地が……おっと余計なことは言うまい。
ユカのお腹の方が綺麗なラインが見えてるとか、ミカの胸のほうがユカより……とか言わないほうがいいだろうな。
言っておくけどお腹の件は決してミカが太ってるとかじゃなく、普段からモデルの意識を持ってるユカの方が引き締まってるってだけだ。
ミカも標準からすれば十分痩せ型に分類されている。鍛えてないから柔らかそうなお腹に見えるけどさ。
「ほら、ユカちゃんとリョウ君が今見てる……えーっとなんだっけ、物騒なアニメあるじゃん。リョウ君が大事そうにとってるクリアファイルの子たちなら、人数的にもいいんじゃない?」
「ああ『私を彼女にしないなら他のヒロインを〆ます』な」
「りょう君に勧められて……見てるけど……思った以上に面白いよね……。ヒロイン同士が仲悪いのに……それを主人公に悟らせないよう……表面上は仲良さそうにしてるのが……逆にカップリング人気出てるね……」
「あれなら確かにアニメに出てるヒロインは三人だし、それなら数が合う……って待てや!」
「んー? どしたの急に大声出して」
「どうしたの? じゃない! ひょっとして俺にやらせるコスプレって……」
「うん、その金髪ボブのキャラ。身長的にもスタイル的にも丁度よくない?」
「アホかっ! おバカっ! 俺に女装させる気かお前は! 信じられねぇ、あり得ないわ絶対無理!」
この女は悪魔に違いない。俺にコスプレをさせるならまだしも、それが女装だなんてもはやいじめのラインにまで到達してるんじゃないのか?
しかもよりによって俺のお気に入りの『沙上狭霧』をやらせようとしてるなんて、分かってやってるんじゃないだろうな。
「いや似合うって。リョウ君体細いし、その女の子も胸は小さいみたいだし、結構スタイル近いもん」
「顔面の偏差値がだいぶ違う気がするんですがそれはどうなんですかねユカさん」
「もう、ああ言えばこう言うなぁー。ミカちゃんはこっちの赤い髪の子が似合いそうだよねー」
「え……む、無理だよユカちゃん……。ミカ……こんな可愛いツインテールキャラ……出来ない……。ミカは教室の隅っこに映ってる……モブのコスプレでいいよ……」
それはもはやコスプレじゃなくミカ本人では? とは言いづらいけど、ミカが赤髪ツインテールヒロイン『日ノ宮可憐』のコスプレをするのはありだな。
細身ながら出てるところは出てるスタイルは似ているし、タレ目な感じもイメージに近い。
しかしミカと可憐では性格に随分と差がある気がするが……。ミカは弱気な子だけど可憐は強い言葉を使ってグイグイ来るツンデレヒロインだ。
体型や顔のパーツは似ていても、可憐のような表情をミカが出来るかと言われれば難しいような。
「ってことはユカがやりたいのはメインヒロインの『黒川殺芽』か」
「そうそうその子。この三人のコスプレやろうよー」
「いや、でも女装は流石に……。無理だって、絶対似合わないって!」
「むぅ……中々強情だなー。しょうがない、リョウ君ちょっと服脱いで」
「えっ!? 何で急にストリップ披露しなきゃダメなわけ? なに、俺の裸を写真撮って脅すつもりなの? SNSに拡散するつもりなの? ネットの海に俺の黒歴史を漂わせる気なの?」
「もういいから脱ぐー!」
「ちょ、やめっ! いやーユカ乱暴されるーっ!」
「ふざけてないでちゃんと脱げー!」
こうして俺は何の罰ゲームか、自分の部屋で双子の美少女を目の前に半裸にされてしまった。
最後の抵抗として両手で乳首を隠してるけど、ソレが余計惨めで情けなさを醸し出してるような気もする。
何度も言うけど俺に露出趣味は無いって言ってるのに……。何この状況……。
「よし、じゃあリョウ君あっち向いてて。……見ちゃダメだからね?」
「はい? 一体何を……ってうわっ」
俺の顔に生暖かい布が覆いかぶさり、慌てて払いのけると、その正体はつい今までユカが着てた服だった。
そして後ろからユカが別の服を着ているのか、布の擦れる音が聞こえてくる。
なにこれ、お互いが裸を晒し合うストリップショーか何か? 高校生にしてはちょっと過激すぎやしませんかユカさんや?
「こっちは準備オッケー。リョウ君、その服着てみてよー」
「そ、それって俺がユカの服を着るってこと? 何言ってるのお前? あと俺のシャツ勝手に着るなよ」
「説明するよりまずはやってみて。後で分かるからさー」
ったく、やること全部突然なんだもんなぁ。俺は文句も言えずユカの言いなりになるしかなかった。
ユカの服は丈こそ足りなかったが、割とすんなりと着ることが出来た。ただこの服を着ている自分の姿は絶対に見たくないな……。
「ほら、これで満足か? 見てみろ、丈が足りないせいでへそチラしちゃってるぞ。男のへそチラとか需要ほとんど無いんだぞ、分かってるのか」
「うんうん、肩も特にきつそうじゃないしお腹周りも大丈夫だねー。ユカより10センチくらい身長が高いとすると、あとは……」
「りょう君、ユカちゃんの服着れるって凄いね……ミカも昔はユカちゃんの服借りてたけど……最近はパツパツで入らない……。ミカ、太ったのかな……」
それはたぶんミカの胸が成長……いや何でも無い。
「なぁユカ、確かに俺って男子の中では痩せ型だしレディースも着れるかもしれないけど、それでも女装って相当きついと思うんだけどさ。無理だって絶対」
「ふっふっふ。まぁ本番はこれからだよ、じゃーんユカのコスメセットー! これでリョウ君をちょちょいのちょいっと」
ユカはメイク道具一式を取り出すと、俺の顔に何か色々と付け始めた。
「わわっ、やめろって本当に! く、くすぐったい! いたっ、まつ毛になにかしたか!?」
「あーもう暴れないで! ユカの超高速メイク術と、あとリョウ君の部屋にあった使ってないテープでおでこを上げて……目を強調して……それにマスカラを重ね塗りしてからシャドウを入れて……出来上がり!」
ユカは満足そうに額の汗を拭き取って、俺に鏡を差し出してきた。
横にいるミカは驚いた表情でこっちを見ている。一体どんな化け物に仕上がってしまったのやら、今から鏡を見る手が震えてるぜ。
「ほら、ちゃんと鏡見てよー。どう、結構イケてない?」
「どーせいかにもなオカマみたいになってるんだろ……って、誰だこれー!?」
衝撃だった。鏡に写ってるのは俺ではなかったのだ。
いや俺なのは間違いないんだけど、じゃないと怪奇現象とかホラー系の話になっちゃうし。
だが鏡にいるのは普通に女に見えなくもない、目もぱっちりと開いた――どこか若い頃の母さんの面影を感じる顔が映っていたのだ。
「やだ……これが私……?」
「りょう君……あまりの衝撃に……女言葉喋っちゃってる……よ」
「元々リョウ君ってまつ毛長かったしねー。普段は目つきのせいでそのまつ毛も隠れちゃってるけどさー。だからこうしてテープでおでこを引っ張り上げて、まつ毛を盛ったら絶対イケるって思ってたんだよねー。テープはウィッグとかで隠せるし大丈夫でしょ」
「す、すごいよユカちゃん……これなら……りょう君も『狭霧ちゃん』のコスプレ出来るかも……!」
「ミカちゃんもしっかりメイクすれば出来るよー。ね、どうかなリョウ君。ちょっとは興味湧いた?」
「いや、もう何ていうか……びっくりしすぎて言葉が出ないですわ」
いかん、ユカのメイクがすごすぎてさっきから女子みたいな喋り方しか出来ん。
しかしマジで凄いなこれ。死んだ目をしてた俺がメイクだけでこうも変わるか。
確かにSNSで女装コスプレイヤーで本物の女の子並に可愛い人もいるけど、ああいうのって全部写真の加工だと疑ってたわ。
けどメイク次第で男でも普通に可愛くなるんだな。まさに『可愛いは作れる』ってやつじゃん。すごっ。
はぁ~これが俺か~。いや、悪くないんじゃないか? 自意識過剰かもしれんが、結構アリでは?
「ねぇミカちゃん、リョウ君さっきから鏡ずっと見つめてるんだけど……ユカ、本気出しすぎちゃったかなー!?」
「ユカちゃんのメイク術は……普段おしゃれしない人には……毒……。あまりのギャップに……りょう君ハマっちゃうんじゃないかな……女装に……」
「さ、流石にそこまでさせる気は無かったのにー! ど、どうしようミカちゃん! このままリョウ君が女装コスプレにハマったら大変だよー!」




