第62話 ミカとユカと夏の海
「おーい! 早く早くー!」
荷物を持って浜辺に行くと、ユカが手を振ってこちらに呼びかけてきた。
ミカとユカはシャツとスカートを着て水着姿にはなっていなかった。
そういえば海ってどこで着替えるんだろう。小学生の頃は車の中で着替えてたっけ。
ちなみに今の俺は水着を着てその上にシャツを着ている。着替えのパンツを忘れないように再三チェックしたぜ。
帰りにノーパンとか絶対イヤだからな。ノーパン健康法とかあるけど、俺は裸族じゃないし。
「ここ人少ないし、パラソル立てるならここがいいよ」
「そうするか。よいしょっと」
俺はビーチパラソルをその場に突き立てて、肩にからっていた荷物をシートの上に置く。
すると早速ミカがシートに寝そべってしまう。
「あぅ……日差し強い……ミカ、もう疲れた……」
「早い! 早いよミカちゃん! 海水浴はこれからだよー!」
「僕が荷物を見てるから三人は遊んできなさい。ほら、ミカのために浮き輪も準備してるよ」
「ありがと……お父さん……」
「なんだ、浮き輪がないと泳げないのかミカ? うちの高校で水泳の授業がなくてよかったな」
「うん……ミカ、クロール25メートル……1分かかる……」
「それはさすがに遅すぎるな……。後ろのやつに追い越されちゃうわ」
ミカにそんな事を言いつつも俺も別に水泳は得意じゃないんだけどね。
クロールと背泳ぎくらいなら50メートルは平均タイムで泳げるけど、平泳ぎとか無理だわ。
あんな泳ぎ方でよくみんな泳げるよな。中学の授業で平泳ぎできなかったの俺だけだったぞ。
クロールとかならともかく、平泳ぎなんてみんなどこで教わってるんだろう。謎だ。
「さーて! じゃあみんなで海に入ろっかー! さあ、ミカちゃんも準備してー」
「う、うん……りょう君……少しあっち向いてて……」
「お、おう」
ミカに言われて二人から背を向ける。その時康介さんと目があったが、にっこりと笑うだけで特に何も言わなかった。
さっきの話を聞いたせいか、康介さんの表情に何か深い意味があるように感じてしまう。
若い頃の康介さんと俺の立場が似ているとか言って、変な心配をしてくれているけど……。俺みたいな陰キャに男女間のトラブっちゃう展開なんてあるはず無いだろう。
「リョウ君、こっち向いていいよー」
ユカの声に頷いて前を振り返ると、そこには水着姿のミカとユカ――二人の美少女がいた。
「えへへー♪ どう、ユカたちの水着。似合うかなー?」
「ひゃう……は、恥ずかしい……あんまり、見ないで……ね」
「わぁ……」
「な、何か言ってよー! 自信満々で披露したユカたちが恥ずかしいじゃん!」
「いや、うん……えっと、に……似合ってるよ二人とも……すごく」
ユカの水着はビキニにホットパンツを組み合わせた水着だ。水着を買う時にユカに似合うだろうとは予想していたけど、これは想像以上だ。
綺麗で均等の取れたスタイルに、出るとこは出て引き締まっているところはちゃんと引き締まっている。
さすがモデルにスカウトされるだけのことはある。もはや下心を抱くどころかただただ見惚れてしまうばかりだ。
ミカの水着姿は試着した時に見たが、やはりいいものだ。
フリルの付いた可愛らしい水着を着つつも、普段見えない素肌を拝めて眼福に尽きる。
しかもだ。いつもミカは髪を下ろしているのに、今日に限っては二つ結びにしている。
俺って長い髪を二つ結びにして、おさげを肩の前に垂らしてるの大好きなんだよ……!
ツインテールの派生とも言えるこの髪型は通常のツインテールと違い、現実でしていても可愛く見えるのがポイントだ。
おまけにミカに似合っている。少し恥ずがしがっているのも高ポイントだ。
「ミカ、その髪型すげぇいい……百点満点あげたいぞ。革命だ、人類の革新だわこれは」
「そ、そう……かな? この髪型、ミカに似合う……?」
「ああ、最の高と言ってもいい! まさかミカにこんな隠し玉があるとは思わなかったぞ……!」
「にゅふふ……そう言ってくれると……なんか嬉しい……。本当は……背中に髪が当たるから……纏めただけだったんだけど……」
「ナイス判断! そうか普段のロングだと水着のせいで背中に当たっちゃうのか。リアルの女子は布面積の都合で髪型を変えるんだな……勉強になる」
やはりミカは落ち着いたデザインや髪型が似合う女子だな。
こういう水着と髪型、普段とは違う二つの要素のおかげでプレミア感が凄い。
「むー……」
「ど、どうしたのユカちゃん……?」
「べっつにー。そう言えばユカも髪の毛が邪魔だから縛っちゃおうっかなー」
そう言うとユカは後ろ髪を纏めてポニーテールにした。
そしてこれ見よがしに俺に後ろ髪と白いうなじを見せつけてきた。
「おぅ……」
「へへーん、やっぱりリョウ君はこっちの髪型の方が好きなんだねー♪」
「ち、違うぞ! こういうのは普段と違うプレミア感が大事なんであってだな……!」
「えー? さっきからユカのうなじばっかり見てそんなこと言っても、全然説得力なーい♪」
「くそ……二人して俺の弱点ばかりついてきやがって……!」
「さぁて、今度はリョウ君の番だよ~」
ユカはじりじりとこっちに寄ってきて俺のシャツを脱がそうとしてきた。
そうはさせるか! こっちは海の中でもシャツを着るつもりなんだよ! 脱がされてたまるか!
「むむむー強情なー。ほらミカちゃん、ユカが抑えてるからそっちからも脱がして!」
「え、おい待て! 嘘だよなミカ!? お前は俺の味方だよな、なあ!」
「りょ、りょう君……ごめんね……えいっ!」
「ぬぅおわ!」
二人のコンビプレーにより俺の体を守っていた鎧もといシャツはいともたやすく脱がされてしまった。
こうして夏の日差しが降り注ぐ空の下に、陰キャの貧相な肉体が白日の下に晒されてしまった。
「……笑うなら笑え! 家に引きこもってばっかで、筋肉もないしビックリするくらい白い俺の体を……!」
「わっ……」
「あぅ……」
ミカもユカも特に何も言わず、ただマジマジと俺の体を見ている。
そりゃもうじっくりと、ただ口に手を当ててふむふむと観察するように。
二人とも黙ったままだが、俺のコンプレックスの白すぎる肌と貧相な体を見て何が楽しいんだろう。
「ミカちゃん……男の子でもこんなに綺麗な美白ってあるんだね……」
「体もほっそりとして……女の子みたい……」
「ほらね! 言うと思った! だから嫌なんだよ服脱ぐのはさぁ!」
「リョウ君、今度ミカの服着てみない? リョウ君だったら入るかも知れないよ?」
「ミカ……ウィッグ売ってる店しってるから……買っておこうか?」
「ちょっとまって二人とも何言ってるの!? いや待てそのマジな顔はなんなの怖いよ!」
こいつら一体俺に何をさせようとさせてんだよ! やべえよ、やっぱり素肌なんて晒すもんじゃなかった!
「おいいつまで人の体見てるんだよ! もういいだろ!」
「そ、そうだねー! じゃあ早速海入ろっか。ほら、リョウ君!」
「りょう君の体のことは……今度じっくり……ね……。ね、りょう君……」
二人はそれぞれ手を差し伸べて来た。俺は体を見られた羞恥心をまだ捨てられないまま、二人の手をゆっくりと握る。
そして二人は海に向かって駆け出し、俺はそれについていくのだった。
美少女の姉妹に手を引かれて海に入っていくなんて、ラブコメ漫画でも中々見ない光景に俺の心臓は跳ねまくる。
二人の綺麗な水着姿に目を向けつつ、それとは別に海水浴への期待感もここに来てマックスまで高まってきた。
くぅ、今年の夏の太陽はいつも以上に眩しく感じるぜ。




