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第60話 水着選びって大変…

 水着コーナーに入ると、色とりどりの水着が俺たちを待っていた。

 まぁレディースだから俺には全然関係ないんだけどな。むしろ気まずさすら感じる。


 ユカは楽しそうに、ハンガーでかけられている水着を見て回る。

 一方ミカはというと、あたりを見渡してそのまま立ち尽くしていた。

 おしゃれに疎いミカからすれば、どの水着を選べばいいのか分からないんだろうな。


「しっかし水着っていっても色々あるんだなぁ。典型的なビキニタイプから、チアガール衣装みたいな感じの水着もあるし、あっちに置いてるのなんか肩が出てる以外は普通の服と変わんないぞ」


 ソシャゲでよくある、もはや裸だろこれって感じの水着は流石に置いていないか。

 いや分かってたよ? あんなのオタクから集金するためにちょっと過激な絵を描いてるだけだってさ。

 別に現実であんな水着あったりしないかなとか期待してないからな? 本当だよ?


「うわーこれかわいい! これとかどうかなーリョウ君」


 ユカは落ち着いた色合いの水着を自分の体に当てて、鏡を見ていた。

 鏡を見てコロコロとポーズを変えているあたり、さすが読モというべきか。

 どの角度から見られても可愛いのか、ちゃんと確認してるんだろう。


「ふふ~ん♪ いい感じ~」


 いや、アレは単にはしゃいでるだけだな。


「これユカに似合うかなぁ。リョウ君ってこういう水着好き?」


「似合うとは思うけど、何で俺に聞くんだ? 俺別にコーディネーターとかじゃないし、トレンドとか流行とか知らないしさ」


「もう、リョウ君は女心ってものが分かってないなぁー……」


「ん? それ気に入ってたのに棚に戻すのか?」


「だってリョウ君が興味無さそうなんだもーん」


「……? ……?」


 ユカは少し拗ねてしまったようだ。だけど俺にはその理由が分からなかった。

 俺が女物の水着に興味持ってたらヤバいだろ。流石に女装癖には目覚めてないぞ。

 女装するにしてもまずは自分でも着れそうな服から選んでいくし、いきなり水着に挑戦するようなチャレンジャーになった覚えはない。


 それにどうせユカが着るなら、もうちょっと明るい色の水着の方が似合ってると思うし……。

 商品の並びを見る感じ、今年の流行が落ち着いた色ってことなんだろうけどさ。




「りょ、りょう君……こ、こんな水着……どうかな……?」


「ん? ミカも水着選んだのか? どんなもんか楽しみ……ぶっ!」


 ミカの手に取った水着はとんでもない代物だった。

 まず布が少ない。これじゃあ胸を隠そうにも下半分くらい見えてしまいそうだ。

 そしてなぜかは知らないが、猫耳のカチューシャもセットになっていた。


 この時点で想像がついた。この水着、《《ソレ》》用のやつだ。


「げ、ゲームだと……こういうの……多いよね……。ミカに似合うかわからないけど……りょう君ってこういうの……好きだったり……しますか?」


「ミカ、悪いことは言わないから元あった場所に返してきなさい」


「えっと、うん……わかった……」


 あれはたぶんコスプレ用とか、カップルが夜の雰囲気を盛り上げる用のやつだ。

 ちょっと過激なコスプレイヤーとかがトゥイッターで写真あげて、凄くバズるような水着だ。

 ああいうのを公共の場で着たら一発で出禁くらうわ。なんてもんを選んでるんだミカは。



「ねぇリョウ君、この二つだとどっちが好み?」



「りょう君……こ、これ今期のアニメのキャラが……着てる衣装に似てない……? ブイ字部分が……すごい……!」



「リョウ君リョウ君! これとこれならどっちが似合うと思う?」



「あぅ……こ、これ……ナース服風の水着……だって……。け、結構売れてるみたい……」



「だーーーー!!!! なんで二人して俺にばっかり聞いてくるんだよ! 俺はファッション素人だっつってんでしょうが! 二人は何なの、俺に何かを試してるの? 心理テストの実験かなにかやってるの?」


 俺が女子高生の水着に意見なんて出来るわけ無いでしょうが!

 そんなことに口出せるなら俺の普段着がジャージかスウェットしかないなんて状況になってないわ!


「もう、怒んなくてもいいじゃんー! せっかくみんなで海行くんだから、リョウ君の意見も聞いておきたかっただけなのにさー。ねぇミカちゃん」


「そ、そう……だね。ミカ、りょう君とミカちゃんと……三人で海に行くから……大切な思い出にしたい……」


「な、なんかそう言われると俺も悪かった気がしてきたな。レディースコーナーだから恥ずかしくって、ちょっとぶっきらぼうになってたかも……」


「ま、リョウ君のことだからそんなことだろうと思ったけどねー。さっきまですっごく挙動不審だったよー♪」


「分かってるなら気を使ってくれよ!?」


 それともあれか? わざとやってたのか?

 羞恥プレイを俺に味合わせていたのかユカ。こいつドSか。

 いやだがユカのような美少女からならアリ……いやナシだな。俺マゾじゃないし。


「今までのやり取りでだいたいリョウ君の好みは分かったよ。次選ぶ水着楽しみにしててねー!」


「また勝手に……まぁユカなら何着ても映えるだろうから、心配はいらないか」


 隣の棚に移動していくユカを見て溜息を吐いていると、つんつんと袖を引っ張られる感触があった。

 横を見るとミカが困った様子でこっちを見ていた。




「ミカは……どうしよう……りょ、りょう君……」


 ミカが選ぶ水着はどれもネタ寄りの水着ばかりだった。

 それも毎回『アニメだとこういうのが』とか『ソシャゲだとこんなのありそう』といった理由で選んでくるのだ。

 そういった水着を買ったら自分が着ることになるのを分かっているのかなこの子は。


「ミカは別に普通の水着を着ただけで十分似合うと思うけどなぁ。ほら、例えばああいうフリルが付いた普通の水着とかさ。色も薄紫と白で、誕生日に送ったマグカップみたいだしさ」


「りょう君は……派手な水着が好きじゃないの……? ほら、アニメのヒロインは……肌面積が……多い水着ばっかり……」


「あ、あのなぁ。ああいうのは二次元だからいいんであって現実であんなの着てる人がいたら怖いよ。普通の海水浴なんだから普通の水着でいいんだよ」


「そ、そっか……そうなんだ……」


 何に納得したのかは知らないけどミカはようやく吹っ切れたように、俺が指差した水着を手に取った。

 そして俺の手を握り、試着室の前まで進んでいく。


「りょ、りょう君……この水着……ミカでも変じゃないか……見てくれる?」


「そ、それって今この場で見なきゃ駄目ってことか!?」


「う、うん……だって……似合ってなかったら……恥ずかしいもん……」


「俺に見せるのは恥ずかしくないのミカさん」


 あれ、やっぱり俺ってミカから異性としてカウントされてない?

 水着の試着なんて男友達にそう簡単に見せないよな普通。

 ってことは、ミカからしたら俺は見せても問題ない対象ってことだ。

 う、うーん……。ミカとの距離は縮まった気がしてたんだけど、やっぱり友達として仲が深まっただけみたいだな。

 いや別に男女の仲になりたいとか、そういう下心は無いんだけども。



 試着室の向こう側で布が擦れる音が聞こえてくる。今このカーテンの向こう側ではミカが水着に着替えているんだよな。

 水着に着替えるってことはつまりそういうことで、何がいいたいかと言うと高校生男子にはちょっと刺激が強くないかなぁ!

 そういうことを平気でやるからこっちも勘違いしちゃいそうになるんだぞミカ!


 俺が煩悩と脳内バトルを繰り広げている間にミカは着替え終えたらようで、カーテンを開いた。

 しかし、出てきたのはミカの顔だけだった。体はカーテンに隠れていて見えない。


「あ、あの……ど、どう……かな?」


「いや、そんな全身マントみたいな状態で感想を求められても……」


「あぅ……。ね、ねぇりょう君……絶対に……笑わない? 似合って無くてもバカにしない……?」


「しないしない。ミカの水着をいち早く拝めて逆にお礼を言いたいくらいだって」


「ううぅ……そんなこと言わないで……余計……恥ずかしいから……」


 しまった、つい本音が出てしまった。しかし別に変なことを言っているわけでもないし、深くは気にしないでおこう。

 あの水着をミカが着るとどんな風になるのか、純粋に興味がある。


 顔を真っ赤にして固まっていたミカだったが、ようやく意を決してカーテンを全て開く。

 そこにはフリルの付いた水着を着た、かわいらしいミカの水着姿があった。

 普段は見れないようなお腹やへそ、ふとももまで見えてしまっていて、何だか悪いことをしている気分になってしまう。


「おぉ…………」


「な、なんとか……言って……! む、無言が一番……怖いよ」


「いや、えっと……怒らないで聞いてくれる?」


「……?」


 ミカは俺の言葉に小首をかしげてみせた。


「その、普通に見惚れてた……。清楚……とはまた違うけど、可愛いデザインの水着だし、ミカにすごく似合ってる……。うん、本当いいと思う」


「にゅふふ……よかった……りょう君が気に入ってくれて……。じゃあミカ……この水着……買おうかな……」


「他にも水着はあるし、まだ決めなくてもいいんじゃないか? ミカに似合う水着なんてもっと他にあるだろうし」


 センスのない俺が勧めた水着なんだ。もしかしたら他の人からしたら流行から外れてダサいと思われるかも知れない。

 いやそれでも俺はミカの水着姿は最高って声を大にして言うが。


「ううん……これでいい……。だって……その……りょう君が勧めてくれた水着だから……んふふ」


「そ、そっか。ミカがいいなら、うん。に、似合ってるしさ……それにしなよ」


 こうして予想とは裏腹に、ミカのほうが先に買う水着を決めてしまったのだった。





 一方ユカはと言うと――


「問題です。リョウ君が好きな水着はどちらでしょうかー?」


「それ問題になってないだろ! えっと、パレオのついてる水着とビキニだけどショートパンツみたいなのが付いてる水着か」


「今までの統計からリョウ君の好きそうな水着はこの二択になりました。byユカ調べ」


「その統計データ役に立たないから今すぐ捨てたほうがいいぞ」


 とは言ったものの、ユカの選んだ二つの水着は確かにいい線をいっていた。

 パレオの方はユカが着たら、普段とは違う大人な雰囲気のユカを拝めそうだ。

 ビキニの方はホットパンツ(風の水着なのかこれは?)が健全さを出していて、快活なユカのイメージに合っている。


 どっちもユカに似合うだろうし、俺の好みにも合致していた。中々侮れないなユカのデータ分析……。


 だがどちらの姿を見たいかと言われれば……。


「こっち、の方が……ユカっぽさがあるかも?」


「へー」


「あ、いやなんとなくな? ソレを着てるユカの方がイメージしやすいっていうか……あ、イメージって妄想とかそんなんじゃないから!」


「ふふーん、ユカの予想的中ー♪」


「え……?」


 ユカはパレオの水着を商品棚に戻して、ビキニの水着を嬉しそうに手に取った。

 予想的中って……どういうことだ?


「リョウ君ならこっちを選ぶって思ってたんだー。最近だんだんリョウ君の好み分かってきたかも!」


「うぐ……別に困るわけじゃないけど、なんか悔しい……!」


 陰キャが恐れているのは自分のことを知られるってことだからな。

 何故そこまで恐れるのかと言うと、陰キャは自分に自信がない。

 つまり誇れる趣味や経歴などがなく、逆に人には言えない恥ずかしい趣味などを持っているやつが多い。

 自分を知られていくということは、そういう人には知られたくないことを知られてしまうリスクが増えてしまう。だから自分のことを知られるのを恐れるのだ。


 まぁ今更ユカに何を知られようと、もう諦めているけど……。

 流石に秘蔵の同人誌やアニメのグッズは死んでも隠し通したいが。


「じゃあユカ、これ買ってくるねー!」


「あれ、試着しなくていいのか? ミカはしてたぞ」


「だーいじょうぶ! ユカ、試着しなくても自分に合うかどうかすぐ分かるから」


「へぇ、さすが服を着こなす達人だな」


「そーれーにー♪」


 ユカはニヤリと笑って俺の耳にぽそりと呟いた。

 その声はいたずらな調子で、ちょっぴりからかい気味の声だった。


「ユカの水着姿は、当日までのお楽しみー♡」


「っ……!」


「あははっ! リョウ君いま照れてるー! 分かりやすすぎだよー」


「う、うるさいな、早く買ってこいよ!」


「はーい♪」


 こうして朝倉姉妹の水着選びはようやく終わったのだった。

 まったく、水着一着を選ぶのにここまで大変だなんて思いもしなかったぜ。



 え? 俺の水着? 3000円の黒いミリタリー柄買って終わりましたけど?

 選んだ時間なんて秒もかからなかったんですけど?



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