第44話 ユカとロッカーに隠れて密着した
「ごめんねリョウ君……狭くない……?」
「俺は大丈夫だけど、ユカこそ平気か……?」
何故こんなことになってしまったんだ。
俺は今、ロッカーの中にユカと二人で隠れている。
密室とかそんなレベルを超えた閉鎖空間で、ユカと二人きり。頭がどうにかなってしまいそうだ。
ロッカーの外には金髪たちがいる。どうにかしてバレないようにやり過ごさなければ……!
◆◆◆◆◆
時間は少し遡る。
「ユカちゃん遅いね……クラス会断ってくるって言ってたけど……参加しちゃったのかな……」
「そう言えば中々帰ってこないな。LIME送っても返事こないし、何かあったのか?」
「ミカ、ちょっと見てくる……!」
「あ、おい!」
ミカが行ってもリア充たちの中に割って入ることが出来るのか?
遠巻きに見て帰ってくるだけなんじゃ……。
ミカまでいなくなったせいで教室には俺一人になってしまった。
空き教室に陰キャが一人居残りしてる。なんて悲しい光景なんだ。
「はぁはぁ……おまたせー!」
そんな事を考えていると、ユカが息を切らせて戻ってきた。
ミカの姿が見えないことから、どうやら行き違いになってしまったらしい。
「あれ、ミカちゃんは?」
「ついさっきユカが遅いからって探しに行ったよ。仕方ない、LIMEを送っておくか」
「あちゃーミカちゃんに悪いことしちゃったなー……あとで謝らなくちゃ」
「ところでクラス会はどうなったんだ? その様子だと随分立て込んでたみたいだけど」
ユカは眉をハの字にして困った顔で笑う。
「それがユカが行かないって言ったら、クラスの男子全員参加しないって言い出しちゃって。それで女子と揉めて大変だったのー」
「六組の男子どもめ、正直な奴らだな。そりゃ他の女子もキレるわ」
ユカ以外眼中にないって言われてるようなもんだもんな。
そこまで露骨に態度に出す男子側もある意味潔すぎる。
しかも原因となったユカは間に挟まれて、自体の収束に追われてたんだろう。
美人は得することもあれば、損することもあるんだな。本人は全然悪くないのがなおさら気の毒だ。
「おい、朝倉さんどこ行った?」
「この廊下に向かっていったのは見えたんだけどなぁ」
「教室を一個一個調べてみるか」
廊下から粗暴そうな男子たちの声が聞こえてきた。
おそらく六組の男子だろう。ユカを探しているのか?
「あっ、もう追いつかれちゃったー! こんな事してる場合じゃないよ、隠れなきゃ!」
「おいまさかあいつら、ユカを無理やりクラス会に参加させようとしてるのか?」
「さっきもしつこく勧誘されてたの。用事があるからって逃げ出したんだよー! もう、ホントしつこくて嫌になるよねっ」
「その時に校舎じゃなく外に逃げればよかったのに。俺らのことなんて放っておいてさ」
「それはそうだけど……でもユカ、リョウ君とミカちゃんと一緒にいたかったんだもん!」
ユカと言い合っている内にも廊下の足音はどんどん近くなっている。
このままではあと数十秒もしない内にこの教室にもやってくるだろう。
そうなればユカと俺が一緒にいる場面が目撃され、ユカの評判が下がってしまうかもしれない。
「どうする? ベランダに隠れるか?」
「それはダメ! 他の教室のベランダと繋がってるし、誰かが一度でもベランダを調べればバレちゃうよー!」
「じゃあダンボールの中に隠れるとか。スニーキングミッションにダンボールは最適だってゲームで言ってたし」
「ゲームと現実をごっちゃにしないでー! もう、早く隠れないといけないのに……」
「それじゃあ……」
俺は教室の後ろに置かれた掃除用具入れのロッカーに目を移す。
以前G退治の後にこの教室を掃除した時に確認したが、掃除道具を全部出せば二人くらいなら入れそうなスペースだったはずだ。
周りのダンボールや机を寄せ集めればカモフラージュにもなるだろう。
「朝倉さーん! どこにいるのー!」
「俺らと打ち上げ行こうぜー! どうせもうすぐ夏休みだし、ちょっと早めにオールしたって怒られないっしょー!」
ええい黙れリア充ども! 大体カラオケでオールって何するんだよ。一晩中歌ってたら喉ガラガラになるだろうが。
それとも何か? カラオケは口実で別のことをやろうとしているのか?
オールってそういう意味なのか? リア充の業界用語的な隠語なのか?
「くそ、考えてる時間はないか。ユカ、あそこに隠れるぞ!」
「え? ちょ、ちょっとリョウ君っそこロッカー……」
「箒とかちりとりはそのへんに置いて……ダンボールとかでロッカーの周りを隠して……」
これで少なくともこのロッカーの周りにダンボールの山が積まれて、ロッカー自体に注目されるようなことは無いだろう。
よほど注意深いやつならともかく、人探しのためにそこまでするやつもいないだろうし。
「この部屋にはいたりしねーのかな」
「誰も使ってない教室だし、案外ここに隠れてるかもなー」
げっ! もう扉の向こうにリア充が来てる!
「さあユカ!」
「……っ~~! ど、どうなっても知らないからねっ!」
「あれ、やっぱりここにもいねーな」
「お前の勘も当てにならねーな氷川」
「うるせぇ、何となくここかなって思ったんだよ」
金髪!? まずい、やつにユカと一緒にいるところを見られたら絶対に誤解される!
「てかこの部屋こんなに綺麗だっけェ。前はもうちょい散らばってたよな」
そりゃ俺たちが掃除したからな。あの後もGが二匹出たりして大変だったんだぞ。
わざわざコンビニでゴキジェ〇トとブラックキャ〇プ買って来たんだからな。
「そうだっけか。けどゴキブリ湧くからあんまりここにいたくねぇんだよな」
「あれ超ウケたわ~! 氷川マジビビってんの! 子供かっつって!」
「あの時の氷川の顔TIKTAKに投稿したらめっちゃバズってんの。今度また変顔してくれよなァ」
「ウゼェ、ころすぞ。んなことより朝倉さん探そうぜ~」
ところで金髪よ、お前一組のくせに何故六組の男子と一緒にいるんだ?
まさかユカがいるからって他クラスの打ち上げに参加しようとしているのか。
こいつの人気ぶりからすると逆に歓迎されるだろうけど、マジでユカへのアプローチが凄いな。
その割に最近全然ユカとエンカウントしてない様で可愛そうではある。同情はしないけどな。
「ごめんねリョウ君……狭くない……?」
ロッカーの外にばかり注意を向けていたが、その声でユカの方へと視線を向ける。
ユカは狭いロッカーの中で最大限縮こまる様に努力をしていた。
その様子がまた可愛らしく、こんな状況なのに心が癒やされてしまう。
「俺は大丈夫だけど、ユカこそ平気か……?」
「う、うん……。リョウ君が頑張ってくれてるし、意外と窮屈じゃないよ……」
現在俺の取っているポーズは、ユカとあまりくっつかないように背中を壁にくっつけて、両腕をユカ側の壁に押し付けている状況だ。
腕立て伏せをする時の姿勢を立った状態でやっているといえば伝わるだろうか。
しかしこの姿勢、中々につらい。腕は疲れるわ背中は痛いわで長時間保ちそうにない。
頼むから金髪たち、早く出ていってくれ!
「あ……ふふっ」
俺の苦労を知ってか知らずか、ふとユカが笑う。
どうしたのだろうと視線を下ろすと、ユカとばっちり視線があった。
「普段はあまり気にしなかったけど、リョウ君のまつ毛……結構長いね」
「えっ!? あ、母さんがまつ毛長いから……遺伝かな。でも俺普段死んだ目してるからまつ毛が隠れるんだよな……って今そんな事気にしてる場合かっ……! 外にはまだ金髪たちがいるんだぞ……!」
「そ、そうだよね……。でもこんなに近くでリョウ君のこと見るの初めてだから……なんか意識しちゃって」
そういうこと言うからさぁー! こっちも意識しちゃうでしょうがー!
ユカの綺麗な髪から甘い香りがしてくるとか、今の状況って壁ドンみたいだなとか余計なこと考え始めてしまうだろうが!
「ねぇ……その姿勢キツくない? もうちょっと楽にしても大丈夫だよ?」
「いや、そうなるとその……色々問題がありそうなんですが……」
「ユ、ユカは気にしないから。……ね?」
「だ、大丈夫。まだ全然平気だから」
とはいえ本当に腕がキツくなってきた。無理な姿勢のせいか肩と肘が痛い。
このままだと体勢を崩してしまうかもしれん。そうなると物音で確実にバレる。
ここはユカの言葉に甘えた方がいいのではないか? いやそうなるとお互いの体が密着してしまう。
くそ、どうすればいいんだ……!
「すまんユカ……! ちょっとだけ我慢してくれ……!」
俺はつっかえ棒の様に壁についていた手を離す。すると当然、ユカと俺の距離は縮まる。
お互いの呼吸が伝わる程の距離まで近づいてしまう。
せめてもの抵抗として顔を逸らしてユカを直視しないようにするしかなかった。
「あっ……」
ユカがちょっと驚いたような声を漏らす。
ユカは全身を俺に預けるようにして、そして彼女の両手が俺の体に触れる。
それだけのことなのに、俺は自分の顔が真っ赤になるのを自覚出来るくらい緊張していた。
ユカの制服の上から伝わってくる柔らかい感触にどきどきする。服の上から見えてる以上に大きいんだなとか思ってしまう。
しかもお互いほとんど抱き合ってるような体勢だ。ユカの呼吸までも肌で感じ取れてしまう。
興奮と緊張で頭がクラクラしてきた……。
「リョウ君……意外と胸、厚いんだね……」
「べ、別に鍛えてないんだけどな。どっちかというと痩せてる方だと思うけど」
「そうなんだ……男子ってみんなそうなのかな……。リョウ君も……男の子なんだね」
そう言ってユカは俺の胸元に顔を埋める。
ロッカーの中が狭いから密着してるだけだよな!? ユカのこの行為に何か特別な意味とか無いんだよな!?
頼むから俺の心臓鳴り止んでくれ、いやそうしたら死んでしまうか。
だ、駄目だ……両手が勝手に動く……。
ユカがそうしてるように、俺もユカの体に手を回してしまいそうになる。
それだけは駄目だ。流れに乗って友達に変なことをしようとするなんて、男として最悪だ。
理性と衝動がせめぎ合いを繰り広げ、俺の腕がユカの背中の手前でぷるぷる震えてるのを堪えていると、ロッカーの外から声が聞こえてきた。
「やっぱりいないみたいだな。どこいったんだ朝倉さん」
「しょうがねぇ、一旦校門に戻るか」
ガラガラと扉の音が鳴った後、数秒待ってからロッカーから出る。
「はぁ……なんとかやり過ごせたな。危なかったぜ」
色んな意味で危なかった。俺の理性よ、よく保ってくれた。
「う、うん。ユカ、すっごくドキドキした」
「あっ、そう言えばさっきはゴメンな! 腕がキツかったから思わずユカと密着しちゃったけど、別にわざとじゃないから!」
「そっかーわざとじゃなかったんだー。……ちょっと残念かも」
「え? 今なんて言った?」
「んーん! 何でも無い!」
その後ミカが涙目で教室に戻ってきて、俺たちはまたいつもの雰囲気に戻った。
でも俺はロッカーで見せたユカの表情を思い出して、その後ユカの顔を直視出来なくなった。
一日にミカとユカの特別な表情を拝めることになるなんて、明日は雪でも降るのだろうか。




