第36話 ユカはGに強い
放課後、俺は朝倉姉妹と一緒に空き教室を陣取って話をしていた。
「でな、ヒロインがいなくなったと思って安心した主人公がほっと一息つくと、変な視線を感じたんだよ。そして後ろを振り向くと帰ったはずのヒロインが……」
「うぅ……怖い……!」
「ユカよく分かんないんだけど、そのヒロインは主人公のこと好きなんだよねー? どうして素直に好きって言わないのー」
「バカ、それがいいんだろうに。物語序盤にヒロインが告白したらそこで話が終わっちゃうだろ」
ユカにはラブコメのセオリーというのが分からないのか。
もちろん主人公とヒロインがカップルになって話がスタートするラブコメもあるにはある。
だがやはり複数のヒロインがいるタイプの話の方が人気が出やすいのだ。
ヒロインレースなんて揶揄する者もいるけど、ヒロインがいっぱいいた方が見ている者の興味を引きやすいからな。
「うーん、ユカなら好きな人がいるなら『好き』って言っちゃうかなー。恋愛の駆け引きなんてユカには出来ないと思うし」
「確かにユカが告白したら誰も断れないだろうな」
なにせ美人で人当たりがよくて、おまけに器量よしときてる。こんな子から好かれたら男として冥利に尽きるだろう。
まぁユカほどの女子が好きになる相手ってなると難しいかもしれん。男子に求められるハードルが高すぎる。
その分ラブコメの主人公はいいよな。冴えない男子でも美少女に好かれるんだから。羨ましいったらありゃしない。
実際は美少女に絡まれても大変なことしか無いけどね。
「ミカちゃんが見てるようなアニメでもそういうの多いけど、やっぱり男子って女子から告白されると嬉しいのかなー。リョウ君はどう思う?」
「そういう話を俺に振るかね普通……。いやまぁ実際告白されると凄い嬉しいと思うよ。相手にもよるけど」
自分で言ってて最後の一言は余計だなと思う。
でも仕方ないじゃないか。好きでもない相手から告白されたらどう思うかなんて、その時にならないと分かんないんだからさ。
俺みたいな陰キャにそんな場面が訪れるのかと聞かれると返答に困るが。
「ふーん、そうなんだー……」
「今の返答で何を納得してるんだか……」
俺の考えなんて聞いても参考にならんだろうに。聞くならもうちょっとリア充寄りの男子に聞かないと統計データとして正しくないぞ。
「ところで気になったんだが、なんでこの教室って誰も使ってないんだろうな」
「さぁ? 偶然じゃないかなー」
「でも……空き教室って……リア充の溜まり場になってるイメージ……だよね……。確かに……気になるかも……」
「だよな。こんな部屋絶対リア充たちが待ち構えてて、入った瞬間『あれオタク君じゃーんw』とかいじられるに決まってる」
「二人ともリア充にどんなイメージ抱いてるのかなー……?」
ユカが呆れつつツッコミを入れる。
仕方ないだろ実際そんな感じの雰囲気満載なんだから。
「何か使われていない理由があるに違いない」
「お、おばけが出るとか……呪いの教室だったりして……」
「いやいや、ミカちゃん! リョウ君の冗談を真に受けちゃダメだよー!? そんなオカルトあるわけないじゃん!」
「分からんぞ。最近ホラーゲームも復権してきてるからな。怪奇現象が発生してもおかしくない」
「ゲームの流行と関係ないよねー!? ありえないってばそんなのーっ」
何だ、ユカのやつやけに否定してくるな。まさかおばけが怖いのか?
いやそんなわけ無いか。今どき小学生でさえおばけなんて信じないし。
俺が小学校の頃にとあるゲームの影響で妖怪がブームになったけど、現実にそういうのがいるとは思ってなかったしな。
補足しておくと正確にはおばけと妖怪は別物なのだが、まぁ似たようなものだろう。
ユカも高校生にもなってそういうモノノ怪の類を信じてるわけないよな。
「ひゃあっ!!」
突然ユカが大声を上げて飛び上がった。何かと思えば、どうやら教室の隅に積まれているダンボールから小さな物音がしたらしい。
まさか本当におばけとかいるんじゃないだろうな……。やめてくれよ……俺の灰色の青春が、急に身の毛もよだつ怪談話にジャンル変更するなんてことは。
「な、何かいるのかな……」
「リョウ君、ちょっと調べてみてよー……」
「なんで俺が!?」
「こ、こういうのは男子の役目でしょー!」
ちくしょう、そう言われたら断れないじゃないか。
仕方ない、あそこのダンボールを動かしてみるか。
いやだなーこわいなー……。
「よいしょっと……ん?」
そこには、世にも恐ろしい者が潜んでいたのです。
「ゴ、ゴキ……!」
「ひゃうっ……G……! しかも三匹……」
黒光りするソイツらは、ダンボールが置いてあった場所から素早く移動して俺の足元を這いずり回る。
俺は反射的に数歩下がり、ソイツらの動きを必死に目で追う。
ま、まさかこの部屋はっ……! 誰も使っていないんじゃなく……誰も使えなかったのか……!
そうだ……あまりに誰も使わず放置していたせいで……Gの住処になっていたのだ……!
きっとリア充たちもここがGに支配されていると知って、寄り付かなくなってしまったんだ……!
「バ〇サン! バ〇サン!を焚け!」
「無いよそんなの……ど、どうしよう……ゴキジェ〇ト……噴射しなきゃ……!」
「落ち着けミカ! ゴキジェ〇トも学校に置いてない! ああやばい、Gが教室を這い回ってる……!」
「あぅぅ……ここは戦略的撤退……家に帰る……!」
「よし賛成! 二度とこの教室には近付かねぇぞ!」
こんなところにいられるか、俺はこの教室を出ていくぞ!
「さぁユカも一緒に帰るぞ……ユカ?」
「えいっ」
ユカはちりとりを片手に走り回る三匹のGをすくい上げ、そのまま窓の外にリリースする。
「何という早業……ユカ、お前Gが怖くないのか……?」
「えーゴキブリなんか怖がるわけ無いじゃんー。っていうか怖い要素一つもなくないー? 二人ともビビりすぎー」
「ユカちゃん……強い……」
「おばけは怖がってたくせにな……」
「なにー? 二人ともユカに言うことあるんじゃないかなー?」
「「ありがとうございました!」」
どうやらミカはGには弱いのにGには強いらしい。
ポ〇モンのタイプ相性でありそうだな。むしタイプに強くてゴーストタイプに弱いポ〇モン。
「えへへー。リョウ君の弱点、また一つ見つけちゃったー♪」
とりあえず、ユカの輝くような笑顔を見ながら思うのは、今後ユカからG絡みのいたずらをされるのは勘弁願いたいなということだった。
流石にそんなことしてこないとは思うが……。




