第31話 ミカとアニメについて語った
「今期のアニメもほとんど終わったけど、どれも最高だったな! 特に『悪役令嬢レスラーマスク』はオチも綺麗だったし感動したわ」
『うん……主題歌ダウンロードした……リピートしちゃうくらい……いい曲』
「そうそう歌も良かったよな。まさかあの歌手がこんな歌を歌うなんていい意味で度肝抜かれたっていうかさ」
金曜の夜、俺はミカと春アニメの総評を電話で語り合っていた。
6月も終わりそうなこの時期は4月から始まった春アニメが続々と最終回を迎えている。
今日も学校から帰ってすぐに昨夜放送されたアニメを鑑賞した。
どうしても誰かに感想を聞いてもらいたくて、こうしてミカに電話しているというわけだ。
偶然にもミカもつい先程『悪役令嬢レスラーマスク』通称“レスマス”を見終えたという。これは語らずにはいられまい。
「にしても最近は異世界系も増えてきてるよなぁ。1話の段階だと違いが分かんなくて大変だよ。まぁ見ているうちに見分けついてくるんだけどさ」
「うん……どれも工夫されてて面白いよね……」
「そうそう。レスマスもそうだけど俺は『転生したらひのきのぼうでした』も好きだったなぁ。主人公が武器に転生って斬新だったよ」
「“転ひの”……意外としっかり王道してた……。なにげに作画も……今期トップクラス……だったかも」
「転生系によくあるゲームみたいなステータスとか画面の表現が、しっかりとアニメの演出に落とし込まれてたしな。あれは作ってるスタッフすごいわ」
「ミカ……見ててRPGやりたくなるくらい……ワクワクした」
そうそう。RPGのゲームでよくあるネタとかを上手いこと世界観に落とし込んでるから、自分がRPGをやってた時のこと思い出すんだよな。
それで思わず国民的RPGを買ってしまうあたり、俺も流されやすい人間だな。
転ひのの原作小説や漫画を買わずに、全然関係ないゲームを買うのは、原作者やアニメスタッフには悪いと思う。
でもそれくらい見事なアニメだったんだよ本当に。
「来月から夏アニメだね……。どんなアニメが始まるか……いまからわくわく……!」
「次はまたアイドル系が流行りそうだよな。数年前にアイドルアニメが同じクールに何本も放送してたけど、またあんな風に盛り上がるかも」
「アイドルアニメは……ユカちゃんにライブシーンを見せたら……踊ってくれるから……好き」
「えっ!? ユカってダンスまで踊れるの? すごいなあいつ……」
しかもアニメのライブシーンを見せただけでダンスを再現するとか、化け物では……?
ユカが踊ってみた系の動画を投稿すればすぐにミリオン再生されそうだな。
「まぁ俺としてはアイドルものも嫌いじゃないけど、最近ロボットアニメが少なくて物足りんぜ。グフドムも新作をやらなくなって久しいし」
「ロボは……1クールじゃ難しいのかも……? お話まとめるの……大変そう……」
「確かになぁ。最低でも2クールは欲しいところだけど、よほど力を入れてないと24話も貰えないだろうし」
ロボットアニメは男のロマンをくすぐるジャンルだが、その分作る難易度がハンパなく高いだろうというのは想像に難くない。
一時期は毎クール3つくらいロボットものが重なっていたのだが、最近はめっきり見なくなった。
俺にとってロボアニメは陰キャの黒い情念を赤い血潮に塗り替える、精神的な支柱のような存在だからロボアニメの数が減ったのは悲しい。
あと関係ないけど、深夜枠だと主役ロボの立体物さえ出ないことが稀にある。あれは非常につらい。
俺の中でロボアニメってロボ6:人間キャラ4の比率で重要視しているから、主人公やヒロインのフィギュアが出て、ロボットの立体物が出ないと泣きたくなる。
本当にどうでもいい話だったな。閑話休題は終わりとしよう。
「他には……あっちょうどテレビてCMやってる。なになに……『私を彼女にしないなら他のヒロインを〆ます』か……気になるな。ぼっちの主人公とヤンデレストーカーヒロインのラブコメだってさ」
「き、聞くだけで怖いタイトル……」
ミカの声が震えている。きっと電話の向こうでも全身を震わせていることだろう。
「絵面的には普通の学園ラブコメだってよ。お、明日からアニメショップでキャンペーンあるみたいだ」
「へぇ……何かグッズが貰えるのかな……」
俺はミカとの通話をオンにしたまま、スマホで件のアニメの情報を探す。
検索すると行きつけのアニメショップの特集ページが出てきた。俺はスマホのマイクに向かってそのページに書かれた情報を読み上げる。
「原作小説か関連商品を1000円以上買えばクリアファイル貰えるんだと。あれ、この絵、俺の好きなイラストレーターさんの絵じゃん! うわ~いいな~買おうかな」
なんと『私を彼女にしないなら他のヒロインを〆ます』の原作絵師は有名なゲームやラノベで活躍している、俺でも知っているイラストレーターだった。
クリアファイルにはメインヒロインや他の女の子たちがそれぞれポーズを決めたイラストが描かれている。
どのヒロインも魅力的だ。特に赤髪ツインテールのキャラと金髪ボブのキャラは俺の好みど真ん中だ。
「原作の内容は知らないが、クリアファイル欲しいし明日アニメショップに行くか」
「ク、クリアファイルって何種類あるの……?」
「全部で5種類だってさ、鬼畜だなこれ」
最低でも五千円分の買い物をしなければクリアファイルはコンプできないというわけか。
まぁアニメ絵のクリアファイルなんて使う場面なんて無いのだが、こういう無駄なものを欲しくなってしまうのがオタクという生物なのだ。
「とりあえず明日金下ろして……んん?」
「ど、どうしたの……りょう君……?」
「いやすまん、ちょっと驚いてしまった。どうやら条件付きでクリアファイルの他に、アクリルスタンドも貰えるらしい」
「条件付き……?」
ミカは驚いているようだがこういう特典は珍しくない。
以前も別のアニメで、推しキャラの画像を用意した人には特製しおりプレゼント、なんてキャンペーンをしたことがあった。
今回もそれと似たような企画だろう。アニメのタイトル的にヤンデレキャラの画像でも用意すればいいのだろうか。
そう思いながらページをスクロールしていくと、そこには信じられない条件が記載されていた。
「む、無理だろ……これ!」
「な、何が……無理なの……? 先着順とか……?」
「……のじょ」
「あぅ?」
「“彼女同伴のお客様に限り”……だって」
「かの……じょ……?」
ふざけるなよ!? 陰キャオタクの俺に彼女がいるわきゃねーだろーが!?
というか彼女いるならこんなアニメ見ないわ、青春してるわ。
いや《《こんな》》呼ばわりする程このアニメのこと知らんけど。
「あ、諦めるしか……無いのか……」
終わった。もう来期はこのアニメ見ない。つらい思いでになっちゃったからな。
「りょう君……アクリルスタンド……貰える方法……一つだけあるよ……」
受話器の向こうからミカの天啓のような一言が放たれる。
「ほ、本当か!? お、俺はどうすればいい……?」
「あのね……それは――」
ミカの提案を聞いて、俺は先程とは違い理由で驚くことになるのだった。




