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第18話 双子の姉が間違えて告白されたのて助けた

 陰キャ仲間と昼飯を食っていると、教室の真ん中から大きな声が聞こえてきた。

 どうもリア充グループが騒いでいるようだ。相変わらず元気だなと感心させられる。


「よーし! 俺は覚悟を決めたぜー!」


「うひょー! ついに告るのか! 相手はあの朝倉さんだぜ?」


「余裕よヨユー! なんたって朝倉さん、俺に惚れてるからな」


 おいおい、騒ぎの中心はお前かよ金髪。

 ここ最近ユカと接触が無いなと安心しきっていたが、ついに動き出すのか。

 というか、まだ諦めていなかったのかよ。そっちの方が驚きだ。


「でも氷川よぉ~。朝倉さんって彼氏いるって噂あるけど……」


 リア充グループの一人がちらりと俺の方を見た。

 何だよ、脳内ピンクなリア充共に睨まれる覚えは無いぞ。こっち見るな、怖いわ。

 というか金髪って氷川っていうのか。そういえばそんな名前だった気がする。もう六月だというのに、未だにクラスメイトの名前を覚えてない自分にびっくりした。


「ああ、そういえばバスケ部から聞いたわ。あいつ、朝倉さんのこと名前で呼んでたってよ」


「しかも、手を繋いでたらしいぜ。まさかあいつ……」


 バスケ部ぅぅぅぅ!! 何勝手に日曜日の話を広めてるんだよぉぉぉぉ!!

 俺が知らない間にクラスメイトにも知られてるじゃないか。何てことだ……!


 しかしリア充よ、そんなに気になるなら俺に直接聞けよ。何で誰一人として俺に話しかけてこないの?

 そんなに話しかけづらい雰囲気出てるのか俺。もういっそ、噂の真偽について詰め寄られた方が安心するのだが。



 金髪は俺の方を見やると、ハンと鼻で笑った。


「あんなの、くだらない噂だろ? 朝倉さんがあんなやつと付き合うなんて、ありえねぇよ」


 俺を見下すような発言にカチンと来た。いや、まぁ実際人間として劣ってる自覚はあるんだが、わざと俺に聞こえる様に言うその態度に苛つく。

 だが俺はチキンもとい平和主義者なので、聞こえなかったふりをした。こんなので怒ったりしたら、逆に俺がユカのこと好きみたいじゃないか。

 ネット掲示板とかでもそうだが、肯定も否定もせずにスルーするのがアンチには一番効くのだ。放っておけばいいさ。



「ま、あんなヤツどーでもいいわ。とりま朝倉さんに告ってくるわ」


「ヒュー! 俺らも見に行くかー!」


「やめろって、俺ガチだからさ~お前らに見られたくないんだわ」


「はー、つまんねー」


「結果教えろよ。どうせ無理だろうけどよ」


「いや、強気で押せばワンチャンあるし~? んじゃ、行ってくるわ」


 うわぁ、凄いなリア充って。振られる可能性もあるのに、こうやって大々的に告白するって言うんだ。

 俺だったら絶対誰にも言わないな。もし振られたら馬鹿にされそうだし。

 そもそも自分から告白する度胸ないだろとは言わないでくれ。



「とりあえずユカ達に知らせておくか……」


 俺は朝倉姉妹にLIMEで、金髪がユカに告白しようとしていると伝えた。

 何だか告げ口している様で嫌な気分になるが、ユカから許可は貰ってるんでいいだろう。

 ちょっとした潜入工作員の気分だと思えば、罪悪感も減るだろう。


「お、既読が二つ付いた。ユカも俺のメッセージ読んだみたいだな」


 さて、どうなることやら……と思っていると、廊下から金髪の声が聞こえる。


「お、朝倉さーん! 今ちょっといい? 大事な話あるんだけどさ~」


 って、早速捕まってるやんけ!

 金髪が廊下に出て数秒しか経ってないぞ。つまりユカは一組の教室付近にいたってことだ。

 何で六組のユカがうちの教室に来てるんだ。もしかして俺に会いに……いや、考えすぎか?



「ど、どうしよう……」


「ん? 進藤、顔色悪いぞ。まだ体調悪いん?」


「い、いや……そうじゃないけど……」


 陰キャ仲間に言われて、俺は自分が切羽詰まった表情をしていることに気付く。

 ユカが金髪に告白されることが、そんなに不安なのか……?

 別に今回だってユカが金髪の告白を受け流すかもしれない。でも、何故か胸の奥に嫌な感覚を覚えてしまう。


「俺、ちょっと出てくる」


「ゆっくりブリブリしておいで~」


「違うわっ!」


 ったく、品性の欠片も感じない会話に頭が痛くなる。

 まぁ普段は俺もそっち側なのだが、今だけは真面目にならざるを得ない。


 廊下に出ると、金髪の後ろ姿が見えた。俺は気付かれない様に後をつけていった。

 存在感を消すのは得意だからな。伊達に教室の空気と化しているわけじゃ無い。

 いや好きで空気になっているわけじゃ無いんだけどね。自虐ネタにでもしないと悲しくてやってられん。




 しばらくすると金髪は移動をやめた。どうやら、ここで告白するつもりらしい。


「校舎裏ってまたベタな場所だなぁ……」


 やはり告白スポットと言えば人気(ひとけ)の無い場所が好まれるのだろう。

 ここなら誰にも邪魔されず、思いの丈をぶちまけれる。まぁ、俺なら放課後の教室か誰もいない準備室とか、そういう場所で告白するシチュエーションの方が好きだけどな。

 いやこの際俺の好みなどどうでもいいか。問題は、ユカが金髪に対してどう反応するかだ。


「ごめんね~急に呼び出しちゃって」


「あの……えっと……」


 あれ? 何かユカの様子がおかしいような……。


「もう察しが付いてると思うけど、朝倉さんに伝えたいことがあるんだよね~。聞いて貰えるかな?」


「ひゃう……しゅ、しゅみましぇん……よ、用事があるんで……」


「まぁまぁ、そうつれない事言わないで。つーか朝倉さん、マジきょどっててウケる~!」


「あ、あぅ……誰か助けてぇ……」


 ま、まさか……ミカ!? 間違いない、あそこにいるのはミカだ!

 そうか、金髪のやつミカとユカを間違えやがったな! 告白する相手を間違えるとか、一番ダメなやつだぞ!

 双子の入れ替わりトリックとかアニメで見るけど、本当に間違えるやつがあるか!


 あ、あれ……そういえば俺、何でミカとユカを見分けられるんだろう。

 外見はそっくりなのに、最初に会った時以外は特に間違えたこと無い気がする。



「朝倉さん、俺と付き合ってくれ」


「あぅ……」


 って、どうでもいいことを気にしてる間に金髪が告ってしまった。これはマズいぞ、ミカのことだから強気に出る相手に押し負けるかもしれん。

 現にミカはオロオロと取り乱してしまっている。よく見ると、目尻にうっすらと涙が浮かんでいる様にも見える。


「俺じゃダメかな~。俺、結構一途だけど」


「その……ダメとかじゃなくて……人違い……」


「ダメじゃないんだ! 嬉しいなぁ~、じゃあ付き合ってくれる?」


「えっと……だからミカはミカで……それに……ユカちゃんも付き合う気は……無いと思う……」


「え? ごめん、何て言った?」


「あぅ……」


 もう見てられない、ここは多少空気が読めなくても俺が行くしかない。

 他人の恋路を邪魔するやつは碌な目に遭わないって言われてるけど、友達が困ってるのを知らんぷりする奴の方がもっとクズだと思う。


「助けて……りょう君……」


「っ!」


 ミカの泣き出しそうな顔を見て、強く心が揺さぶられた。

 俺は金髪の前に飛び出し、ミカを庇うように両手を広げる。



「ちょ、ちょっと待ったぁ!」


「りょう……君……」


「は? 何だよ進藤、いきなり割って入ってくるなよ」


 金髪の目が途端に鋭くなる。普段のニヤけている目元が、明らかに敵意に染まっている。


 怖っ!? 何かリア充にキレられるだけで負けた気分になってしまう……。


「あのさぁ、見て分かんない? 俺、朝倉さんに告白してんの」


「わ、分かってる……。でも、どう見ても困ってるだろ?」


「何、お前朝倉さんの彼氏か何か? 俺が告白して、どうして朝倉さんが困るワケ? 説明してみろよ、なぁ」


 ひ、ひぃぃぃ! 金髪がキレる気持ちも分かるけど、切れたナイフすぎる……!


「もしかして、あの噂マジなのか。いや、んなわけねェよな。お前なんかが朝倉さんの彼氏なワケ……」


「ち、違う! 俺は別にユカと付き合ってない!」


「ヘェ、名前で呼んでるのは本当なんだな」


 仕方ないだろ! ここで朝倉さんって呼んだら、ミカとユカどっちのことか紛らわしくなるんだから!

 でも『こいつは姉のミカだから人違いだよ』って言っても、根本的な解決には至らない。

 どうせ金髪のことだから、改めてユカに告白しに行くか、もしくはミカでもいいやと言い出すかもかも知れない。


 金髪は声を低くしながら、俺に質問してくる。


「お前、朝倉さんの何なの?」


「と、友達だ!」


「友達……? それなら別に告白の邪魔しに来る理由が無いよなぁ」


 確かにそうだ。俺が告白の邪魔をしてるのは、俺自身のエゴだろう。

 ユカが告白されるって聞いて不安になって、ミカが怯えているのを見て飛び出してきた。

 金髪にとって、俺は邪魔者以外の何でもないだろう。


「大体さぁ、お前が朝倉さんの友達ってマジで思ってんの? お前みたいな陰キャ、お情けで絡んでもらってるだけって気付かない? そんなんだからぼっちなんだよ、お前」


 ぐうの音も出ない正論って、人を傷つけるんだよ? もうちょっと手心って言うか、優しさを見せてくれても良くない?

 RPGのボス戦にHP満タンで挑んだら、いきなりHPの上限以上のダメージを叩きつけられた気分なんだけど。


 俺の硝子のハートが粉々に砕けて粉末状になろうとしていた、その時だった。

 それまで俺の背中に隠れていたミカが、彼女にしては珍しく、大きな声を出したのだ。


「そ、そんなこと……ない! りょ、りょう君は……とっても……いい人……! ミカもユカちゃんも……そんなりょう君だから……大好き……! 大事な友達……だもん……!」


「ミカ……」


「……はっ。何かどうでも良くなった。俺、教室に帰るわ」


 金髪は急に冷めた顔になると、校舎裏から離れていった。

 ひとまずは解決した……のか?




「はぁ……こ、怖かった~。リア充ってみんな凶暴なのか?」


「ひゃう……」


「ちょ、ミカ大丈夫か!?」


 ミカは膝から崩れるように、地面に座り込んでしまった。

 体調が悪いのか? それともどこか怪我したのか、いや怪我するタイミングなんて無かった気がするけど。


「大声出したから……疲れた……」


「何だよ、驚かせないでくれ……」


「にゅふふ……ごめんなさい」


「いいよ、ミカが無事で何よりだ。金髪もいい加減だよな、告白する相手間違えるなんてさ」


「うん……でもミカ、悪い気はしなかった……よ」


 何? もしかしてミカ、金髪に告られてその気になったのか?

 い、いやそれなら仕方ないだろう。ミカが誰を好きになろうと、ミカの自由なんだから。


「りょう君に……助けて貰えたから……。怖かったけど……嬉しかった……」


 あ……。くそ、俺は自分の勘違いが恥ずかしい。

 ミカはさっきのやり取りの中で、俺との友情を感じてくれたのだ。

 それなのに俺は、変な事を考えてしまった。普段リア充のことを脳内ピンクと馬鹿にしているのに、自分も同じじゃないか。


「すまんかった……ミカ」


「……? どうして……謝るの……?」


「いや、まぁなんだ。色々とな」


「……?」


「それより、さっきは嬉しかったよ。俺のこと大好きって言ってくれてさ」


「えっ……。あ……ああ……ああああ……!!」


 ミカがあんなことを言ってくれるなんてな。俺も中々捨てたもんじゃないのかもしれん。


「あのっ……あれは何て言うか……! その……ち、違うんだよ……!?」


「分かってるって。“友達”として大好きってことだろ?」



「…………えぇ?」


「いやー、二人と仲良くなって良かったって思うよ。俺もこんなに仲のいい友達が出来たの初めてだからさ」


 俺だけが一方的に友情を感じていたら寂しかったけど、ミカとユカから大事な友達と認識されていたのはとても嬉しい。陰キャの俺には勿体ないくらいだ。


「あぅ……りょう君のばか……」


「えっ」



 ミカは何故か不機嫌になってしまった。頬をぷくぅと膨らませて、こっちを見ている。

 俺、何か不味いこと言っただろうか……。ミカの怒るスイッチが分からん……。


 むぅ、人付き合いっていうのは本当に難しいな。


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