第14話 双子の妹に誤解を与えた
中間テストが終わった週の土曜日。俺はテスト勉強で消化できていなかった深夜アニメを消化していた。
五月末といえば春アニメも終盤に差し掛かる頃だ。複数のアニメが怒濤の展開をしている。リアルタイムで終えなかったのが悔しいな。
「やっぱりアニメはその日の内に見て、ネットで感想とかいいたいよなぁ。てか、戦闘メインのアニメならともかく未だに日常アニメでも終盤に謎シリアスやるのかよ」
日常アニメってあの空気感がいいのであって、放送が終わるからって無理に山場作らない方が視聴者としては嬉しいんだけどなぁ。
まあ個人の感想だから反対意見もあるだろうけど。案外謎シリアスにも需要があるから、未だにそういうのがあるかもしれないし。
「しかしテストが終わってやることがアニメの消化って、俺もとことんオタクだな。普通は友達で遊びに行ったりするもんなのか?」
友達がいない俺には関係のない話か。そういえば昨日、金髪がクラスの女子に遊びに誘われてるのを見たな。モテるやつはすぐにお呼びがかかる。悲しい格差社会だ。
「さてと、録画もある程度消化したし昼飯でも食うか」
昼飯といえば昨日のミカの弁当を思い出してしまう。女子からの手作り弁当という、陰キャ男子にとって夢のようなイベントだったが、弁当の中身が全て冷食……しかも解凍しきれてないというのは中々衝撃的だった。
ミカには悪いけど、昨日の夜は少し腹の調子が悪くなったからな。今後は気をつけて欲しい。
まぁ、弁当をもらったこと自体はすごく嬉しかったけどね。
「げ……冷蔵庫の中からっぽじゃないか……。誰だよ、食材準備してないやつは……俺だ」
誰もいない部屋で一人、自分にノリツッコみをする陰キャ。
友達がいないで一人暮らしをしていると、独り言も自然と増えてしまうのが恐ろしい。
「しょうがない……どこかに飯食いに行くか」
財布を持って家を出た。土日ということもあり、どこの店も人が多い。俺としてはハンバーガーでも食ってさっさと家に帰りたいのだが、人が多い店に入るのは嫌だ。
だって知り合いに会うかも知れないし、もし一人のところを見られたら『うわ、あいつぼっちなんだ』と思われそうで怖い。
いや待てよ、そもそも俺のことを知ってるやつなんてそうそういないよな。ならいいか、やっぱりモックでハンバーガーでも食べよう。
「ん~このチープな味付けが堪らない……」
チーズバーガーっていうのはどうしてこう美味しいんだろうか。薄いチーズと肉、スカスカのパンがこれほど美味く感じる。俺はモックに一生ついていくぜ。
ジュースを飲み終わると、スマホに通知が来ていたことに気付く。
俺にLIMEを送ってくるのなんて父さんか朝倉姉妹のどっちかだろう。確認してみると、ユカからメッセージが来ていた。
「んん? 『後ろを見てみて』……? なんだこれ、ホラーの導入かよ」
ここで後ろを振り向いたら血だらけの女が……とか、安っぽいホラー映画にありがちな展開が待ってそうだ。
まあ現実にそんなことあるわけないか。しかし後ろって何のことだろう。
「あ……ジュースを一気飲みしたせいか、急にトイレ行きたくなってきた……」
もうすぐ六月ということで店の中は冷房が入っている。夏ほど温度が低く設定されていないが、半袖だと寒く感じる人もいるくらいの温度だ。
尿意を意識し始めたら、それまで平気だった冷房の風も途端に膀胱を刺激する攻撃のように感じる。
やばい……家まで我慢できそうにないな。店内のトイレで済ませるか。
そう思い、席を立とうとした――その時
「んぶっ!?」
「へへーん。ひっかかったー」
俺の頬に誰かの指が突き刺さる。
これはあれか、肩を叩かれて振り向いたら頬に指を当てられるいたずら的なやつか。
小学生がやるいたずらかよ。誰だこんなことをやってきたのは。
「ってひゅははひゃいは」
「リョウ君ってばLIMEで警告してあげたのに、まんまと引っかかるんだー。油断してるよキミー」
そうか、LIMEの『後ろを見てみて』ってこういうことかよ!
マジで俺の後ろにユカがいたってことか。てっきり写真か何か張り忘れてるのかと思ったぞ。
というか、いるならいるって声かけてくれればいいのに。
変なところを見られてないか心配になってきた。
「休みの日に会うなんて奇遇だね-。どこか出かけてたの?」
「おへは……っていいかげん指離せ!」
「えへへーごめんごめん。意外と柔らかいんだね、ほっぺ」
それは俺の肉質がぶよぶよと言いたいのだろうか? 悪気は無いんだろうけど、男が頬柔らかいと言われてもあまり嬉しくないぞ。カサカサだねと言われるよりはマシかも知れないが。
「……ったく、そういうユカはどうしてこんなとこにいるんだ? こういう店って来ないタイプだと思ってた」
「えへへ、午前中に読モの撮影があったんだー。今はその帰りだよ」
「へーまた撮影したんだ」
「興味ある? ユカのこと気になる?」
「いや、それは……」
……気になる! けど言えない。だって女子に直接そういうこと言うのって恥ずかしいんだもの。仕方ないよね陰キャだもの。
ちなみに同じクラスの丸山からユカが載ってる雑誌を教えて貰っている。けど罪悪感やら羞恥心やらが湧いたので買うまでには至ってない。
いや、だって……ねぇ? 友達の載ってる雑誌を買うって大義名分があっても、それが学校一の美少女ってなれば……ねぇ? なんか下心があるみたいで嫌じゃない? 誰に対する言い訳か自分でも分からんけど。
「夏向けのチョーいい感じの服着たんだよー♪ 今度リョウ君も読んでみてよ!」
「それはユカの着た服を見てって意味でいいんだよな……?」
「うん、そーだよ?」
ほっ……。てっきり言外に『お前の服だせーからファッション雑誌でも読んで勉強しろよ』って言われてるのかと。
まさかユカがそんなこと言うわけないとは思うが、深読みのしすぎは陰キャの生態なので。
「まぁそうだね……今度本屋で見かけたら買っとく」
「約束だからね! 感想とかちゃんと言ってね?」
「ええ……か、感想って例えばどんな……?」
「そりゃ『似合ってたよ』とか『オシャレだね』とか…………あと、可愛いね……とか」
ユカ? ユカさん? 何故最後の部分だけ上目遣いでこっちを見てくるんですかね?
それってどういう意図の視線なの。今このタイミングで言えってことなの? 欲しがりさんなの?
いや言っていいのなら言うけどね? ユカ可愛いよって言うけどね? でもたぶん俺の勘違いだよな、うん。どう考えても俺に言われて嬉しいわけ無いもんな。
「さ、さて飯も食ったしそろそろ俺は帰るか。この後用事もあるし」
あとトイレ行きたいし。そろそろ決壊寸前だ。頑張れ俺の膀胱、氾濫しそうな尿意をせき止めてくれ。
「用事って、何かあるの?」
「ああ……まあ……。えっと、可愛い子たちに会いに行く……みたいな?」
アニメが見たいから帰りたい、なんてユカに言ったら引かれてしまうかもしれない。だからといってその言い方もどうなのと思わなくも無いが、陰キャの悪いプライドが働いてしまったのかもしれん。
ちなみに次に控えてるアニメは女の子の日常ものだ。モブにさえ男が一切出ない、完全な美少女動物園アニメ。まさに理想の世界とも言える。
そんな素敵な世界に住む彼女たちに俺は一刻も早く会いに行きたいんだ。まあ会うのは自宅のテレビなんだけどね。
しかしユカは俺の言葉を真に受けたのか、驚いた表情をしている。
「え!? も、もしかしてリョウ君……デート!?」
「は、はぁ!? 俺がデートなんて行くはずないだろ!」
「じゃ、じゃあ何なの? 可愛い子に会うって……それってデートじゃん!」
「いや、あれは言葉の綾というか……。そもそも、ユカに関係あるのか?」
「そ、それは……」
い、いかん。本当のことを言うタイミングが無くなった……!
しかしユカはどうしてこんなに取り乱してるんだろうか。俺が他の女子と会うなんてあり得ないのに。
もしかすると、俺に休日一緒に過ごす友達がいたのかって驚いているのか? それはそれで悲しいんだけどな。そんな友達いないから尚更。
あ……そろそろトイレ漏れそう……。
「ユカ……ユカはミカちゃんのこと応援してるけど……でも、ユカはユカでリョウ君のこと大事な友達だと思ってるし……」
何故そこでミカの名前が出るのか分からないが、これ以上誤解されないためにも正直に話すしか無い。決壊しそうな俺の膀胱のためにも!
「ユカごめん! 見栄張った!」
「え……?」
「用事ってアニメのことなんだ。でもユカに言ったら引かれるかもって思って、誤魔化そうとして……」
「じゃ、じゃあ可愛い子って……」
「う、うん……アニメのキャラ……」
うう……言ってて恥ずかしくなる。何故俺はこんな公開処刑のような真似をしてるんだ……。
「な、なーんだ! そうだったんだねー、ユカ安心したよー♪ リョウ君がデートなんてするはずないよね、うんうん♪」
「それで喜ばれるのも納得いかないけど……誤解が解けたようで何よりだよ」
「もう、あんまり変なこと言っちゃダメだよリョウ君! 誤解を受けて傷つく人だっているんだからねっ」
「仰るとおりです……はい」
「ま、ユカは大目に見てあげるよ☆ リョウ君に彼女がいないって分かってほっとしたし」
「ん? どうして俺に彼女がいないとユカが安心するんだ?」
「っ……そ、それはほら! 変な子に誑かされてないか心配になっただけ! あ、あくまで友達としてだからねっ?」
ユカは顔を赤らめてそんなことを口にする。
よく分からないけど、友達として心配してくれてるんだな。ユカは優しいやつだな。
「ユ、ユカ……もう帰るね! じゃあね!」
そのまま顔を赤く染めて、ユカは店を出て行ってしまった。撮影疲れで体調でも崩したんだろうか。
「……っといけね! トイレトイレ!」
なんとかギリギリトイレに間に合った俺は、その後はすっきりした気分で家に帰っていった。




