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第10話 双子の妹と電話した

「あ~テスト勉強だるい」


 家にいると勉強する気が全く出ないよな。ただでさえ毎日の宿題で二時間くらいかかるのに、テスト勉強までやったら時間なくなるわ。こういう時くらい宿題なくして欲しいと思うんだが、それは甘えなんだろうな。


 部活やってるやつなんて俺より時間無いだろうし、俺は時間の使い方が下手くそなのかもしれん。きっとスマホでネット見るのをやめれば勉強する時間も捻出できるんだろうけど、そんな意志はこれっぽっちも湧いてこない。


「はぁー全然勉強出来ねえ。どうしたもんか……ん?」


 スマホから通知音が鳴る。確認してみるとユカからLIMEが来ていた。


「『今大丈夫?』って何だ? とりあえず大丈夫って返信しとくか」


 俺に何か話でもあるのだろうか。分からないが返信はしておく。するとスマホから着信音が鳴る。久々に聞くこの音は電話の着信音じゃないか。まさかユカから電話が来たのか?


「は、はいもしもし」


『夜遅くにごめんねー。ユカだけどぉ、今電話してもいい?』


「う、うん。別に問題ないけど」


 スピーカー越しに聞こえるユカの声はいつもより大人っぽく聞こえた。顔が見えないと不思議と緊張感があるな。


『今月末に中間テストあるじゃん-。リョウ君ってもうテスト勉強やってる?』


「あー……」


 俺は目の前に広げられた教科書とノートに目をやる。やろうと思って全く手の付けられていないそれらを見て、勉強していると言い張っていいものか。やろうとは思ってるんだけやる気は無いという矛盾。人間って難しいね。


「そろそろ始めようかなって迷ってる」


『迷ってちゃダメでしょー』


「ぐうの音も出ないようなツッコみやめてくれ……」


 ユカの仰るとおり、ここで迷ってるようだとダメだよなぁ。大学に進学するなら受験勉強とか必要だし、やろうと思ったら即勉強出来るくらいじゃないとな。

 こういう時にすぐ行動出来るやつは将来勝ち組になるんだろう。俺は絶賛負け犬街道まっしぐらである。


『ねぇ。せっかくなら一緒に勉強しないー?』


「はい? 一緒にってどういう……」


『だーかーら、放課後勉強会しようよ』


「それって噂に聞く、リア充がファミレスに集まってドリンクバーで数時間過ごすアレか!?」


 勉強するといいつつ、結局ファミレスでだらだら過ごして時間を浪費するリア充の集会と聞いたことがあるけど、まさか実在したのか。

 あれって勉強することが目的なんじゃなくて、テスト勉強という口実を利用して友達と集まってるだけじゃないのか?

 中学の頃にクラスのリア充が毎日そんなことをしておいて、テスト当日になったら『っべー全然勉強してないわ、っべー』とか言ってたぞ。


『リョウ君がどんな噂聞いたのか知らないけど、ちゃんと勉強するよー。成績が落ちたら読モやめさせられちゃうしさー』


「そうか、それならいいけど……」


『じゃあ明日から勉強会ね! ミカちゃんも来るからよろしくー!』


「あ、ちょっと待って。ユカ、今更聞きにくいんだけど……いいか?」


 俺はユカにどうしても聞きたいことがある。それを確認する前に通話を切られたら困る。


『な、何改まって……ユカに聞きたいことって?』


「あの…………勉強会って何するの?」


 今まで一人で勉強してきたからそもそも複数人集まって勉強する意味がわからん……!

 これが陰キャ、悲しき現代社会の産物。孤独になれてしまい人との触れあいも忘れたモンスター……。

 いや冗談はさておき、真面目に勉強会って何をするんだろう。別にテストなんて教科書やノートを見返せば最低限の点数は取れるだろう。何人も集まってまで勉強する理由がわからん。


『ユカ……リョウ君の友人関係に涙が出てきちゃった……』


「やめろ! 下手に同情しないでくれ、余計に惨めになるから!」


『あはは、ウソウソ。ミカちゃんの勉強を見てあげるから、どうせならリョウ君も見てあげようかなーって思ったの』


「あの、確認したいんだけど……それ俺の成績が悪いって決めつけてるよな?」


『えっリョウ君って成績いいの!?』


「いいえ見栄張りましたお願いします勉強見てください」


 うん、友達と集まって勉強なんてやったことないからダラダラと言い訳をしたけど、要は初めてのことで戸惑っちゃったんだよね俺。

 あと成績がそんなによくないのを朝倉姉妹に知られるのが恥ずかしいってのもある。どっちにしても器の小ささが知れてしまう。我ながら情けない。


『まあ私も成績よくないんだけどねー。リョウ君がいたらミカちゃんもやる気だすかなーって思っただけ』


「そこで何で俺の名前が出てくるかは分からないけど、まあいいか」


『またまたー本当は分かってるんじゃないのー? それとも気付いてないのかにゃ~』


「いやマジで何言ってるか知らんけど、とりあえず勉強会のことはOKだから。それじゃな」


『あーひどーい! ミカちゃんに言いつけちゃうよー! え、ちょっと待って本当に切ろうとしてる? あのーもしもーし』


 スピーカーからユカの必至な声が聞こえてくる。おちょくってくるから通話切ってやろうと思ってたけど、なんか申し訳なくなるな……。


『えー本当に切っちゃうのー? そっかー……あの噂(・・・)、みんなの前で認めちゃおっかなー』


「すみませんこちら進藤でございます。朝倉ユカ様には大変ご無礼を働いてしまい、まことに申し訳ございません」


『もー。いたずらが過ぎるよリョウ君』


「いやお前も大概だと思うけど……」


 俺とユカが付き合ってるなんてデタラメな噂を認めたら、俺が男子から報復されちまうだろうが! そっちの方が悪質だわ。


「ま、私も特にこれ以上話すことないんだけどねー。ただ電話を切る前にひと言言いたかったの」


「ん、なにを?」


 スピーカーから聞こえる声が一瞬消えた。そしてユカの息を呑む音が聞こえた後に、甘い声でこう言われた。


「おやすみ、リョウ君♪」


 その声はまるで耳の中をくすぐられているような、全身に衝撃が走る声だった。


「あ、ああ……お、おやすみ……ユカ」


「うん。じゃあまた明日ー」


 通話が終わった後も耳の中にはユカの声が残っていた。

 俺は右耳を手で押さえて、その余韻を感じていた。


 やはりユカは恐ろしい女子だ。声一つでここまで男にダメージを与えてくるのだから。

 俺は冷静になるために机に向かい教科書を開いて、全力で雑念を振り払うのだった。


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