あの……コーヒーってまだですか?
突如流れ出したBGM……。
疾走感のあるその音楽を背に裏ボスは不適に笑ってみせる。
「ふはははは!!! さあ、かかってきなさい勇者よ。私が真のボス……そう! 裏ボスなのだから!!」
名状し難いでっかい剣を構えた裏ボス。背後には大きな魔力の塊が見えた。
灼熱の如く、氷海の如く、雷神の如く、大樹の如く、暗黒の如くそれらは輝きとてつもない爆風を発生させる。
大きく見開かれた眼は赤く染まり全てのものを見通した。
「さぁ……かかってきなさい。それがあなた達が選んだ破滅の道よ!」
男たちは顔を見合せ、震え、お互いに抱き合った。
そして……。
「あ、あの……僕達コーヒーを飲みに来ただけなんですか……」
その言葉を聞いた裏ボスさんはあからさまに肩を落とし、深くため息を付いた。羽を縮めヨレヨレと地面に足をつけテトテトと彼らのところに向かい歩く。
「はぁ、またハズレか……最近多いのよね〜【私】を選ぶお客さん。その度に教会送りにして……はぁ、賠償金凄いことになってるのよね〜」
深紅の目から落ち着いた青色の目になり裏ボスさんはさらに続けた。
「常連さんもそれで足引いちゃって来なくなる始末だし、仲良くなった奥様方も来なくなっちゃって……賠償金払えなくなったのよね……元々稼ぎの少ない喫茶店だからお金稼ぐの難しいし、旦那が畑仕事してくれてるから私も趣味の時間を貰えてるわけだからいいんだけどさ、野菜にばかりに惚けて私の相手してくれないし……もぅ、裏ボスやめようかしら」
早口でまくし立てる彼女を見ていた村人たちはその様子をこう語った。
「……いや、コーヒー飲ませてよ」と……。
彼女は指を弾く。
するとたちまち音楽が止まる。
さらに、広々としていた場所は瞬きをする瞬間に戻っていた。
「この匂い……コーヒーか」
一人の男がそう言い何事も無かったかのように席に着いた。
もう一人の男は、やさぐれた感じに席に着いた。
「あの、ここ一体なんなんですか? 裏ボス戦がどうたらこうたら言ってましたが」
「はぁ、普通そういう反応になるわよね……言いたくないのよ? 本当はでも傷つけてしまったかもしれないし、それのお詫びにコーヒーでも奢るは」
小さくこう呟きながら……。
(お金欲しいけど)
どことなく気まずい2人は出されたコーヒーを飲んでいた。
「美味しい……」
一人の男がそう語る。
カウンターに頭を乗せてダラーんとして見せた店主は深々とため息をついた。
喫茶店の窓に飾られてい時計を見ると15時半……おやつの時間であった。
「暇だし、少し昔話をしてあげるわ」
店主はそんなことを言いながら腰をあげるのだった。