第1話:プロジェクト始動
・2021年8月27日付
細部調整
・2023年6月5日付
細部調整
SFに出てくるようなパワードスーツを装着したプレイヤー、その数メートル離れた距離にいるプレイヤーと対戦しているのだろうか?
この人物達がコースを走りプレイしているジャンル、それはスポーツ物ではない。二人のプレイヤーがプレイしている物、それはリズムゲームだった。コースを一定周回走る物ではなく、あくまでも楽曲を演奏する事が目的である。それでも、見た目は明らかにリズムゲームには見えない。
「リズムゲームなのか?」
「明らかにパルクールか何かでは?」
「小学校の体育館位の広さを使う様なゲームなのか――」
「屋外型のスポーツゲームはあるらしいが、ジャンルとしては拡張現実だな」
周囲からすればリズムゲームと言うには場違い過ぎた。物珍しさに足を止めるギャラリーはいるが、すぐに離れる人物もいる。それに加えて、ギャラリーからも疑問の声が出るレベルなのは間違いない。普通、リズムゲームと言えば音楽を連想するような筺体をイメージする事が多いだろう。
しかし、時代に逆行している様な体感ゲームには衝撃を受けているようで、足を止めて見ているギャラリーが若干多くなった。デモムービーの段階では足を止める人物はほとんどいないのが、プレイヤーがプレイしているだけでギャラリーが増えるのである。
数十人程度のギャラリーのいる場所、それはゲームセンター。更に言えば、この場所は埼玉県草加市にあるARゲームフィールドだ。過去にSNS上で炎上商法を巡る事件――その舞台になっていたのが、この場所と言える。その原因がゲーム作品と言う事もあり、ゲーセンが思わぬ形でピックアップされるのも風評被害と言われるだろう。
炎上したのであればゲーセンを訪れる客足は減るはずなのだが、このゲームフィールドでは観光客や常連と言ったような脚だっているのだ。草加市に存在するガーディアン、それこそがSNS炎上を阻止する存在として活躍しているのが理由の一つかもしれない。
ゲーセンで目立つような大型筺体ではないが、二人がプレイしているゲームは明らかに色々な意味でも目立つ。拡張現実をベースとしたARゲームをメインに扱っているフィールドで、仮想現実であるVRにも近いようなゲームをプレイしている事も理由の一つだ。
実際、広いコースを走っているのはアバターと呼ばれるバーチャルの存在であり、リアルのプレイヤーはゲームの筺体でプレイする。専用のコントローラー等が筺体にある訳でなく、特殊なスーツを着て、メットを被り、何かを手でタッチするような動作をしているが、その様子をギャラリーが見る事はない。
あくまでも、ギャラリーが見ているのはフィールドを疾走するアバターの方だ。プレイヤーの様子はゲーム筺体から見える事はないのである。確かに大型筺体と言うには若干以上に言葉を選ぶだろう。体育館並の広いフィールドは、バーチャルアバター用のコースと言うのを踏まえれば。
このゲーム自体は、何度かロケテストを行った後に正式版が登場、草加市を含めた三か所で稼働していると言う。稼働しているのも秋葉原と西新井の特別なフィールド限定なので、東京よりは埼玉の方を選ぶのだろうか。電車などの交通面で優れている訳ではないのに、どうして草加市の方へ彼らは足を運ぶのか?
時期も、あのパワードスーツを着こむには熱中症もあり得そうな八月上旬、この月は様々なコンテンツ関係でイベントも目白押しな時期だろう。その時期に――あのような事件が再び起こるとは、この時誰も予想にしていなかったのである。