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仲良し3人娘の怪談

お金が増えるコインロッカー

作者: ウォーカー

 これは、噂話が好きな、仲良し3人組の女子生徒たちの話。


 「お金を入れておくと増えるコインロッカー!?」

放課後の教室に、素っ頓狂な声が響き渡った。

「しーっ!静かに。他の人に聞かれちゃうじゃない。」

「急に大きな声を出して、びっくりした~。」


 夕暮れの学校。

他に誰もいなくなった教室に、遠くからは部活動に勤しむ生徒たちの声が響く。

その教室に、3人の女子生徒が残って、おしゃべりをしていた。

黒くて長い髪の女子生徒。

髪を頭の左右に分けて結っている、ツインテールの女子生徒。

おかっぱ頭の女子生徒。

その仲良し3人組の女子生徒たちは、

普段からこうして放課後の教室に居残っては、おしゃべりをすることが多かった。

学校であった困ったこと。

親と喧嘩したこと。

おしゃれの話。

などなど。

そして今日の話題は、学校の怪談についてだった。

ツインテールの女子生徒が、前のめりになって話をしている。

「学校の怪談といえば、こんな話があるのよ。

 近隣の学校の生徒達の間でも、噂になってるみたいなんだけど、

 この近所に、お金を入れておくと増えるコインロッカーがあるらしいの!」

おかっぱ頭の女子が、小さく手を挙げて続く。

「あ、それ、わたしも聞いたことある。

 詳しくは知らないけど、学校の裏の方にあるコインロッカーだったかな。」

それに対して、長い髪の女子は、つまんなそうに受け答えをする。

「そう。私は初耳だけど。」

「あんたは、あたしたち以外とはあまり話さないから、知らないのよ。」

「そうかしら。まあ良いわ。それで、どういう話なの。」

「それはね・・・」


 お金が増えるコインロッカーの話は、こうだ。

舞台は、学校の裏手にあるコインロッカー。

そこの402番のロッカーに、お金を入れておく。

そして、次の日まで待つ。

翌日、402番のロッカーを開けると、なんとお金が増えているという。

 ただし、注意事項がある。

コインロッカーの鍵はかけない。

そのコインロッカーを開ける際に、誰かに姿を見られないようにする。

そして、お金を入れる際に、コインロッカーの中を見ないようにする。

最後に、コインロッカーの扉を開けるのは、一日一回まで。


 ツインテールの女子は、説明を終えると飲み物を一口飲んで、また捲し立てた。

「すごいと思わない?お金が増えるのよ!」

しかし、長い髪の女子は、冷めた顔をしていた。

「そんなのどうせ、ただの噂話でしょう。子供の遊びよ、きっと。」

おかっぱ頭の女子は、興味を持ったようで、目を輝かせている。

「もし本当に、お金が増えて戻ってくるのなら、すごいね。

 でも、注意事項がいくつもあって、難しそう。」

ツインテールの女子が、人差し指を立てて得意げに説明する。

「多少手順が複雑なのは、仕方がないわよ。

 でも、それにはちゃんと理由があるのよ。

 なんでも、お金を増やしてくれる幸運の神様がいて、

 その神様を呼び出すための、しきたりらしいの。

 その神様は、人に姿を見られるのが苦手なんですって。

 だから、お金が増えるコインロッカーを開ける時は、

 人に見られてはいけないの。

 中身を見てはいけないというのは、お守りと一緒。

 お守りも、中身を見るとご利益がなくなるって言うでしょう。

 そして、幸運を独り占めさせないために、一人一日一回。」

「なるほど~。」

おかっぱ頭の女子は、説明に納得して感心している。

しかし、長い髪の女子は、鼻をふんと鳴らして反論した。

「神様なんて、いるわけないじゃない。

 手順が複雑なのは、そんな理由じゃないわね。

 もっと理屈で考えて、お金が増えるのは当然のことよ。

 ちょっと考えれば分かるわ。」

「どういうこと?」

ツインテールの女子と、おかっぱ頭の女子が、理解できないという顔をしている。

その2人に向かって、長い髪の女子がニヤリと笑って言った。

「じゃあ、説明してあげるわ。

 お金が増えるロッカーで、入れたお金が増えて戻ってくる仕組みをね。」


 長い髪の女子が、お金が増えて戻ってくるコインロッカーの、

仕組みの説明をしようとしている。

神様のおかげなどではなく、少し考えればその仕組が分かるという。

長い髪の女子が、軽く唇を湿らせて、喋り始めた。

「まず、私がそのコインロッカーに、100円を入れたとしましょう。

 その後で、このコインロッカーには、他の人もお金を入れるはず。

 私も、他の人も、お金を入れた日にはお金を取り出せない。

 コインロッカーを開けるのは、一日一回と決まってるから。

 すると、その日の最後には、このコインロッカーには、

 必ず私が入れた100円以上のお金が貯まるということになる。

 だから次の日、私がコインロッカーを開けると、

 そこには、私が最初に入れた100円以上のお金が入っているというわけ。」

ツインテールの女子が、手を合わせて感心している。

「なるほど!共用の貯金箱のようなものなのね。

 理屈で考えたら、お金が増えて戻ってくるのは、当たり前だったのね。」

「そうよ。神様のおかげじゃなくて、そういう仕組みになっているの。

 一日一回しか開けられないのだから、入ってるお金は増える一方よ。」

ツインテールの女子が、続けて質問する。

「じゃあ、最初に中身を見てはいけないというのは・・・」

「お金を入れずに、中身を持っていく人が出ないようにするためね。」

「ロッカーを開けられるのが一日一回なのは・・・」

「お金が増える前に取り出すのを防ぐためね。」

「人に見られてはいけないというのは・・・」

「コインロッカーの中にお金がどれくらい溜まってるのか、

 わかりにくくするためね。」

「お金を入れるコインロッカーの番号が、402番に指定されてるのは・・・」

「入れられるお金が分散するのを防ぐためね。」

質問に全て答えを示されたことで、

ツインテールの女子はうんうんと腕組みをして頷いた。

「なるほど、よく出来たいたずらだったわけか。

 噂話に乗る人が多ければ多いほど、お金も増えて戻ってくるようになるのね。」

「そう。だから幸運の神様なんて嘘よ。

 きっとこの噂話を広めた奴は、

 適当なタイミングでお金をネコババしているのでしょう。

 手の込んだいたずらだわ。」

その時。

そこまで黙って話を聞いていた、おかっぱ頭の女子が、疑問を口にした。

「・・・それって、おかしくないかな?」


 長い髪の女子が、お金が増えるコインロッカーの仕組みを、理屈で説明した。

しかし、それに対して、おかっぱ頭の女子が疑問を口にした。

その説明は、間違っているという。

長い髪の女子が、おかっぱ頭の女子に向かって言った。

「おかしいって、どこが?」

何だか文句を付けたようになってしまって、

おかっぱ頭の女子は、ドギマギして応える。

「えっと、おおよそは、今説明した通りだと思うの。

 でも、それだけじゃ説明がつかないことがあると思うの。」

「説明がつかないって、何がなの。」

長い髪の女子の、詰め寄るような質問に、

おかっぱ頭の女子は、額に汗をかきながら続ける。

「えっとね、まずひとつ目なんだけど、

 最初に100円を入れた後、次の日になる前に、

 前の日にお金を入れた人が、コインロッカーを開けに来ることがあると思うの。

 その場合は、次の日にロッカーを開けても、

 お金が増えているとは限らないよね。」

「・・・あ、そうね。」

長い髪の女子にも、自分が話した理屈の間違いが分かったようだ。

納得して貰えたことにホッとして、おかっぱ頭の女子は話を続ける。

「次に、ふたつ目の疑問。

 前の日にお金を入れた人が来なかったとしても、

 お金が戻ってくるのは、最後にコインロッカーを開けた1人だけになるの。

 つまり、お金が増えて戻ってきた人よりも、

 お金が戻ってこなかった人の方が、人数が多くなるはず。」

そこで、ツインテールの女子が口を挟んできた。

「誰かがお金を回収したすぐ後で、

 また他の誰かがお金を入れていくこともあるんじゃないかな。」

その疑問には、長い髪の女子が応える。

「その場合は、自分が入れた額よりも確実増えているとは言えなくなるわ。

 自分が入れたお金を他人に回収されてしまったら、

 その後で自分が回収するまでに入れられるお金の最低金額は分からなくなる。

 そうよね?」

おかっぱ頭の女子は頷いて話を引き継ぐ。

「そう。自分が入れたお金よりも、確実に増えたお金を回収するには、

 自分が入れたお金を他人に回収されてはいけないの。

 そして、1人がお金を入れられる回数は、一日一回。

 お金を回収出来るのは、最後の1人だけ。

 それを総合すると、お金が増えなかった人のほうが、多くなるはずなの。

 だから、噂話になるのなら、

 お金が増えることもあるコインロッカーの話、でないとおかしい。

 それなのに、この噂話は、お金が増えて戻ってくる話、として広まっている。

 そこも、説明が出来ない点だと思う。」

「それは、お金が増えた人が喜んで噂話を広めたからじゃない?」

ツインテールの女子が、それがどうしたという感じで言葉を放り投げてくる。

「その可能性もあるけど・・・。」

おかっぱ頭の女子が言い淀んだのを見て、長い髪の女子が助け船を出す。

「つまりあなたは、

 お金が増えるコインロッカーの理屈に問題があるだけじゃなくて、

 噂話の伝わり方にも問題がある、そう言いたいのよね?」

「う、うん。そう言いたかったの。

 わたしは文句を言いたいわけじゃないの。ごめんね。

 お金が増えた人が噂話を広めたという可能性もあるけど、

 やっぱり噂話は、話す人数が多い方の話が広まると思うの。」

そこまで説明を聞いて、ツインテールの女子は納得したようだ。

その3人は、黙って考え込んだ。

「どうして、お金が増えるコインロッカーってことになったんだろう。」

長い髪の女子が、口を開いた。

おかっぱ頭の女子がそれに続く。

「う、うーん。

 もしかしたらだけど、

 お金を入れたけど、取りに来なかった人が多かったとか。」

ツインテールの女子が、呆れて言う。

「そんな人が何人もいるとは思わないけど。

 それよりはまだ、神様がお金を増やしてくれてるって話の方が、

 ありそうじゃない。」

おかっぱ頭の女子が、焦って応える。

「か、神様はともかく。そうね、誰かがお金を増やしてくれてるのかも。」

「誰が?何のために?」

その3人が首を捻る。

しばらく無言の時が流れた。

そして、ツインテールの女子が、何かを思いついたとばかりに膝をポンと打った。

「それじゃあ、実際に見に行って見ようよ。」


 長い髪の女子、ツインテールの女子、おかっぱ頭の女子。

仲良し3人組は、学校の裏手にある路地裏に来ていた。

そこには、お金が増えるという噂のコインロッカーがある。

お金が増えるコインロッカーの理屈はどうなっているのか。

理屈通りなら、損をする方が多いはずなのに、

お金が増えるコインロッカーとして噂話が広まっているのはどうしてか。

その真相を探るために、その3人はそこに来ていた。

その3人は、コインロッカーから少し離れた物陰に潜んで、様子を観察していた。

そのコインロッカーがある場所は、路地裏にあるため、

人通りは多くないが、全く無いというほどではなかった。

時折、そのコインロッカーの前を人が通り過ぎていく。

今のところ、そのコインロッカーを使う人はいなかった。

しばらくそうして観察していると、

コソコソと小さな人影がそのコインロッカーに近付いて行くのが見えた。

「あっ、誰か来た!」

「しーっ!静かに。」

声を上げたツインテールの女子の口を、長い髪の女子の手が塞ぐ。

そのコインロッカーに近付いたのは、小学生くらいの子供のようだ。

辺りをキョロキョロと確認して、やがてコインロッカーの扉を開けた。

お金が増えるコインロッカーである、402番で間違いないようだ。

その子供は、中から何かを取り出すこともなく、何かを入れて立ち去っていった。

おかっぱ頭の女子が、開けられたロッカーの番号を確認する。

「今の子が開けたのは、402番で間違いないよね。

 でも、何も取り出さなかったみたい。お金を入れていったのかな。」

「そうでしょうね。あっ、また誰か来た。」

長い髪の女子が指差す。

さっきの子供と同じ様な年の子供が、そのコインロッカーに近付いて行く。

その子供も、402番のコインロッカーを開けると、

中から何も取り出さず、お金を入れて立ち去っていった。

その後も、そのコインロッカーには、お金を入れていく子供たちが続いた。


 そうして、その3人が物陰からそのコインロッカーを見張っていると、

今度は、中学生くらいの子がコインロッカーに近付いてくるのが見えた。

その子は、コインロッカーの中に何も入れること無く、

中から何かを取り出すと、嬉しそうに去っていった。

それを一部始終観察して、ツインテールの女子が確認するように言った。

「あれは、中に入れたお金を回収していった子、よね。」

長い髪の女子が頷いて応える。

「そうでしょうね。

 そうすると、今あのロッカーの中身は空っぽということになるわ。

 この状態で誰かがお金を取りに来ても、必ず損をするということになるわね。」

「あっ、誰か来たよ!」

おかっぱ頭の女子が、そのコインロッカーの方を指差した。

また誰かが、そのコインロッカーに近付いて行くところだった。

しかし、今度現れた人影は、子供ではなく大人だった。

その人影は、白髪のおじいさんのようだ。

その白髪のおじいさんは、周りを確認することなく、

そのコインロッカーに近付いて行った。

そして、402番を開けると、中を確認している。

空っぽのコインロッカーを見て、おかしそうに肩を揺らして、中に何かを入れた。

その様子を観察していたその3人は、興奮して言った。

「見て!402番のコインロッカーの中を確認して、何かを入れた!」

「今、あの402番のコインロッカーは、空のはずだよね。」

「さっきの中学生が、何も回収せずに帰る、ということをしていなければね。」

「お金が入ってるのに、回収しない奴がいるわけない。

 そして今、あのおじいさんは中身が空なのを確認してから、何かを入れた。

 こんな手順、お金が増えるコインロッカーの噂話には無かったはず。」

「もしかして、お金が必ず増えて戻ってきたのは、

 あのおじいさんがお金を入れてたからなの?」

「問いただしてみよう!」

ツインテールの女子が、隠れている場所から飛び出していく。

「あ、待って!

 噂話とは無関係の、ただのコインロッカー利用者かもしれないのよ!」

長い髪の女子が、慌てて後を追う。

「ま、まって~。」

おかっぱ頭の女子が、ノロノロとそのふたりに続いた。


 「見つけたわよ!幸運の神様!」

ツインテールの女子が、

コインロッカーの前にいた白髪のおじいさんに抱きついて、

後ろから羽交い締めにした。

「な、なんじゃ!?」

突然抱きつかれたそのおじいさんは、目を白黒させている。

長い髪の女子が、それを引き剥がして頭を下げた。

やっと追いついたおかっぱ頭の女子も、それに続く。

「突然、すみません。

 私達は、近所の学校の生徒です。

 このコインロッカーが、お金が増えるコインロッカーだという噂話を聞いて、

 それを調べに来たんです。」

ツインテールの女子が、長い髪の女子に首根っこを押さえられながら喚く。

「あなたが幸運の神様だって、あたしは分かってる!

 誰かがお金を入れ続けないと、

 お金が増えるコインロッカーは成り立たないんだから。」

「これっ!失礼でしょう!」

長い髪の女子が、ツインテールの女子の頭を小突く。

おかっぱ頭の女子が、息を整えながら、努めて冷静に事情を説明する。

「わたしたち、このコインロッカーが、

 お金が増えるコインロッカーだって噂話を聞いて、

 その理屈を考えてみたんです。

 その結果、条件が整った場合は、

 お金が増えて戻ってくることがあるのがわかりました。

 でも、それだけじゃ、損をする人の方が多くなるはずなんです。

 でも噂話では、必ずお金が増えることになっている。

 そこで、誰かが外部からお金を入れているはずだと、考えたんです。

 ・・・それが、おじいさん、あなただったんですか?」

おかっぱ頭の女子が、肩で息をしながら事情を説明した。

その横で喚くツインテールの女子、それを押さえつけている長い髪の女子。

その3人の姿を見て、白髪のおじいさんが、観念したように笑い出した。

「ふぉっふぉっふぉ。見つかってしまったか。

 そう、わしがこの、お金が増えるコインロッカーの発起人じゃ。」


 お金が増えるコインロッカー。

その正体が、明らかになろうとしていた。

コインロッカーの前に現れた白髪のおじいさん。

その人が、お金が増えるコインロッカーの発起人だという。

おかっぱ頭の女子が、白髪のおじいさんに尋ねた。

「それじゃあやっぱり、

 あなたがこのコインロッカーにお金を入れていたんですね?」

白髪のおじいさんが、恥ずかしそうな笑顔になって応えた。

「そうじゃ。わしが、お金を足しておったんじゃ。

 でも、どうしても足りない時に、ちょびっとだけじゃぞ?

 お金が増えるコインロッカーの真髄は、

 そのやり取りを楽しむことにあるからのぅ。

 戻ってくるお金はおまけ。ちょっとした、小遣いじゃ。」

ツインテールの女子が、長い髪の女子の拘束から抜け出して、

白髪のおじさんに詰め寄る。

「つまり、あなたが幸運の神様だったのね!

 それとも、サンタさんかしら?」

「ふぉっふぉっ、照れるのぅ。

 でもわしは、神様でもサンタさんでもないよ。」

長い髪の女子が、そのやり取りを若干呆れたように見て尋ねる。

「どうして、こんなことをしているんですか?

 ご自分のお金まで出してしまって。

 何の徳にもならないでしょうに。」

その問いに対して、白髪のおじいさんは、

白いヒゲを撫でながら、遠い目をして語り始めた。

「わしの家は昔、とても貧しくてな。

 わしは、家族の相手も出来ず、毎日遅くまで仕事に明け暮れておった。

 そうして稼いだ金が、家族のためになると思ってな。

 しかしある日、子供が事故に遭ってしもうた。

 その日、仕事で遠出をしていたわしは、子供を看取ることが出来なかった。

 わしは、その子供の生前、

 まともに遊んでやることすら出来なかったというのに。

 その罪滅ぼしというわけではないんじゃが、

 お金が増えるコインロッカーというものを作って、

 亡くなったわしの子供の分まで、子供たちに楽しんで貰おうと思ったんじゃ。

 ・・・楽しんで貰えなかったかな?」

白髪のおじいさんは、寂しそうに微笑んだ。

ツインテールの女子が、話を聞いて大人しくなって応えた。

「そういう事情だったのか・・・。神様なんて言ってごめんなさい。」

「自分のお金を出してまで、子供たちの遊びに付き合うなんて。

 おじいさん、随分といい人なんですね。」

「わたしは、お金が増えるコインロッカーを調べるの、たのしかったよ。」

長い髪の女子と、おかっぱ頭の女子が続いた。

その3人の反応をみて、白髪のおじさんは、嬉しそうに笑顔で応えた。

「楽しんで貰えたか!それはよかった。

 ところで、ひとつお願いがあるんじゃが・・・。」

「なんでしょう?」

「これからも、お嬢ちゃんたちのように、

 お金が増えるコインロッカーの仕組みに気がつく子供たちが出てくるじゃろう。

 そうしたら、この遊びはおしまいじゃ。

 じゃが、おしまいになるその瞬間まで、

 お金が増えるコインロッカーの遊びを続けたい。

 そのために、今日見たことは、もう少しの間だけ内緒にして貰えんかのぅ。

 人からタネを聞いてしまっては、楽しみが半減してしまうからの。」

白髪のおじいさんからのお願いを聞いて、

その3人は顔を見合わせてくすっと笑った。

「はい、わかりました。」

その3人は白髪のおじいさんの提案を快く受け入れた。

それを見て、白髪のおじいさんも笑みをこぼす。

それが、お金が増えるコインロッカーの真相だった。


 後日。

その3人は、また放課後の教室に集まっていた。

ツインテールの女子が、頭の後ろに手を組んでボヤいた。

「また何か、おもしろい話が無いかなー。

 そういえば最近、お金が増えるコインロッカーの噂話を聞かなくなったね。」

「みんな飽きたんでしょ。」

長い髪の女子が、きっぱりと切り捨てる。

しかし、おかっぱ頭の女子は、ウキウキとして言う。

「あのおじいさん、どうしてるかな。

 お金が増えるコインロッカーの遊びが終わったら、

 次は、どんな遊びを始めるのかな。」

「・・・会いに行ってみましょうか。」

「会いに行くって、どうやって?

 あたしたち、あのおじいさんの連絡先、聞いてないじゃない。」

長い髪の女子が、ニンマリと微笑む。

「そんなの、簡単よ。あのコインロッカーに、お金を入れに行けばいいのよ。」

そうしてその3人は、白髪のおじいさんに会うために、

お金が増えるコインロッカーのところに向かった。


 その3人が、お金が増えるコインロッカーのところに向かうと、

そこには先客がいた。

コインロッカーの前にいるのは、白髪の老婆だった。

「おっと、誰かいる。」

「お金を入れる時、誰にも見られちゃいけないんだったよね。」

「それを言うなら私達、1人で来るべきだったかもね。

 ・・・仕方がない。あの人がいなくなるのを待ちましょう。」

しかし、しばらく待っていても、その老婆は中々いなくなる気配がない。

目を閉じて、何か物思いにふけっているようだ。

その3人はヒソヒソと相談を始める。

「あそこにいられると、お金が増えるコインロッカーを使えないな。」

「あのおばあさん、あそこで何してるんだろう。

 コインロッカーを使うわけでもなさそう。」

「仕方がない、事情を説明して、どいてもらいましょうか。

 まさかあのおばあさんが、

 お金が増えるコインロッカーを使いに来たわけじゃないだろうし。

 話しかけても大丈夫よね。」

その3人は、お金が増えるコインロッカーに近付くと、

長い髪の女子が、コインロッカーの前にいる老婆に話しかけた。

「すみません、そこのコインロッカーを使わせて頂きたいのですが。」

突然話しかけられたその老婆は、つぶっていた目を開いて笑顔を向けた。

「あら、ごめんなさい。

 こちらのコインロッカーをお使いになるのよね。ここにいたらお邪魔よね。」

「いえ、そうではないんですけど・・・。」

「あたしたち、お金が増えるコインロッカーを試そうかと思って。」

「あっ、知らない人に言ったらだめだよ。」

「あのおじいさんのことを話さなければ、大丈夫でしょ。」

「今、話しちゃったね。」

「あ、あー・・・。」

その3人がそんなやり取りをしていると、

その老婆が上品に笑った。

「ふふふ。あなた達、お若いのに古い噂話をご存知なのね。」

どっちが先に口を滑らせたか、言い合いをしているふたりを放っておいて、

長い髪の女子が、その老婆と話をする。

「お金が増えるコインロッカーの噂話って、そんなに昔からあったんですか?」

「そうね、私の娘が学生の時には、もうあったかしらね。」

そこに、ツインテールの女子が横槍を入れる。

「それ、おじいさんが犯人だって知ってます?」

「だから、それ内緒だってば!」

おかっぱ頭の女子が非難する。

それを聞いて、その老婆は懐かしそうに話を続ける。

「あなたたち、あのおじいさんのことを知っていたのね。」

「おばあさんは、あのおじいさんのお知り合いなんですか?」

「ええ、そうよ。

 知り合いと言っても、お互いに立ち話をする程度でしたけれどね。」

「あのおじいさん、この辺に住んでるの?」

その質問に、その老婆はため息をつくように応えた。

「ええ、昔はね。

 あのおじいさん、早くに子供さんを失くして、すぐに奥さんにも先立たれて。

 それからは、この辺りで子供の遊び相手をすることが多くなって。

 それで、あんなコインロッカーの遊びを思いついたのね。

 でも、15年くらい前かしら。

 体調を崩されてからは、それも難しくなってしまって。

 それでも、子供たちの遊び相手になろうとして、

 最期はこのコインロッカーの前で、亡くなっていたのよ。」

「亡くなった・・・?」

その3人は、その老婆が何を言っているのか分からなかった。

その老婆は、話を続けた。

「ええ。もう10年になるかしらね。

 今日はあのおじいさんの命日だから、お花をお供えに来たの。」

よく見ると、その老婆の足元には、花が供えられていた。

その老婆は、白髪のおじいさんのことを思い出したのか、

目をつぶって、手を合わせた。

その3人は、顔を見合わせて、話し始めた。

「あのおじいさん、亡くなったって・・・?」

「ええ。それも、10年も前に。」

「もう、あのおじいさんには会えないの?」

「・・・そういうことになるわね。」

「そんな・・・。嫌だよ、そんなの。」

「じゃあ、この前、わたしたちが見たのって・・・」

そこまで話してから、その3人は、お金が増えるコインロッカーを見た。

お金が増えるコインロッカーの402番の扉が、すぐそこにある。

なにかの予感がして、その3人はコインロッカーの402番の扉に手を伸ばした。

あの噂話の手順通りに、402番に鍵はかかっておらず、扉は簡単に開いた。

そのコインロッカーの中には、

子供たちと遊ぶためのものであろう、使い古された古銭や遊び道具、

そして、新しい遊びが書かれた手帳などが、いくつも入れられていたのだった。



終わり。


 理屈で考えられる怪談を作ろうと思って、この話を作りました。

怪談に理屈で対抗しようとして、返って怪談を体験するという話になりました。


お読み頂きありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
なんとも不思議な?話ですね。でも小学校の図書館とかにありそうな話ですね
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