清水香奈子という少女
「どうしよう…、令和2年…2020年って38年後ってこと?」
俺の束の間のブレイクタイムのを邪魔をした目の前にいる口元に手を当てて慌てたようすでブツブツ呟いている少女の名前は清水香奈子というらしい。
顔立ちは幼いながら大人びた表情をしており、整った容姿をしている。美少女という言葉が相応しいだろう。
いまどき珍しい薄いメイクは彼女の顔をよく惹き立たせている。
服は今時誰が着るんだとツッコまれるような白いワンピースで胸元には大きなリボンがついていてスカートはボリュームがあり裾にフリルがついている。
髪もスカートに負けないくらいにボリュームがありなんというかご高齢の方がしている感じのパーマをかけたような髪型だ。
全体的な感想を述べるとしたら古臭いという言葉が合うだろう。
だが言葉遣いや声のトーンが淑やかだ。
これはブレイクタイムを邪魔された俺でも好感が持てる。
このままでは埒があかないため、その古臭い少女に話しかけることにした。
「落ち着け。で、香奈子くんのご両親、もしくはさっき言っていた事務所の名前を教えてくれるか?」
「…マリーミュージックプロダクションです。」
「そうかじゃあ……は!!!!?」
マリーミュージック…プロダクション!!!!?
そこまでデカい大手事務所の名前が出るとは思わずスマホを落としてしまう。
そんな様子をみた彼女は落としたスマホを拾い差し出す。
「あの…貴方のお名前は?」
鈴の音のような、それでいてウィスパーがかった声で声を掛けられると我に返った。
そういえば名前を言っていなかった。
スマホを受け取り、咳ばらいをして胸についている社員証を彼女にみせる。
「俺は只野事務所所属マネージャー、柊木啓太だ。」
「只野…事務所…もしかして芸能事務所の方でしょうか?」
「…ハッッッッ!マリーミュージックプロダクションに比べたら月とスッポンほどの差があるだろうよ!だがな!いつの日か月をも超える宇宙規模の事務所に…ってそういうことじゃない!」
熱弁している俺をきょとんとして小首を傾げ見ている彼女をみては、また我に返り、また咳払いをしてとりあえず大手事務所マリーミュージックプロダクションに連絡を取ることにし事務所のオフィスへと案内するのであった——。
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「はい…、はい…わかりました。申し訳ありません、失礼します。」
事務所のソファに姿勢良く座って待っていた香奈子は電話の終わった俺の後ろから声をかける。
「どうでしたか…?」
「…確かに清水香奈子という人物は所属していたが、その人は30年前の人でいまはもうアイドルを引退しているそうだ」
「…え!い、いまも清水香奈子はいらっしゃるんですか!!!?」
今日一番の大声を出す香奈子、それ同時に駆け寄り詰め寄る。
俺は驚いてしまい、一歩下がり目線を合わせ冷や汗を流す。
「お、落ち着けって…。お前と同姓同名のその清水香奈子さんは20年前に俳優の室井歩と電撃結婚後、芸能界を引退してるって話だ」
「む、室井さんと…!!!!?」
かぁっと赤くなりながら彼女は眉間に皺を寄せる、怒る姿も可愛らしいと思ってしまった。いかんいかん、落ち着け俺——。
わなわな震えながら口元を抑え彼女はソファにゆっくり座る。
「信じられない…まさかあの室井歩と結婚だなんて…」
「…おい、大丈夫か?」
次第に青ざめていく彼女はフッとそのまま気を失い倒れこんでしまう。慌てた俺は、彼女の肩を揺すっているとガチャリと事務所のドアが開く。
「大丈夫か!?おい!!おい!!…お…」
振り返るとそこには腰まで長い赤い髪を手で払いながら腰に手を当てている社長の只野リアーナが立っていた。
「柊木、これは一体どういうことだい?」