荷物
「エントロピーの可逆???なんのこっちゃ!」
あ、いかん!思わず声に出してしまった!
お母さんを見ると、とりあえず今のあたしの大声では、起きた様子は無いみたいだった。
そのまま、お母さんを起こさない様にそっと居間から玄関側に出た。なんだか音を立てるのも気になるから廊下の照明のスイッチも入れないで、居間のドアを開けたまま廊下に出た。
居間からこぼれる光が廊下の一部だけを淡く照らし、あたしの影の部分だけ光を遮っていた。
あたしはというと、、、暗いのはちょっとだけ怖い気もするから、ドアから一歩進んだ所で若干キョロキョロしてしまう。
『あれ?』
、、、視界の左端に何か光ってるのが見えた。
玄関脇に備え付けてある不在時用の宅配ボックスから、荷着を知らせる赤い光が点滅してるのが見えた。
『ありゃ、、何か届いているかな?』
玄関は居間から7mぐらい先にあるので、薄暗い中をその光に向かって進む、、、そして玄関の内側に付いてる宅配ボックスのフタをそっと持ち上げて中を覗いてみた。
宅配ボックス内には青白いライト照明に照らされて、箱が一つ入ってた。
大きさは10センチ×25センチ、厚みは5センチ位の白っぽい箱で宛先は《星川 佳奈子 様》そして《精密機械在中:こわれもの!取扱注意!》と印刷されたシールが貼ってある。
『こ、これは!もしかしてーー!例の!!!』
とりあえず、小脇に抱えてお風呂場に向かった。
多分かなりニヤニヤしてたかも。
先にお風呂の準備を終わらせてから、後でゆっくり確認しよう!あたしは楽しみは後で取っておくタイプなのだ!!そしてお風呂場のドアを開いた!
「わっ!!!」
、、、そこに、お母さんが立っていた。あーーーー!もおおお!びっくりしたー。
薄暗い中を歩いて来て、寝てたと思っていたお母さんがお風呂の脱衣場に居たので凄く驚いたっ!心臓が止まるかと思ったよ!
「あ、、、、ふぅーーーっっお母さん!起きたの?びっくりしたよ」
「佳奈子、あら、何それ?」
あたしはびっくりして荷物を頭の上にバーンと掲げて隠れてしまっていた体勢だった、、、そりゃお母さんの目の前に差し出せば聞かれるよねえw
「えっ?ああ、これ?多分スマホかな?きっとお母さんと同じ新しいタイプだよ。、、、無料のモニターキャンペーンで当選したみたい!、、、ほら、結構スマホ高いしさ、、、無料なら良いかな?って思って、、、でも、夕方当たったから、夜にすぐに届くのって変な話だよね!特急便だったのかなー?エヘヘ」
すると、お母さんは怪訝な表情になった。
「えっ?私と同じスマホ?、、、私のスマホ、全然新しくないし、佳奈子と同じ型の色違いだよ。佳奈子のはピンクで私のは白でしょ?、、、」
「えっ!さっきお母さん、新しいスマホ使っていたじゃん!ことにゃんのドラマ見た後で使っているの見たよ。」
お母さんは右手を額に当てて両目を瞑ってうつむき加減で、、、
「はぁぁぁぁ!それってどんな作戦??、、、というか、明日テストの成績発表あるでしよ!佳奈スケはお風呂入ったらすぐ寝ちゃうから、今言いに来たんだけど、、、明日、学校から帰って来たら、直ぐに成績表印刷して私に見せなさいよね!、、、もし成績が上がっていたら新しいスマホでもタブレットでも買ってあげるけど、、、それに、ことにゃんのドラマは明後日でしょ!夢でも見たの????」
『えっ、、?今日は3月27日の春休み開始日でしよ???』と思いポケットにある自分の使い古しのスマホを出して時間を見てみる。
見慣れたスマホの画面には《2023年3月25日 23:00 》と表示されていた。
いつの間にか足元に黒猫のキュウちゃんがまとわりついていて「にゃーん」と鳴いた。