side ノウゼンカズラ 2
長めです
「妹さん、なんでそんな顔で睨んでくるんだよ? 」
「あ……過去の恨みつらみからつい……」
顔に出ていたらしい。私は表情筋を引き締めた。
「それで、兄さんは接骨木さんに好きな人ができてないか心配なんだよね」
「ああ。だからどいつか分かったらすぐに教えてほしい」
「絶対嫌だよ」
この野郎は自分の気にくわない奴に対してすぐに暴力を振るうクソ野郎なのだ。
好きな人か分かったらその人も今までの被害者たちのようにボコボコにされるだろう。
自分に突っかかってくる不良、モラハラ教師、接骨木さんに対して良くないことを言った/した者などが主な対象だ。
モラハラ教師は良いとしても、不良と喧嘩するのはどこに飛び火するかわからず迷惑だしましてや接骨木さんのことを話しただけで襲われた生徒たちは可哀想でならない。
「俺たち兄妹だろ。助け合おうぜ」
「じゃあそっちは私を助けてくれるわけ? 」
「なにして欲しいんだ? 」
兄は眉を釣り上げ愉快そうに唇を歪めた。
私は少し悩んだ。
なんだかんだコイツは狂人である前に男子生徒である。もしかしたら青桐のことを何か知っているかもしれない。
「……青桐の、好みの女の子とか……」
「アイツのこと好きなのか」
「まあ……」
私は顔を逸らすが、奴がニヤニヤと笑うのが目の端に映った。
「青桐ねえ? ふうん……。
しかしアイツの趣味なんて思い当たらねえな。……あ」
「あ、って何」
「いやそういえばアイツ、石原さとみの切り抜き集めてたなって」
「あんた、石原さとみを知ってたんだ」
「なんでだよ。知ってるよ、可愛いじゃん」
ええ!? こいつ、接骨木さん以外の誰かに対して可愛いという感情を抱いたりするのか!
それともそれだけ石原さとみが可愛いということ? たしかに可愛い。生で見たら気絶するだろう。
「お前だって、石原さとみと里見浩太朗のどちらが可愛いかって言われたら石原さとみだろ? 」
石原さとみの比較対象って里見浩太朗?
あの里見浩太朗? そりゃ悪いが石原さとみだ。
「石原さとみが可愛いっていうのは里見浩太朗よりもってことなのね 」
「ああ」
「……そりゃ、可愛いわな……」
「だから、青桐は石原さとみみたいなのが好きなんじゃねえか? 」
「……里見浩太朗と比べて? 」
「んでだよ。女の中でって話だよ」
こいつとの会話成り立たねー。
だが……この男の言うことを真に受けるなら青桐は石原さとみがタイプということ……?
なら何故私に告白した!? あの時とタイプが変わったんだろうか!?
「石原さとみかー……いや……そんな……ハードル高いよ……」
「だよなあ。そもそも系統違うし」
青桐は面食いになってしまったようだ。
残念だけれど、今すぐ切腹しかねないほど残念だけれど、諦めるしかないのだろうか。
「でも今から髪伸ばして服もフワフワしたのに変えればいけるんじゃねえの」
兄の言葉に、目が飛び出そうになった。
……私が石原さとみになる、ということ?
「む、無理だよ。石原さとみだよ? 天使、いや女神の如き輝きを持つ石原さとみだよ?
私なんかなれるわけないよ」
「大丈夫だ。要はそれっぽく見えりゃいいんだよ。
青桐が遠目で騙されたところを俺が後ろから殴って気絶させる。そしたらそこを捕縛して」
「待て待て待て待て。お前頭おかしいんだよ。
なんで捕縛するんだ。私は青桐に好きになってもらいたいの」
「監禁してりゃそのうち好きになるって」
「犯罪者! 」
私は椅子を思い切り奴に投げつけた。
彼は「落ち着けよ」と言いながら椅子を受け止める。
「監禁しなくていいならもっと簡単だろ。
男は単純だからな、石原さとみのように可愛くなったお前にアプローチかけられたらすぐ好きになるって」
「そうかなあ」
「思わせぶりなこと言ってりゃ良いんだよ。
かっこいいと褒めてみたり彼女の有無を聞いたり青桐になら何されても良いだとか大胆なことを言ってみたり」
「……ほほお」
さすが現役男子高校生。説得力が違う。
「あんたもそういう事言われてクラっときたことあるの? 」
「いや俺は菫以外興味無いから」
「……今のは何を根拠に発言したんだ? 」
「菫に言われたら嬉しいこと」
何言われても嬉しいくせに。
だが、そうか。
石原さとみにならなくても石原さとみのような雰囲気になってモーションかけまくれば、少しは望みが出てくる……?
「わかった。私、石原さとみになる! 」
「ま、頑張れよ」
「手伝ってよ」
「菫の好きな奴聞き出したらな」
殺人幇助など私には出来ない。
「あ、ならお弁当作ってあげるよ。あんたバイト代お弁当代と携帯代に使って菫ワールド建設に貯金してるんでしょ? 夕食の残りからとかで良いならだけど」
「乗った。食べ物なんか消し炭じゃなきゃなんでも良い」
「菫ワールド完成したら私が端から壊すけど。
じゃあ協力してよ? 」
兄が薄い笑みを私に向け頷いた。
協力してくれるらしい。
こうして私は、青桐に好きになってもらうために壮絶な道へと歩みだしたのだ。多分。
*
さて。
石原さとみになりたくても、何したらいいのか全くわからない。
「やっぱりメイクかな」
「さあ。そういうの俺は全くわかんねえからな」
「期待してない」
大事なのは男子高校生の目線だ。
私は洗面所に行き、自分の化粧道具と母親の化粧道具を並べた。それなりの数はある。
組み合わせれば近づくことは可能だろう。
石原さとみの特徴……一番はあの唇だろう。可愛くてちょっと色っぽい、女の私でもドキドキする唇。
それ以外のパーツでいくと、彼女は今流行りの太眉ではない。むしろ細めの眉毛だ。
目は優しげなタレ目。
石原さとみはどちらかといえば和顔のあっさりとした顔立ちだ。私は濃い目の顔立ち。
果たして似せることが出来るのだろうか……。
不安になりながらも、取り敢えずメイクすることにした。
まず、眉毛。
いつも適当にしているが、今回はしっかり眉バサミを使って細くしていく。
アーチの形は近いものがあるのでそこまで手を加えなくても大丈夫そうだ。
それからアイメイク。
素人目にはあっさりして見えるので、出来るだけタレ目に見えるように目尻の下の方を下げるように調整した。……今のところ全く似ていない。
唇のメイクをすれば似るだろう!
薄めのリップカラーのようなので、母親のコーラルピンクのリップをオーバー気味に塗っていく……だが、どう見てもおかしい。唇だけ浮いて見える。
「うわ……」
横から兄の引いた声が聞こえる。
……ダメだ。失敗した。
「妹さんよ、お前は顔が濃いからどう頑張っても似ないと思うぞ」
「……ならどうすれば……」
「男なんか顔見分けらんねえって。服だ服。
あと髪型」
こいつ、男をなんだと思ってるんだ?と思いつつも私は鏡に映る襟足を刈り上げた女を見た。
あのフワフワの髪型の再現はできなさそうだ。
「カツラ被れば? 」
「不自然だよ。なんとか伸ばすしかないね」
亜鉛を食べると伸びるのが早くなると聞いたことがある。
今日から亜鉛生活だ。あさりや牡蠣やチーズを毎日食べるしかない。牡蠣なんか食あたりを起こしそうで怖いが、恋を叶えるためだ。犠牲は省みない。
「そんな妹さんに朗報! なんとエクステを使えば一晩であっという間に髪が伸びるぞ! 」
「でもお高いんでしょう? 」
「それがなんと、近所の床屋だと4000円から!
この4000円ってのが罠だ。恐らく満足のいくものにしようとすればするほど高くなるんだろうな」
兄は冷たく笑うとスマホの画面を見せてきた。
美容院ってなんであんなに値段がわかりにくいんだろう……だからいつも1000円カット行っちゃうんだよなあ……。
「エクステは最終手段で。そんなお金無いし……。
やっぱり亜鉛だよ亜鉛」
「あと残された手段は石原さとみの髪を切りに行く……か……」
「そんな手段あってたまるか!
髪はいいよ。服だね。
明日服買いに行こう」
「は? 俺も? 」
「ずっと言いたかったんだけど、あんたいつも同じ服だよね」
「まさか。3着を着回してる」
「……買った方がいい」
なんか汚いし。
そう伝えると、翌日彼は当たり前の顔をして私の後をついてきた。
*
放課後、石原さとみっぽい服を買った私はすぐさま家に戻りファッションショーを開催した。
楡は面倒そうにこちらを見ている。
ちなみに彼はジーンズとシャツを新調していた。これで4着を着回すことになるだろう。
ワゴンセールでサイズの合わなそうなのを買おうとしていたので私が慌てて止めて、それなりの服を押し付けた。
常々思っていたのだが奴は全くファッションに興味がない。
果たしてそんな奴にアドバイスを貰って大丈夫なんだろうか……一抹の不安を感じながらも私はフワフワのスカート姿を兄に見せた。
「どう? 」
「あー全然似合ってねえ。良いんじゃねえか? 」
「良くないんですけど!? 」
「お前そういうパステルカラー? とか死ぬほど似合わないよなあ……写真撮ってあげようか? 少し現実を見た方がいい」
「なんで買う前に言ってくんないの!? 」
「本気で石原さとみになれると思い上がってるお前が面白くて」
最低だよコイツ。
スカート代5240円払え。
「もうあんたなんかどうでもいい。私1人で石原さとみみたいになる」
そう、この5240円を無駄にしたくない。
私は鏡の前で腰をくねらせポーズを取る。
まるで文化祭のコスプレのように服が馴染まず浮いて見えた。
「まあ頑張れよ。
ただ俺なら似合わないイタい格好してる奴より似合う格好してる奴のが好きだけど」
「でも菫ならどんな格好してても好きなんでしょ? 」
「そりゃそうだ」
話にならない。
私は鏡に向き直る。この似合わないスカートどうするべきだろう。
ひとまず私はVネックのシャツを合わせてみた。なんかこんな格好を石原さとみがしてた気がする。
「ずっと思ってたんだけどよ」
「はあ」
「お前は胸が無いからそういう格好すると胸元ガラ空きって感じがするよな」
確かに。
私も思っていたのだ。胸がガラ空きだなと。
だがそれを他人から指摘されたことはない。指摘することは失礼だと皆知っているからだ。
この男デリカシーがない。だからこそ正直な意見が聞ける、そう思おう。
ピンクのタートルネックのノースリーブワンピース(6780円)に着替えて鏡の前に立つ。
……なんだろう。この違和感。
「肌黒い」
「部活動頑張ってんの! 」
「やっぱり明るい色似合わないよなあ」
クッ……。確かにその通りだ。
部活動の努力の証が、私を石原さとみから遠ざけてしまう。
「どうしたらこのワンピース似合うんだ……」
「メルカリに出しとけ」
「買って3秒で……」
「菊菜さんの持ってる服借りてみたら」
菊菜……つまり私の母のものを借りよとな。
趣味が全く合わないが、サイズは変わらないはずだ。
私たちは母の部屋に侵入しクローゼットを開けた。
母は服を買うのが大好きだ。1人でファッションショーを開けるくらいには持っている。
「……これだけあると探しにくいな」
「頑張れよ」
「石原さとみっぽいの……んー……これとかどうかな? 」
私が手に取ろうとしたのはレモンイエローのかっちりとしたシャツだ。
だが兄が微笑みながら首を振った。例のあの冷たい笑いだ。やめておこう。
「色黒なんだから明るい色はやめておけよ」
「石原さとみはピンクしか着ない」
「そんなの林家パー子しかいねえよ。
お前石原さとみのこと知らないだろ。画像検索して調べとけ」
言われて私は兄の、菫が机に伏せて寝ている画像が待ち受けのスマホを借りた。いつ撮ったんだろう。本当に気持ち悪いからやめた方がいい。
待ち受けをこっそりベネディクト・カンバーバッチに変えておく。
「あ、意外とふわふわの服着てない」
「個性派? なんだな」
「こんな服母さん持ってないよ」
「でもこのシャツ似てないか? 」
兄が見せてきたのは燻んだオレンジ色のボートネックのリブシャツだった。
色しか似てないが、ひとまずこれを借りよう。
「このカーキのスカート良いかも」
「それズボンだろ」
言われて気づいた。今流行りのガウチョパンツってやつじゃないか? もう流行ってない?
ズボンなら動きやすいし良いかもしれない。
早速着替えてみると、兄の反応は先程よりは芳しかった。
「だいぶマシだな」
「いえーい。
でも石原さとみっぽくない」
「あとは整形すればいける」
「お金無いよ。
なんだろう、小物かなあ」
私が辺りを見渡していると「スカーフを巻いてみたらいいんじゃないか」と言って楡は母親のエルメスと書かれた箱の中からスカーフを取り出した。
「迷わずエルメスを渡すとはさすが」
「汚して返してやれ」
「母のこと憎むのやめなって。料理が下手で家事もできず何も働きもしないけど。
しかしこれがエルメスかあ。シルクってことだよね? ポリエステルと何が違うんだろう」
「偽物とか」
私はそれを首に巻いて……だがすぐに外した。
スカーフは嫌いだ。
私の実父は私が7歳の時スカーフで首を吊って自殺した。
ノウゼンカズラ柄のスカーフで。
「外すのか? 今の良かったのに。いかにもおしゃれに気合い入れてますって感じで」
「うーん……ちょっと嫌かな」
兄は不思議そうな顔をしたが何も聞かなかった。
その無関心さがありがたい。
「アクセサリー付けてみようかな」
「菊菜さんのやつ全部ババくさいよな。
あ、待て。良い物がある」
兄が自室に戻るので私はその後をついていった。
奴の部屋の菫コレクションが増えている。
あれだけ阻止していても、何かしらの被害が出てしまうのは何故だろう。
「アルバムがこんなに……」
30冊はあるだろうか。引き出しに収まりきっていない。
背表紙のラベルには「5月」「6月」と月毎に分かれているものと「体育」「寝顔」とシーン毎に分かれているものがあった。気持ち悪すぎて最早何も言うことはない。ただ菫よ、アルバム一冊が出来上がってしまうほどに授業中寝ているのはいかがなものかと思うよ。
後で私が処分するから安心してくれて構わないけれど……。
「ん? なんでこれだけラベル貼ってないの? アルバムの色も違う」
私がその黒いアルバムを手に取ろうとした瞬間、楡の腕がそれを取り上げた。
私が届かないよう腕を伸ばし高く掲げている。
「なんでもねえよ」
「その反応絶対なんでもなくないじゃん。まさか人の道に外れたこと……は既にしてるけど、犯罪行為……も既にしてた。えっと、盗撮以上にマズイものじゃないよね? 」
奴の顔色は変わらない。
だが何も言わないでニコ……と笑う様からしてヤバイものだと察せられた。
「……あんたがいない間に全部燃やしとくね」
「やめろ! よくそんなひどいことが出来るな!? 菫がどうなってもいいのかよ! 」
「どうなってもよくないから燃やすんだよ」
しかしこれ勝手に燃やしたら菫に悪いだろうかと思い、体育と書いてあるアルバムの一冊をめくってみた。
ジャージ姿の彼女がカメラに気付かずに友人と談笑している姿や、器具を片付ける姿などが収められていた。
「可愛い……」
横で楡が吐息と共に呟く。
彼女はモテるタイプではないそうだが、笑った顔や照れた顔はとても可愛らしい。可愛らしいが、だからといって盗撮をして良いってもんじゃない。
「全部燃やしとくからこれで見納めだね」
「悪魔め。これやらないぞ」
楡は黒いアルバムの代わりに、小箱を渡してきた。
黒いアルバムの行方が気になりつつも小箱を受け取る。
中身は疎い私はよく知らないが多分ブランド物のネックレスだった。
「どうしたのこれ」
「親父がかつての恋人たちにあげようとしたアクセサリーだ。
この間結構な数見つけたんだよ。多分菊菜さんにあげようとしたんじゃないか?
親父が思い出す前にメルカリに出そうと思ってるんだが、調べたらあんまり高く売れねえみたいだから欲しいのあったらやるよ」
昔の恋人のために買ったプレゼントを母にあげようとする義父も義父だが、それを勝手に売り払う息子も相当だ。
そしてそれをもらう私も。
「じゃあこれ貰おうかな」
私が手に取ったのはロングネックレスだ。モチーフが大きくかなり個性的なデザイン。
だがそれを付けて鏡の前に立つとどうもしっくりこなかった。
「アクセサリーを身につけさせられてるって感じがする」
「似合わねえなあ。呪いのネックレスってタイトルで出品しとくか」
兄は写真を撮るとあっという間にメルカリに出してしまった。
「何か別の無いかな」
義父の趣味だろうか、繊細なデザインのアクセサリーが多い。
好みは特に無いが、青桐に気付いてもらうために派手なものを付けたかったのだが。
仕方がないので……というか勝手に貰う身で吟味をするなという話なのだが……ターコイズのストーンがポイントの短めのネックレスをしてみた。
こちらはなんとなくしっくり来る。
「これどうかな」
「クソ、値下げ交渉してきやがった。プロフ読めよ……値下げ交渉お断りですって書いてあんだろ」
「兄さん? 」
「何が予約だ! 今買えバーカ! 」
「お兄様」
「ああ!? なんだよ! 」
「メルカリ向いてないよ。落札者そんなんばっかだからね」
兄はスマホをベッドに投げた。
ため息をついて髪をかきあげる。
「……それ、良いんじゃねえの。
他のはヤフオクで売り払う」
「そうだね。メルカリやめてヤフオクにしな」
玄関の姿見で今の私の格好を見た。
鏡に映る私は、石原さとみには似ていないがかなりイメージが変わった。
今までの運動一筋です! という雰囲気が無くなりオシャレに目覚めた感がある。
青桐、私のイメチェンに気付いてくれるかな……。
「あの変なスカート買ってきたときはどうなるかと思ったが、だいぶ良くなった……んじゃねえか? 」
「全身親のだけどね」
私の言葉に兄がまた冷たく笑った。
「良いんだよ。俺たちは被害者なんだから」
そうだね、と私も笑う。
私たちは名前で呼び合わない。
凌霄花も無花果も身勝手な親にかけられた呪いの名前だ。
誰も彼もに笑われる恥ずかしい名前だ。
それだけじゃない。
私の実父は、母の浮気を察して浮気相手から貰ったノウゼンカズラ柄のスカーフで首を吊った。
母はそのスカーフがお気に入りだった。だから私にその名を付けた。
父は私を浮気相手との子供だと思ったのだ。8年間騙されていたと遺書に書いてあった。
楡の実母はクリスチャンだったそうだ。
そんな人がなぜ、彼にイチジクと名付けたのか私にはわからない。
そして何故彼が父親と一緒に暮らしているのかも。
「……迷惑料だね。この服たちは」
「他の服売って自分の好きな服買っても良い。最高じゃねえか」
「うん」
「いずれアイツらの身ぐるみ剥がして東京湾に流してやろうと思ってる」
「手伝うよ。陸上部で鍛えてるからね」
「助かる。
それから菫を監、同棲しようと思うんだけど」
「監禁したらお前も東京湾に流してやるからな」
まあその前にイメチェンの手伝いをしてくれたお礼のお弁当を作ってやるか。東京湾に沈めるのはそれからだ。