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あれから数日が経った。
今はもう深雪の姿はなく、暫く続いていた騒動も治まり、平和な時が戻りつつある。
秘書課には1ヶ月半前と変わりない日常が訪れ、華江を除いた3人の秘書達は、それぞれ請け負った仕事に精を出していた。
そこへドアが叩かれ、新道幸一が顔を出した。
「社長って、いるか?」
近くにいた瑞穂は、顔を上げ、にこやかに返す。
「多分部屋にいますよ。今は、直接行っても問題ないんじゃないかな」
深雪の旦那は新道幸一だ。
そうわかった今でも、瑞穂達の態度はあまり変わらない。
そしてもちろん、新道の振る舞いも。
「バカだな。いきなり社長室に飛び込んで、不機嫌だったら最悪だろ。だからまず、下調べに来てんだよ」
瑞穂は苦笑いを浮かべながらも、社長の機嫌は普通ですよ、と伝えた。
「わかった。サンキュー」
そう言い、新道は左手でドアを閉める。
深雪が辞めて以来、その薬指には指輪がはめられている。
隣の社長室のドアがノックされる音が聞こえた。
「新道さんって社長と友達なんだってさ。噂では学生時代かららしいよ」
「へぇ。優秀なのねぇ」
呟き、さゆりはどこか遠い目をしている。
他愛もない談笑をしていると、秘書室側のドアが開き、社長が入って来た。
「今から少し出る。サボるなよ」
「さ、サボりませんよ」
自信たっぷりな笑みに、瑞穂達も引き吊った笑みで返す。
あの日以来、社長も少し秘書達に冗談を言ったりするようになってきた。
上司は上司──しかも相手は社長だからと割りきってきたが、やはりそれが嬉しくもある。
「そうだ。これを読んでみろ。凄く勉強になる事が書いてあるぞ」
バサリとデスクに置き、足早に去っていく。
それは業界では有名なビジネス雑誌だった。
優は手を伸ばして受け取り、付箋のついたページを開く。
そこには近藤社長の写真が載っており、何やらインタビューを受けた様だ。
「あはは、わざわざ付箋までしてるよ。よっぽど嬉しかったんだろうね」
内容はよくわからないが、若手社長として絶賛されているらしかった。
「わざわざ私達に見せるなんて、可愛い所ありますよね」
「でもこうやって写真で見ると、なかなか男前じゃない?今なら、華江さんの気持ちわかるわ」
ピシッとしたスーツに身を包み、微笑む近藤社長の【写真】を見て、さゆりはうっとりしながら呟く。
「確かに写真は話さないからね」
「そうそう。見てるだけなら良いですよね」
近々、深雪の穴を埋めるべく、秘書の中途採用を募集する予定だ。
恐らくこれを見た若い女達が、たくさん応募してくるだろう。
すっかりいつもペースに戻り、盛り上がっていると、ドアが控えめにノックされた。




