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3

「おはようございます」


4人は慌てて立ち上がり、礼儀正しく頭を下げる。


それでも上目遣いで周囲を確認する。


もしかしたら社長が気をきかせ、深雪と一緒に出社したのではないかと思ったから。


だがそこに彼女の姿はない。


「あぁ、おはよう」


彼の口から初めて挨拶を返された。


少し間が空き、驚いて顔を上げる。


「なんだ。俺の挨拶が不満か」


社長は今まで、どんなに機嫌が良さそうな時も決して挨拶を返さない男だった。


初めは不満に思ったが、今はもう慣れてしまった。


だからこそ彼の口から出た4文字の言葉を聞いた瞬間、意味を把握するために間が空いてしまったのだが。


「い、いえ。まさか!」


瑞穂は慌てて両手を振り、否定する。


社長も元々本気ではなかったらしく、それ以上突っ込まれる事はなかった。


「昨日は大変だったらしいな。新道から聞いた」


「新道さんからですか?」


何故広告課の新道が社長と関わり合いがあるのか。


優とさゆり、そして瑞穂は意外そうに目を丸くする。


「なんでも通報したのもアイツだそうだ。陽子。花子にもそうだが、2人に会ったらきちんと礼を言えよ」


そう言うと、社長室に消えて行った。


社長が部屋に入った瞬間、まるでタイミングを見計らっていたかの様にドアが開いた。


4人は視線を変え、そこに居た人物を見て目を丸くした。


「おはようございます」


「深雪ちゃん!!」


声を上げ、駆け寄る。


「大丈夫?腕、怪我しただろ?」


「はい、大丈夫です。軽い怪我ですから」


ニコリと笑い、包帯を巻いた左手に軽く手を添える。


全員揃ってくれていて良かった。


深雪は心の中で、安堵した。


「深雪ちゃん、ごめんね!私のせいであんな事っ……私、深雪ちゃんが来なくなったらどうしようかって、すごく心配したの!!」


泣きながら、瑞穂がぎゅっと抱き着いてくる。


その瞬間、深雪の表情が僅かに曇った。


「実は今日、その事でお伺いしたんです。皆様には本当に申し訳ないと思うんですけど……私、退職する事にしました」


「え……!?」


室内の空気が張り詰める。居心地の悪い、嫌な雰囲気。


だが逃げられない。


「どうして!?別に辞めなくてもいいじゃない!だってあれは正当防衛でしょ!」


「そうよ。一昨日の事は私達が悪かったわ。あんな風に疑ってかかるなんて、私……どうかしてたのよ。だから辞めるだなんて言わないで!」


口々に言う彼女達の目には涙が浮かんでいた。


それにつられ、深雪も表情を歪める。


しかし、ここで決意を変えるわけにはいかない。


「ありがとうございます。だけどもう、決めたんです。今まで本当に楽しかった」


深雪の顔はもう、固い決心をした人間そのものだった。


「今日は退職願を出しに来たんです。あと、皆様にご挨拶をと思って。私、色々隠している事があったんです。だから最後に、それをお話します」


正直まだ、戸惑っていた。


それ程深雪が隠しているものは大きく、他人には理解し難いものだから。


深く息を吐いて顔を上げる。


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