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「深雪ちゃん、大丈夫だったかな……」
いつもより早めに出社してきた4人は、悲し気な表情で、空いている深雪の席に視線をやる。
あれから何度かメールをしようと思ったのだが、タイミングを逃してしまったのだ。
そして結局、何も連絡がとれないまま出社時間を迎えてしまった。
瑞穂はロビーに足を踏み入れた瞬間、裏口から入らなかった事を僅かに後悔した。
人質にされた社員、というよりは『深雪に助けられた社員』または『深雪の友人』として注目の的になってしまい、ここまで辿り着くのに相当苦労してしまった。
彼女が人助けをしたというのはわかっていたが、そのやり方が奇抜過ぎた。
更には彼女のキャラクターとのギャップも手伝い、良くも悪くも社内は深雪の話で持ちきりだった。
「それにしても彼女、凄かったわね。なんて言うか、カタギじゃない雰囲気って言うの?」
同じく『同僚』として巻き込まれたさゆりは、崩れた髪型を直しながら笑う。
しかしそれは侮蔑の意味を含んだものではない。
「確かにあれはびっくりしたけどさ。カタギだろうがなんだろうが、この際別にいいんじゃないか?あの子は瑞穂を守るために、身代わりになったんだよ。そんな事、そう簡単にできるもんじゃない」
しかも銃を持った相手に。
そう言う優の表情もやはり苦笑いだ。
恐らく、どんな顔で言えばいいのかわからないのだろう。
しかしこの2人だけは違っていた。
「私、深雪ちゃんに酷い事した。避けちゃったし。友達なのに、傷付けちゃった……。ヤクザの妻だろうが愛人だろうが関係ないのに」
瑞穂は顔を覆って泣き出す。
華江は何か言いたげに口を開いたが、結局一言も発する事は無かった。
時計は午前9時を指している。
今日はまだ、社長の姿も深雪の姿もない。
しかしだからといって、何もしないわけにはいかず、戸惑いながらも席に着く。が、結局は何も手につかず、ただ仕事をするフリになってしまう。
少しし、ドアが開いて近藤社長が姿を現した。




