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深雪はいわゆる、ネグレクトの家庭で育った。
母親は物心がつく前に離婚して家を出、親権を放棄したために父親に引き取られた。
住んでいたのは、虫や水漏れは当たり前の古い2階建てボロアパートだ。
単身者用の1DKに、無職で生活保護を受けている名ばかりの父親と2人暮らし。
父親は望んで深雪を引き取ったわけではないらしく、娘としては愚か、子供として扱われる事さえなかった。
まだ幼い深雪はあるがままにそれを受け入れるしかなかった。
娘として扱われない深雪は、暫く自分の性別についての認識がなかった。
クラスメイトの女の子は皆、服装や持ち物、髪型などを気にし、全般的にピンクや赤の色が目立っている。
お母さんの手作りの鞄を持つ子や、フリルのついたワンピースを着ている子。
3つ編みをし、チェックのリボンで止めている子。
皆それなりに『女の子』を楽しんでいる。
だが深雪には、そんな自分を可愛らしく着飾らせてくれる人はいなかった。
父親には殴られる事もなく、常に無関心だった。
幼稚園や保育園に等行かせて貰える筈もなく、義務教育すら危うかった。
市の口うるささに耐え兼ね、ギリギリになって小学校の手続きを済ませた程だ。
家に帰れば給食費や備品の費用でよく愚痴を言われた。
幼心に、うちは貧乏なんだと感じていた。
服は近所に住んでいた、3つ上の幼なじみのお下がりを貰っていた。
その幼なじみと言うのがかなりヤンチャな男だった。となれば必然的に男服が与えられ、深雪はただそれを受け入れるしかなかった。
ズボンを履けばサッカーをしたくなる。
ヨレヨレのTシャツを着ていれば、どろだらけになって遊ぶ事も気にならなかった。
もともと体を動かすのが好きだったせいか、女でいる事よりも、男でいる事の方が自然だと感じていたのだ。
いつの間にか深雪は、自分が女である事を忘れた。
低学年までは、まだそれで良かった。
高学年になって、もうすっかり男女の区別をされるようになり、深雪の生活は些かややこしい事になった。




