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車を走らせている間、互いに一言も話す事はなかった。
やっとマンションに着き、深雪は力なくソファーに座る。
コウもその隣に腰を下ろし、心配そうに顔色を窺う。
「大丈夫?何か食べようか?」
「ううん。平気」
小さく首を振り、答える。
すると、そっと体を抱き寄せられた。
深雪はそのまま身を任せ、我慢できずに嗚咽を漏らした。
「ごめん、なさい……ごめんなさい」
ワイシャツを強く握り、繰り返す。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ?」
深雪は何も悪くない。と言いながら、コウは乱れた髪を優しく撫で、微笑む。
「あなたに、迷惑をかけてしまったわ。私が、あんな事したから」
過去の自分は、本当に酷い人間だった。
毎日誰かを傷つけ、それを喜んでいた。
もう2度とあんな人間にはなりたくない。
結婚を決意した時、そう決めたのだ。
だからこそ深雪は、より女らしく努め、振る舞ってきた。
いつも穏やかな心でいられる様に。
普通の女の子の様に、最愛の人の側で幸せそうに笑い、友達に囲まれる生活を得られる様に。
しかし今回の事が、全てを台無しにしてしまった。
そしてそれは同時に、何よりも大切なコウすらも傷付けてしまったのだ。
「ごめんなさい……。私みたいな女が、あなたの妻で」
何度謝っても謝りきれない。涙が溢れ、流れ落ちる。
「何馬鹿な事言ってるんだよ」
頭上から、いつもの優しい声がした。
「深雪と結婚したいって言ったのは俺だよ。なのに、お前が謝るなんておかしい」
「でも……」
「深雪は悪くないよ」
抱き寄せ、子供を慰めるように背中を撫でる。
「お前は会社や友達を守ったんだ。だから謝るな。明日、一緒に行こう。みんなにちゃんと説明すれば大丈夫だよ」
しかし深雪は頑なに首を振る。
「無理よ。みんな、凄い顔で見ていた。私みたいな人間となんて、一緒にいてくれない。きっとまた、皆に迷惑かけちゃうもの」
せっかく掴みかけた、夢に見た生活。
それを手離すのは確かに寂しくて悲しい。
しかし仲間の事を思えばこそ、このまま退職するしかないと思った。
「確かに、何もかもが前の様には無理かもしれないね。だけど決めつけないで。今夜ゆっくり考えてごらん」
深雪が決めた事なら、俺は何も言わないよ。
その言葉に、一気に涙が溢れ、声を上げて泣いた。




