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「こいつは驚いたな。お前、本当に坊主か?」
初老の刑事は、気まずそうにしている深雪をマジマジと見つめ、向かい側に腰を下ろす。
「すっかり変わっちまって。道理で捕まらないわけだ。お前一体いつ女になった?」
皮肉をたっぷり含んだ言葉を投げ掛けられ、深雪は眉を寄せて息を吐く。
「私は昔から女です」
「ハハハ。性別の事を言ってるんじゃない。まぁ、なんだ。立派になったな」
ポンと肩を叩かれ、チラリと視線を合わせる。
彼の名は大木哲。昔、よく世話になっていた少年課の刑事だ。
以前なら、悪態の一つも吐いただろう。しかし今はそんな事はできない。
「もう、昔の私じゃないんです。もういい加減帰して貰えないかしら。家族が待ってるので」
目を細めて言い放つ。
それをどう勘違いしたのか、大木は声を上げて笑った。
「あっははは!その生意気な態度は相変わらずだな。あの親父さんと仲直りできたのか」
「親父?そんな奴、私にはいません」
眉を寄せ、忌々しそうに言う。
あんなダメ人間は、もう何年も前に絶縁した。
正直、大木に言われるまで忘れていた程だ。
「なら母親と住んでいるのか?」
「母親?」
的外れな質問ばかりされ、軽く鼻で笑い飛ばす。
母親なんて記憶にすらない。
そんな者は、生まれた頃からいないのだ。
「あの女こそ、今頃どこで何をしているんだか、わかったものじゃない。私結婚しているの。旦那が家で待ってるわ。だから早く帰して下さい」
「なんだって?結婚?」
大木は更に目を丸くする。
深雪は心の中で、喧嘩売ってんのかよと呟いた。




