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「うわぁぁぁぁ!!」
「やめてぇっ!」
ほぼ同時に瑞穂が叫ぶ。
しかし銃声は響かなかった。
人差し指は、間違いなく引き金にかけられている。だが、引く事が出来ない。
目の前には恐ろしい顔をした女の顔があり、その手はガッチリと遊底を握り締めていた。
何度引き金を引こうとしても、スライドできない為に発砲できない。それほど強く掴まれている。
「扱いも知らないクセに、使ってんじゃねぇよ」
近付いた顔に、反射的に身を退く。
圧倒されているうちに、いとも簡単に銃を奪われ、遠くに放り投げ捨てられてしまった。
黒いオートマチックの拳銃が、重い音を立てて床を滑っていく。
「こ、この野郎ッッ」
今まで黙って見ていた勝巳がハッと我に返ったように叫び、ナイフを構えて襲いかかる。
しかし女はそれをかわし、バランスを崩した肩を掴んで腹に膝蹴りを入れた。
態勢を整え、間髪を入れず頭突きをして強烈な右パンチを食らわせる。
勝己の口から、白い歯と血が飛び出し、悲鳴をあげる間もなくその場に倒れた。
まさに一瞬の出来事だった。
この身のこなしは普通じゃない。ケンカ慣れしている人間の動きだ。
脳が必死に危険信号を送ってくる。
だが優也も、伊達に場数を踏んでいるわけではない。
即座に反撃しようと、意識の無い相方からナイフを抜き取り、振り下ろす。
しかしそれは、顔を庇って振り上げた黒いスーツに包まれた細い腕に突き刺さった。
周囲のギャラリーが息を飲んだ。
「……!!」
人の肉を刺す鈍い感触が手に伝わり、思わず柄を離してしまう。
腕にナイフが刺さったというのに、女は一切顔色を変えない。
「な……なんだよ、お前」
怯んでしまった。
その一瞬の隙を突かれ、硬い拳が頬に叩き込まれた。
「クソッ!」
悪態と共に血を吐き出し、顔を殴り返す。
骨と骨がぶつかり合う鈍い音が鳴る。
アクション映画のワンシーンとは違う、生のケンカの光景に、周りで見ていた女子社員はか細い悲鳴を漏らした。




