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「動くんじゃねぇぞ!!」
そこには案の定、昨日の2人がいた。
しかし彼の腕の中にいる人物を見た瞬間、目を疑った。
「サツを呼んでみろ。この女をブッ殺すからな!!」
「瑞穂さん!!」
思わずそう叫んでいた。
瑞穂は優也に拳銃を突き付けられ、足を震わせながら泣いている。
周りに男はたくさんいるのに、誰1人として助けようとする者はいない。
深雪は無意識に軽く舌打ちをし、2人を睨み付ける。
ここでは目立ちすぎる。こんな事をしたら、間違いなく二度と会社には来られなくなるだろう。
しかし、瑞穂を助けられるのは自分しかいない。なによりこれは、自分が撒いた種なのだから。
深雪は意を決すると、誰よりも大きな声を上げた。
「彼女を離して」
ロビー全体に声が響き渡る。周囲の視線がこちらに注がれる。
「またテメェか。今日はお前に用はねぇんだよ。社長を出せ!社長を!!」
優也はこちらを見ると吐き捨てる様に言い、瑞穂のこめかみに銃口を押し当てる。
あれは玩具ではない。本物だ。
本物を見た事はないが、直感的にそう思った。
「社長はいないわ。そんな事しても、無駄よ。わからないの?こんな所でバカな真似をしても、すぐに警察が──」
「うるせぇ!だったら今すぐ呼んで来やがれ!!マジで殺すからな!!」
やはり説得に応じる様な相手ではない。
どうすればいいのか。
唇を噛みながら、必死に考える。
せめて人気がなければなんとかなるのに。
何も出来ない悔しさで、体が震えた。
「悪いな。アンタに恨みはないんだよ。頼むから気絶だけはすんなよ?」
勝巳は手に持っているナイフを頬に当て、耳元で囁く。
瑞穂は今にも倒れてしまいそうな程、恐怖で震えている。
これ以上、友達を危険な目に合わせたくない。
例え自分がどんな目に合っても、彼女を助けたい。
深雪は覚悟を決め、ゆっくり歩み寄た。
「こっちに来るんじやねぇ!!」
銃口が向けられる。しかし、全く恐怖は感じなかった。
「彼女を離して。私が人質になるわ。その方があなた達も都合がいいでしょう」
「なんだって?」
「深雪ちゃん!!」
瑞穂の声と勝巳の声が重なった。
もう、逃げられない。
自分のせいで、友人の身に危険が迫っているのだから。
両手を上げ、確実に距離を縮めていく。
「お金が欲しいのでしょう?なら私を人質にすればいいわ。だから、彼女を離して」
暫く嫌な静寂が広がる。が、優也は何か策を思い付いたのか、ニヤリと笑った。
「まぁいいか。こっちに来い」
真っ直ぐ相手の目を見つめ、近付く。張り詰めた空気が肌に突き刺さる。
「バカな女だぜ!!」
優也は深雪の腕を掴んで引き寄せると、瑞穂を突き飛ばした。
泣きながら、這うように逃げて行き、近くにいた男に保護されたのを見て、ほっと安堵した。
しかしここで終わりじゃない。深雪が本当にしなければならないのは、これからだ。
「どうやらアンタと俺は、縁があるみてぇだな。このまま人質として、たっぷり可愛がってやろうか」
ねっとりとした舌が耳を這い、息がかかる。
鳥肌が立つ感覚に、僅かに眉を寄せる。
しっかりと拳を握り締め、横目で睨んだ。




