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いつもより少し遅めに家を出た深雪は、通勤ラッシュから外れた人の疎らな電車に乗っていた。
リズミカルに体を揺られ、浮かない表情で外を見つめる。
今日はあの話をしなければならない。
入社して1ヶ月半。こんなに早く、話す羽目になるとは思っていなかった。
(コウは大丈夫だって行っていたけど……)
正直不安だった。
みんなに本当の事を伝えたとして、果たして今まで通りに働いていけるか。
もしかしたら、退社も覚悟しなければならない。
膝の上で拳を作り、深呼吸を繰り返す。
目的駅に停車し、ドアが開いた。
「よし」
こんな場所で悩んでいても仕方ない。
気合いを入れ直すと、しっかりとした足取りで会社へ向かった。
社内に入ると、皆の視線が深雪に降り注ぐ。
人の口に戸は立てられない。恐らくさゆりか丙千里が話したのだろう。
彼女達は初めから深雪を疑いの目で見ていた。が、責める気にはならなかった。
周りの冷たい目とヒソヒソ声に堪え、階段を使って10階に上がる。
さすがにドアの前では一度戸惑われたが、小さく息を吐いて開けた。
「おはようございます」
既に皆出社しており、こちらを見てピタリと止まる。
「おはよう」
「おはよう……」
返事が返ってきたのは瑞穂と優だけだった。
華江も昨日の話を聞いたのか、目を反らしている。
しかし深雪は構わずにっこり笑い、気にする様子を見せずに席に着いた。
それから終業時間まで、誰とも会話をする事がなかった。
4人とも目を合わそうとせず、無言の拒否のオーラを出しているのが感じ取れた。
そんな気まずい雰囲気をなんとか堪え、勤務時間が終わる。
話すなら今しかない。
意を決して立ち上がった時、瑞穂の姿が無いのに気付いた。
「あの、瑞穂さんは?」
「多分ロビー。受付に書類を届けに行くって言ってたから」
顔を上げないまま優が言う。
「そうですか……」
全員が揃わなければ話ができない。
彼女が来るまで待とうと、腰を下ろした時だった。
「おい!なんかヤバイぞ!」
「た、大変っ!」
外からざわめきが聞こえ、何事かと立ち上がって廊下に出る。
あいにくこのフロアには、秘書課と社長室しかない。
だが、下の階からざわめきが起きているのはわかった。
階段を下りて周囲を見回すと、そこに柏木がいるのに気付いて声をかける。
「一体何の騒ぎですか?」
「あ、あぁ……アンタか」
あの日以来、2人はまともに会話する機会がなかった。柏木は少し気まずそうに目をそらす。
「よくわかんねぇけど、ロビーでなんかあったみたいだぜ。話では、2人組のチンピラかなんかが暴れてるらしい」
「え……!?」
それを聞き、深雪は血相を変えてロビーに向かった。
なんだか妙な胸騒ぎがする。
下に行けば行く程それは強くなり、暑くもないのに汗が浮かんだ。
だんだんとざわめきが大きくなる。
やっとの事で1階に辿り着く。
そこには人集りができており、ざわざわと騒がしかった。
人混みをかきわけ、中心に向かう。




