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帰宅した深雪は、ダイニングに肘をつき、忙しない様子で時計を見つめていた。
午後10時。そろそろコウが帰って来る時間だ。
あの後、秘書課に戻った深雪は、皆に信じて貰おうと弁解した。
自分はヤクザには全く関係はないこと。ましてや、愛人等ではないと。
しかし彼女達を信じさせるには、何より旦那──コウの素性を明らかにしなければならなかった。
テーブルの上には何時間も前から夕食が出来上がっており、すでに冷めかけている。
トントンと指先でテーブルを叩き、溜め息を繰り返す。
その時鍵が開く音がし、急いで玄関に向かった。
「お、おかえりなさい」
「ただいま、仕事がなかなか終わらなくて遅くなった」
そこにはいつもの顔をしたコウが立っていた。
鞄を差し出され、恐る恐る受け取る。
深雪の浮かない表情を見て、コウは小さく微笑む。
「今着替えて来るから、話はそれからでいいか?」
「え、えぇ」
強張った表情で頷き後について行く。
ソファーに座り、ソワソワしながらコウが戻るのを待った。
「今日の事だろ?」
隣に座ると同時に問われ、小さく頷く。
「私……考えたの。やっぱり言う事にするわ」
そう言うと、コウは目を細め「そうだね」と言った。
予想していた答えだったが、否定されなかったのが嬉しくなり、涙が込み上げてきた。
「ごめんなさい……。迷惑かけて」
「良いんだよ。深雪が泣いてる方が辛いから。それに、みんなも受け入れてくれるよ」
「ありがとう」
抱き着き、目を閉じて涙を流す。
コウは軽く髪に口付け、大丈夫だよ、と囁いてくれた。
本当に大丈夫だろうか。
その言葉が意味合いを変えて頭の中を廻る。
正直、確信もなければ自信もない。
しかし残された選択肢は1つしかないのだ。
明日、2人の事を皆に話そう。
コウの胸に頭を預けながら、再度そう決心した。




