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「が、ぁ……や、め……!!」
顔に血液が溜まり、真っ赤になっていく。
だんだんと意識が朦朧としていき、死を直感した。
「ばーか。殺すわけねぇだろ」
「はぁっ……!げほっげほっ!!」
瞼が下がりかけた瞬間、地面に放り投げられ、優也は肺一杯に空気を吸い込んで喘ぐ。
男はそのまま勝巳に歩み寄ると、間髪を入れず頬に硬い拳を叩き付けた。
何の態勢も整えていなかった所を殴られ、不様に地面を転がって行く。
「いいか?これは警告だからな。次姿を見せたら殺す」
「が、はっ……!!」
無防備な腹に、硬い革靴の先が何度も埋め込まれる。
そうして一方的に殴り付けると、男は満足したかの様に深い息を吐いた。
「あぁ、これは返して貰う。会社の金だ」
起き上がろうとする優也の脇腹を強く蹴ると、2人のポケットから5枚の万札を引き抜いて去って行った。
「畜生……あの野郎!!」
男が立ち去った先を睨みながら、フラフラと立ち上がる。
体が悲鳴を上げているが、それすらも感じない程にキレていた。
「あの野郎……殺す!マジでブッ殺してやる!!」
唸る様に呟き、口元を拭う。
一瞬にして考えを切り替えた。
あの近藤という女を使うのは止めだ。金等どうでもいい。あの会社を潰す。
優也は怒りに拳を震わせ、ふらふらと体を揺らしながら、なんとか立ち上がった。
とたんにどうしようもない嘔吐感が込み上げ、血混じりの胃液を吐き出す。
無意識に手に握っていたビラを引き裂き、意識を取り戻した勝巳に向かい、呟く。
「おい。銃、手に入れて来い」
「何丁だ?」
いくらなんでも、ただのチンピラに銃が回ってくる程、日本は甘くない。が、勝巳はなんて事もない、慣れた口調で呟いた。
彼は度胸に欠ける男だが、実はしっかりした筋に通じている。
だからこそ優也は、ずっと手を組んできたのだ。
「1つでいい。その代わり、軽いやつだ」
手に入れたとしても、扱えなければ意味がない。
優也は本気だった。
本気で、あの会社を潰そうと強く決めたのだ。




