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「なんだよテメェ」
男は黒いスーツ姿に鞄を手にしたまま、ゆっくり歩み寄って来る。
どう見てもこれは、ただの仕事帰りのサラリーマンではない。
優也は気付かれないように、ポケットに忍ばせてある物を握る。
「おいおい、2対1だぜ?死にたくなきゃ消えな」
素早くバタフライナイフを取り出し、威嚇の為に向ける。
その時街灯に明かりが灯り、キラリとナイフが光った。と同時に男の顔が露になり、2人は目を疑った。
「な……!なんでテメェがここにいるんだよ!?」
男は不気味な笑みを浮かべると、鞄を置き、ネクタイを緩める。
それは正しく『何か』をしようとする準備だ。
「お前等が何を企んでんのかは知らねぇけど、これ以上俺等の周りをウロチョロすんな。目障りだ」
「ぐっ……!!」
いつの間にか優也は胸ぐらを掴まれ、引き寄せられていた。
狂ったように爛々と光る瞳が間近に迫り、思わず生唾を飲み込む。
助けなければならない。
頭ではわかっているのだが、勝巳は動けなかった。
「や、やめろ……!離せ!!」
相手は素手だ。こちらはナイフを持っている。
だが何故か、動けない。
男は優也の目に恐怖の色を見つけると、楽し気に舌舐めずりをする。
「騒ぐな」
低い声が夜の公園に不気味に響く。
周囲に人はいない。
仮にいたとしても、この都会には助けに入る人間等いないだろう。
「ふ、ふざけんじゃねぇ!!」
やっとの事で声を出し、ナイフを手にした右手を振り上げる。
しかし尖端が届く前に、強く手首を掴まれ、叩き落とされてしまった。
「ナイフなんて使わなくても、人は殺せるんだぜ」
同時に喉仏を強く掴まれ、目玉が飛び出るような圧力を感じた。
咳をしたいのだが空気を吸い込む事も吐き出す事もできず、目に涙を溜めてもがく。
首を締めている腕に両手をかけるが、びくともしない。




