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「マジでやるのか?」
少し強張った表情で、勝巳はポツリと呟いた。
辺りは既に薄暗く、本来は子連れの家族か老夫婦向けに作られただろう公園も、陽が落ちるにつれて決して健全ではない用途で利用される。ベンチに座る彼らも、例外ではない。
「当たり前だ。せっかくイイネタが手に入ったんだからよ」
優也は満足そうな顔で茶封筒から金を出す。
薄くもなく厚くもない安物のそれは、ごく平凡に生きている人間ならば、こんな場所で手にしている事がない金額だ。
人差し指を舐めながら枚数を数え、口端を吊り上げた。
「見ろよ。あんな紙切れで10万だぜ。大企業ってのはスキャンダルに弱いからな。ヤクザと社長のオンナなんつったら、すげぇ金になるぜ」
そう言う彼の手元には、デキの悪いビラが握られている。
ついさっき、ここに寄る途中に近くのコンビニで大量にコピーしたものだ。
「明日の朝早く、これをバラまいてやんだよ。まだネタを持ってるって言やぁ、金出すだろ」
妙に自信満々な笑みに、些か不安気だった勝巳もつられて笑った。
「ハハハ。本当にお前は悪知恵だけは働く奴だわ」
勝巳は分け前の半分を受け取り、ポケットに捩じ込む。
たかだか数百円足らずの出費で金を得る事が出来た。
人の欲望は尽きる事はない。
更に上へ、上へと求めてしまう。
2人の意見が一致するのに、時間はかからなかった。
「じゃあ取り敢えず、飲みにでも行くか」
「あぁ。明日にはまた大金だからな」
今度はいくら手に入るだろうか。
20万──いや、100万も夢ではないかもしれない。
所詮は泡銭。
景気づけに歌舞伎町にでも繰り出そうと立ち上がり、歩きかけた時だった。
目の前に男が立っているのに気付いた。
その殺気を帯びた雰囲気に2人は眉を寄せる。




