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「ごめんなさい。遅くなりました」


あれからダッシュで帰り、なんとかギリギリ間に合った。


息を切らせながら課に飛び込む。


しかし室内は、出掛けた時となんら変わりない風景だった。


「おかえり。まだ社長もキャリアさんも戻って来てないから大丈夫だよ」


日向ぼっこをしながら、瑞穂は呑気に笑う。


よく見ると、優もさゆりも各々好きな事をしており、とてもじゃないが仕事をしているとは言い難い。


「まだ帰って来てないんですか?」


確か出掛けたのは9時頃の筈だ。


さすがにもう帰って来ていると思っていた。


ギリギリに戻って来た深雪にとっては好都合なのだが。


「そういえばキャリアさんって、社長を狙っている感じがするわよねぇ」


パソコンのキーを叩きながら、さゆりが藪から棒に言う。その言葉に深雪はピクリと反応する。


「女の勘なんだけれど。ほら、キャリアさんってなんだかんだ言って社長を庇うし、未だに一緒に飲みに行けないって愚痴ってたもの。社長の何がいいかわからないけれど」


普段彼女はあまり多くは語らないが、恋愛沙汰に関しては誰よりも毒舌かもしれない。


「私も社長はちょっとって感じですねぇ。怖いから」


「私も社長はあまり好きじゃないね。威圧的だし」


さゆりに次ぐように、いつの間にか3人は、社長の素性について盛り上がり始めた。


しかし深雪は眉を寄せ、つい先日、華江と話した時の事を思い返していた。


(そういえば、社長の事気にしていたわね……。だからなのね)


あの時は、なぜこんなに社長を気にするのかわからなかった。が、好きなのだと言われれば納得できる。


「ただいま。少し遅くなったわね」


するとその時、タイミング良くドアが開き、華江が戻って来た。


さゆり達は慌てて話を止め、仕事をしていたフリをする。


「お疲れ様です。随分長かったですね」


「え、えぇ。まぁね」


深雪が声をかけると、華江らしくない弱々しい笑みを浮かべた。


「もうすぐ社長もお戻りになるわよ」


「はい」


3人は短く返事を返し、今の話を聞かれていないだろうかとアイコンタクトで会話する。


華江は終始浮かない顔で、更には溜め息を吐きながら椅子に座る。


「何かあったんですか?」


心配になり、そっと声をかける。


しかし華江は、ハッと我に返った様に首を振った。


「な、なんでもないわ。気にしないで」


気にするなと言われても、あんな表情を見せられれば嫌でも気になってしまう。


「わかりました」


まさか社長と何かあったのだろうか。


気にはなるが、それ以上はとてもじゃないが声をかける事ができる雰囲気ではなかった。




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