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4

「なァ」


「はい」


急に声をかけられ、驚いて顔を上げる。


やはりこういう雰囲気の場所は、1人では落ち着けない。


貴史は僅かに目を細めて問い掛けた。


「アンタ元中は」


「中学ですか?」


何故急に中学の話になるのだろうか。


不思議に思いながらも、とりわけ隠す事がないので素直に言う。


「都内の、B中です」


「B中の、近藤か」


そう言うと、貴史は暫く考え込んだ。


嫌な予感がした。


「どうかしましたか?」


やっぱり知り合いだろうか。


運びかけたクラブサンドを口に入れる事もできず、そのままの状態で呟く。


もしかしたら、自分が気付いていないだけで、出会ってはいけない人間だったのかもしれない。


過去の事を思うと、尚更そんな気がした。


「間違ってたら気にすんな。だけど、見た事あるんだよ。アンタもしかしたら──」


意味深な言葉に、ゴクリと生唾を飲む。


その時入り口の鈴が鳴った。


コウが帰って来たのかと安堵し、視線をやる。


「珍しいな。もうやってんのか?」


「なぁ貴史!腹減ったんだよ。何か食わせろ」


しかしそこから現れたのは、体にタトゥーをした黒髪と茶髪の、ガラの悪そうな2人組だった。


茶髪の男は深雪を見た瞬間、目を丸くする。が、すぐにニヤニヤと笑みを浮かべて口笛を吹いた。


「オイオイ、やるじゃねぇか貴史。オンナ連れ込んじゃってんだ?」


隣に立っている黒髪も一緒に囃し立てる。


見るからに素行の悪そうな男達だ。


いわゆるチンピラというものだろう。


「すっげぇ美人じゃん。こんちわー」


たちまち左右から挟み込まれ、深雪は怯えて身を退く。2人の行動はいつもの事なのか、貴史は慣れた口調で追い払う。


「おい、やめろ。そいつは客だ」


「客?んだよ。なら遠慮いらねぇじゃん!」


男達はゲラゲラと笑い声を上げ、深雪の肩を抱いて引き寄せた。唇が間近に迫り、身震いをして押し退ける。


「いやっ……やめて下さい!」


「カワイー!」


下品な声を響かせると、嫌がる深雪を抱き寄せ、更に唇を近付ける。


「嫌だったら!やめてっ」


精一杯抵抗するが、当然女の深雪には太刀打ちできそうもない。


「こんな所に来て、なに言ってんだよ。それともそういうのが好きなのか?」


「そりゃぁイイ!じゃあさっそく近くのホテルにでも行くか」


手首を掴まれ、引っ張り上げられる。


なんとか腰に力を入れて抵抗する。


「離して!」


「おい、やめとけよ」


貴史は眉を寄せながら言い、深雪の腕を掴んで引き寄せる。


ナンパを邪魔されたのが気に障ったのか、2人は友人であろう貴史に食ってかかった。


「あぁ?お前は引っ込んでろよ」


「今更カッコつけてんじゃねぇよ」


口々に凄むが、貴史は全く臆する様子を見せない。


「コイツはコウのオンナなんだ。お前等死にたくないだろ」


その言葉に、男達はあからさまに顔色を変えた。


「コウ?コウって……アイツか」


彼らはコウの事を知っているらしい。


「あぁ。今は出てるけど、すぐ戻ってくるぜ。だから今のうちに帰れ」


2人は絶句する。しかしそれは、怯えた絶句ではなかった。


「そいつはいい所に来たぜ。あの野郎のオンナだっつーなら尚更退けねぇよ。こっち来い!」


表情を一変させ、怨みのこもった目で深雪を睨み、腕を掴んでソファーに押し倒した。


「痛ッ……!」


硬いシートに押し付けられ、痛みに眉を寄せる。


「運が悪かったな、ねーちゃん。俺等アイツには恨みしかねーんだわ。アンタをレイプしてやったら、きっとアイツは物凄く喜ぶだろうなぁ」


馬乗りになると、両手を頭の上で捉える。


サッと表情を青ざめ、逃れようともがく。


「やめて!離してっ」


「うるせぇ!喚くなっ」


頬を叩かれ、か細い悲鳴を上げる。


助けを求めようと貴史に視線をやるが、何故か彼は黙ってこちらを見ているだけだ。


まるで何かを確かめるように。


振り向くと、馬乗りになった男が、カチャカチャとベルトを外していた。


(コウ……助けてっ)


しょせんは貴史も、彼らと同じ穴の狢なのだろう。


このままでは2対1──下手をすれば3対1にもなりかねない。


涙を浮かべ、ぎゅっと目を閉じる。


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