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「それじゃあ、また月曜日に」
再び崎村を呼び寄せると、皆を駅まで送り届ける。
無意識に顔が綻んでいたのか、崎村はバックミラー越しにこちらを見た。
「随分とご機嫌ですね」
「えぇ。こんなに充実した休日は久しぶりだったわ」
女同士でお喋りをして、美味しいものを食べて自分磨きをする。
今まで自分には別の世界のものだと思っていた事ばかりだ。
「コウは家にいるわよね?」
「はい、お出かけするご予定は伺っておりません」
「じゃあ、ちょっとスーパーに寄って貰えるかしら。夕飯の買い出しをしたいの」
「はい、かしこまりました」
崎村はウィンカーを上げると、近くのスーパーの駐車場へと入って行った。
「ただいま」
深雪が帰宅したのは、予定通り午後6時を少し過ぎた頃だった。
ドアを開けて玄関に入り、ふと違和感を抱く。
いつもは2人の勤務用の靴が揃えてあるのに、何故かシューズボックスに隠すようにしまわれていたのだ。
「おかえり、楽しかった?」
奥からコウが現れ、笑顔で出迎える。
「えぇ。楽しかったわ。──誰か来ていたの?」
なんとなく、そんな気がした。
しかしコウは「まさか」と笑い、逃げるように戻っていく。
深雪も買い物袋を下げながら後を追う。
リビングに入った瞬間、強いタバコの臭いがした。
「タバコ吸ったの?」
普段はもっぱら小物入れにしていたクリスタルの灰皿には、山盛りの吸殻が入っている。
「あぁ、ごめん。仕事に集中していてつい。窓開けるよ」
窓が全開になると、少しだけ臭いがマシになった。
「少し吸いすぎよ。気を付けてね」
灰皿を片手にシンクへ向かう。中身を捨てようとした時、ふと気づいた。
コウが吸っているのはケントの9ミリロングだ。
しかしこの中には、もうひとつセブンスターの吸殻が入っていた。
「……」
やはり、誰か客が来たのだ。
しかもこの銘柄には見覚えがある。
確か──。
(まさかね。もう縁を切っているはずだもの。今更会うはずがないわ)
これは何なのか気になる。
しかし、なんだか触れてはいけない気がして、黙って吸殻をゴミ箱に捨てた。




