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「気持ち良かったね。来て正解だった」
「たまには贅沢しなきゃ、やってられないわよね。って言ってもスパだけど」
4人でテーブルを囲い、料理を食べながら談笑する。
「本当。初めて来ましたけど、凄くスッキリしました。今度エステに行ってみようかしら」
サラダを食べながら、深雪は楽し気に言う。
優達の手がピタリと止まった。
「え?深雪ちゃん、エステ行った事ないの?」
週1くらいで通ってそうなのに、と瑞穂は笑う。
どういう意味かわからず、深雪はフォークを持ったまま首を傾げた。
「え?そうですか?」
「ほら、深雪ちゃんってお嬢様じゃない?なんかイメージ的に行ってそうだから」
「お嬢様だなんて、そんな事ありません」
慌てて首を振り、フォークの先でミニトマトを転がす。
確かに見た目や口調からそう思われても仕方ないだろう。
そう見える様に努めているし、女優の仕草や口調を散々勉強したのだから。
しかし、いざそうだと判断されてしまうと、なんだか騙している気分になった。
「私、皆さんが思っているようなお嬢様なんかじゃありません。家も普通のアパートでしたし。こんな場所も、初めて来たんですよ」
「そうなの?深雪ちゃん、口調もおっとりしているし丁寧だから、てっきり由緒正しい家庭かと思ってたわ」
さゆりは野菜ジュースを飲みながら微笑む。
優も同意する様に頷く。
「私もそう思ってたよ。なんか、雰囲気とかオーラとかがそんな感じ」
「そうですか?」
そう努めてきたのだから、本当は素直に受け入れるべきなのだろう。
だがそれができないのは、やはり偽っているという負い目からだ。かと言って、彼女達に本当の自分を見せる事はできない。
「じゃあ深雪ちゃんって、いわゆるプチ玉の輿なのね!なんたって旦那さんは大企業の社員なんだし」
「プチ玉の輿って、アンタね。ちょっと失礼だよ」
「あ……」
プチは余計だったと気付き、瑞穂は口元に手を当てる。
しかし深雪は、気にすることなく笑顔で頷いた。
「そうですね。プチ所か、本当の玉の輿かもしれません。今と昔の生活は、全然違いますから」
呟き、懐かしむ様に目を閉じる。
その様子を見ながら3人は黙って顔を見合わせた。
今まで旦那の事ばかり気にしていたが、ひょっとしたら、もっと大きな謎が隠されているのかもしれない、と。
「ここのお料理、とても美味しいですね」
そんな彼女達の内心に気付かず、深雪は嬉々として皿を持って立ち上がった。