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「……遅ぇな!」
コウは苛々しながら煙草に火をつけた。
今日こそ『アイツ』と話をつけようと、深雪が不在の今日、部屋に呼びつけたのだ。
確かアイツには、今すぐに来いと言った筈だ。にも関わらず、電話をかけてから2時間も経過している。
一体何をしているのか。
「くそっ!早くしろよあの野郎ッ」
トントンと指で机を叩き、時計に目をやる。
先から何回も電話やメールを入れているが、一向に音沙汰が無い。
また電話をしようと携帯を取り出したとき、チャイムが鳴った。
画面に映ったのは、待っていた『アイツ』だった。
「遅ぇよ!さっと来い!」
画面に向かって怒鳴り、オートロックを解除する。
自宅のチャイムが鳴らされたのは、それから3分後だった。
「よぉ!久しぶりだな。しっかし、すげぇマンションだな」
「久しぶりじゃねぇよ!何時間経ってると思ってんだ!?」
そこには金髪の男が笑みを浮かべながら立っており、コウの肩を叩きながら靴を脱ぎ捨てた。
そしてそのまま、ドカリとソファーに座って足を組む。
「悪い悪い。ちょっと野暮用でさ。つーか六本木に住んでるって聞いた時もビビったぜ。入る前にさ、警備員に止められちまったよ。お前がロック開けた瞬間、急にペコペコしやがって」
ハハハ!と大声を上げて笑い、男──笹川恭平は膝を叩く。
恭平は黒いスーツに赤いシャツ、加えてサングラスをかけており、止められるのも仕方ない格好だった。
コウは心の中で、やっぱり呼ぶんじゃなかったと思った。
そんな顔から心情を察したのか、恭平は目を細めて立ち上がる。
「なぁ、苛々するなって。俺らさァ、ガキん時からの親友だろ?」
しかしコウは、怯む事なくその手を振り払った。
「調子に乗るな」
眉を寄せて言い捨て、背を向ける。
「つーかさ、今かなりヤバイんだよ。お前の助けが必要なんだって」
恭平は悪びれもなく笑い、再びソファーに腰を下ろした。
「そこに座るな」
「なんだよ。別にいいだろ」
「ダメだ。そのソファーはお前より高いんだ」
冷たく言い放ち、冷蔵庫から缶コーヒーを出して放り投げる。
恭平はそれを片手で受け取ると、ラベルを見て舌打ちをした。
「なんだよ、ビールじゃねぇのかよ……」
しかしコウの顔を見たとたん大人しくなり、黙ってプルタブを開ける。
「毎日毎日電話だのメールだのよこしやがって。お前はタチの悪い女か」
今まで何度も言っていた言葉を再び口にし、椅子に座る。
「まぁまぁ、そう怒んなって。俺ら親友じゃねぇか」
「…………」
コウは否定も肯定もせず、黙ってペットボトルの水を飲む。
深雪が帰るまで、あと2時間しかない。
それまでに何とか話をつけなければ。




